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「ネットスラング」、ルーツは国内最古の歌集に

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 「今日は早くカエル(蛙の絵文字)の?」。ある日、母からこんなメールが来た。今はやりの「おかんメール」(母親からの珍メール事例を集めた本)ではないが、絵文字入りのメールを五十路を超えた母が送ってきたのをほほ笑ましく思いながら、ふと考えた。ひらがな、カタカナ、アルファベットや絵文字まである現代と違い、漢字しか文字のなかった時代にはどんな「言葉遊び」があったのだろう。調べてみると、国内最古の歌集「万葉集」にも現代のネットスラングに通じる文字表現があることがわかった。

万葉集は、8世紀後半の奈良時代に成立したとされる現存最古の歌集。その時代の文字は漢字1種類だけだった。そこで、やまとことばを漢字に当てはめて表記する「万葉仮名」という独特の表記法が採用された。その際に、古代の日本人はしばしば、かなりひねりを利かせた言葉遣いを発明している。

絵文字的なとぼけた感覚 「遊び心当て字型」

例えば、わざと文脈から外れた動物などの漢字を当てて、視覚的なおかしみをもたせる例がある。作者不詳の次の歌がその例だ。

杜若につらふ君をゆくりなく思ひ出でつつ嘆鶴鴨」(※太字部分は読み下し)

【意味】かきつばたのように美しい顔色をしているあなたを、ふと思い出してはため息をついたことだなあ

最後の「嘆鶴鴨」の読みは「なげきつるかも」。ここでは「鶴」「鴨」と鳥の名前を使っているが、内容は完了の助動詞の連体形「つる」と詠嘆の終助詞「かも」のことで、鳥とは無関係だ。

万葉集にはまた、「馬声蜂音石花蜘●荒鹿(●はむしへんに厨、いぶせくもあるか)」というのもある。「心が晴れないことだなあ」という意味だ。この場合、馬や蜂や蜘●は意味とは全く無関係。当時の日本人は、馬の声を「い」と聞き、蜂の飛ぶ音を「ぶ」と聞いた。石花は当時「せ」と呼ばれていた貝の一種という。

意味とは関係がないが、この字を目にした当時の人々は、思わずクスッとしたのではないだろうか。

日本語学が専門の早稲田大学の笹原宏之教授は、「コンパいける鴨」など現代のメール文でも終助詞の「かも」を「鴨」に置き換える例があることを挙げ、「文末に鴨を突然登場させることで、一種の絵文字的な、とぼけた感覚を生み出そうとしている。こうした遊び心という点で万葉集も、現代のネットスラングも通じるところがある」と話す。サーバーのことを「鯖」と書いたり、スマートフォンなどで自分を撮影する「自撮り」を「地鶏」と書いたりなど、現代のネットスラングも動物などの漢字をわざと使うものは多い。

ネ+申=神 「文字結合型」

ネットスラングには、片仮名の「ネ」と漢字の「申」を合わせて「神」と読んだり、「糸」と「冬」で「終」と読ませたりなど、別の文字を組み合わせて一字とする例がある。半角片仮名の「タ」「ヒ」を組み合わせて「死」、片仮名の「チート」(いかさま、ずるの意味)を一文字で「升」などもそうだ。

この「文字結合型」の言葉遊びも万葉集に類例がある。「山上復有山」。山の上にまた(復)山有り、と書き、この5字で「出(い)づ」と読む。「出」という漢字を分解すると山が二つ上下に重なっていることから生まれた謎かけのような言葉遊びだ。

また海女のことを万葉集では中国の地名「白水」に潜水のうまい人がいたというところから「白水郎(あま)」と読んでいるが、これも「泉郎」と書かれることがある。泉を分解すると白と水になるからだ。

888888…で拍手 「数字多用型」

数字を使った音合わせも言葉遊びの定番だが、これも万葉集に表記例が幾つもある。例えば次の歌。

「言云者 三々二田八酢四 小九毛 心中二 我念羽奈九二」

【意味】口に出していえばたいしたことがないように聞こえるでしょうが、心の中では深くあなたを思っているのです

この和歌の上の句「三々二田八酢四」は「みみにたやすし」と読み、数字を当て字のように用いている。その後も「九」と「二」を2回ずつ使っており、意図して数字を並べていることがわかる。

他にも「八十一」と書いて「くく」、「十六」と書いて「しし」と読むなど、かけ算を用いて読み仮名をあてる例もある。

ネットの世界でも数字を使ったスラングは多い。「888888(拍手、ぱちぱちぱち……)」や「2828(にやにや)」「2娘1(にこいち、2人で1つといえるほど仲がいいこと)」――。数字こそ洋数字に変わっっているものの、そのパターンは1200年前と変わらない。

このほか「義之」を「てし(手師)」(文字をたくみに書く人)と読ませるものもある。これは中国の東晋時代の大書家「王羲之」の名前をもじったものだが、当世の有名人の名前を別の読み方で表すのは、「天才」と書いて「イチロー」などと読ませるのとも通じるところがある。

言葉遊び生みやすい日本語の構造

もちろん、当時の教養人が書き言葉でつづった万葉集と、教養が平均化している現代人が口語でつづるネットスラングとでは事情が異なる点はある。例えば、ネットスラングは変換ソフトによってより同音異字の書き換えがしやすくなっていたり、電子掲示板で攻撃的な文言が規制されるのを避けるためにわざと言い換えをしたりしているなどの事情がある。

それでも、現代のネットスラングと現存最古の歌集である万葉集との間で、今も昔も変わらない言葉遊びの手法が通用するのはなぜだろうか。

その理由は、日本語の構造に求めることができる。「性格」と「正確」、「医師」と「意志」など、全く意味は異なるのに音は同じという言葉は数多い。音の一致をたよりに意味の異なる漢字をあてよう、という発想が生まれやすい素地が日本語にはある。

梅花女子大学の米川明彦教授は「もともと漢字は偏とつくりとで自由に意味を組み合わせることができる、遊びやすい文字だ」と述べる。漢字を分解して組み立てなおすという発想は、漢字を常用する日本人には自然に生まれやすいわけだ。

もっと根本的に、わざわざそういうことをして遊ぶ性質が日本人にはあることが原因だという考えもある。

笹原早大教授は、日本語の構造だけではなく、日本語を操る日本人の心性に理由があるのではないか、と考える。「漢字を日常的に使う民族の中で日本人は特に言葉の表記から醸しだされるニュアンスに愛着を感じる気質を持っているといえる」(笹原教授)。

現在の趨勢はアルファベット活用型か

文面だけでは表現できない微妙な情緒を伝えるために、表記を工夫して変えたり、記号や絵文字を使ったりするようになる。言葉にどうやって繊細な感情やニュアンスを込めるかに専心する性質を持つ日本人だからこそ、これだけ言葉遊びが発達するようになったのではないだろうか。

こうした一定のパターンに従った言葉遊びは、江戸時代、明治時代……と近世に入って以降も連綿と続いている。米川教授によると、現代のネットスラングはアルファベットを活用するのが趨勢になっている。「KY(空気読めない)」「ktkr(きたこれ)」「kwsk(詳しく)」など、言葉の頭文字をアルファベットにしてつなげるタイプのスラングが増えているという。グローバル化が進む中、万葉集の時代にはなかったアルファベット、さらには絵文字や記号なども巻き込みながら、言葉遊びは今もなお広がり続けている。(山本紗世)

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