商品・サービス販売促進のための広告やキャンペーンを実施しない企業は、ほとんど存在しません。そのわりには、景表法を始めとする法令・規制の理解に自信がないという方、法務パーソンを含め結構多くないでしょうか?

公正競争規約があるような業界ですと、決まった型みたいなものができているのかもしれませんが、比較的新しいIT系やウェブサービス業界に身を置いていますと、苦手、もしくはほとんど意識や対策をしてない方も少なからずお見受けします。

そんな中、ご存知の通り景表法改正により規制・取り締まりが強化されようとしています。しょうがない、じゃあ勉強しようかと重い腰を上げようにも、なかなか良い書籍・テキストが見当たりませんし、定評あるセミナーにもお目にかかったことがありません。そこで今回は、こういう順番・フレームワークで捉えると理解しやすいんじゃないかな?と私が考える学び方と、それをサポートしてくれる情報源をメモしたいと思います。


1 商売の流れを意識して当てはめを考える


広告・キャンペーン規制を学ぶ際の入り口のコツとして、商売の流れを意識して適用される規制を検討するとよいと思います。

たとえば、景品表示法を例に上げると、同法は3条で過大な景品類を提供することを、そして4条で不当な表示をすることを規制する法律となっています。一方で、実際の商売の流れは法律の建て付けとは順序が逆で、商売の前半フェーズでは言葉巧みに新規顧客を誘引しようとする点、不当表示規制を検討するウェイトが高く、後半フェーズでは商品・サービスまで辿り着いてはいるものの購入を迷う人の背中を+αでもうひと押しようとする点、景品規制や値引きの妥当性を検討するウェイトが高くなります。真ん中のフェーズでは、その両方を意識する必要があり、その分危ない場面や規制の見落としの可能性も増えがちになる、というわけです。

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このように、商売の流れの中での現在地を意識して法令・規制の当てはめを考えると、必要な情報の検索もしやすくなります。

2 体系を捉えてから各論を深堀りする


さて上記1のように大きな枠で規制の焦点を合わせた上で、具体的な中身を学習していきます。ここで、景表法の書籍を1冊でも読んだことのある方は、次々に飛びだす景表法用語とその複雑な構造に面食らった覚えがあるはずです。面食らったまま終わらないために重要なのは、各規制の体系を把握した上で、それぞれの各論を深堀りすること。あらゆる勉強法の鉄則ですね。

そして体系を理解するには、本当は自分で手を動かして図を書くと良いのですが、今回は参考に、私が作ったものを貼っておきます(まとめ方はこれに限らずいろいろあると思います)。

(1)広告(表示)規制の体系

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体系図で見ると分かる通り、広告(表示)規制の奥深さは、景表法だけでなく他の法律にもまたがっているところにあります。景表法は禁止義務のみを規定しますが、特商法や資金決済法には逆に表示を義務付ける規定もあります。さらに、商品・サービスによっては、食品表示法や薬事法や宅建業法などの業法に定められた規制・義務もチェックしなければなりません。

この広範さが、広告(表示)規制の面倒なところなわけですが、体系を抑えておくことでリスクのアンテナは立つようになるはずです。

(2)キャンペーン規制の体系

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景品・値引き・アフターサービス・付属品といった、+αのメリットを訴える販促手法は、意識しないと表示規制に気を取られて見落としてしまいがちなところ。冒頭タテ1で述べたように、広告(表示)規制とキャンペーン規制を二分する意識をもちながら、重なりがあるところでは見落としがないようにするのも大事です。

その上で、景品キャンペーン規制を深掘っていきます。図をみてわかるとおり、景品キャンペーンにはかなり細かな規制の枝分かれがあるのが特徴。ですが体系を先に把握すると、細かな規制を記憶するスピードもアップするはず。具体的には、景品類の提供には「懸賞による提供」/「懸賞によらない提供」の大きく2つの方法しかないことを知っていると、その下にそれぞれぶら下がっているいくつかの例外(カード合わせ、オープン懸賞、試供品等の総付適用除外)も、理解と記憶がラクになります。

3 苦手意識を抱きやすい3つのポイントをあらかじめ知っておく


本稿はあくまで「学び方」を解説するものですので、あまり各論について解説するつもりはなかったのですが、景表法で初学者がよくつまずくポイントに3点だけふれておきます。すでに苦手意識を感じてしまった方は、この3点をクリアするだけでも、視界がかなり変わるんじゃないでしょうか。

(1)混同しがちな「優良誤認」と「有利誤認」を区別するコツ

優良誤認:商品・サービスの内容を実際よりも著しく優良であると示す表示
有利誤認:商品・サービスの取引条件(価格等)を実際よりも著しく有利であると示す表示

「優良」と「有利」という言葉が似ているため、慣れないとどっちがどっちかわからなくなります。ここでは下線部の「内容」「取引条件」をセットで覚えるのがコツ。そこを意識すると、たとえば不実証広告規制ってどっちに及ぶんだっけ?と考える際にも、「商品の内容に関してウソをついてないか」が試されるから優良誤認に及ぶ、というように有機的に覚えられます。

(2)「懸賞」と「総付」、それぞれに定められた限度額はとにかく記憶

商品・サービスの購入者の一部に抽選や競争の結果で景品を与えるのが懸賞。
商品・サービスの購入者全員に漏れ無く景品を与えるのが総付。

そこまでは誰もがカンタンに覚えられるのですが、景品提供方法それぞれの景品最高額・限度額が頭に入らない人がいます。これに関しては覚えるか覚えないかの問題で、この2つの表を頭にいれるしかありません(消費者庁ウェブサイトより)。いつかは覚えなきゃいけないので、観念して早めに覚えてしまいましょう。

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(3)「値引き」は原則自由だが、「二重価格規制」の落とし穴に注意

有効な販促手法の一つである「値引き」は、みなさんの身近にあるスーパーマーケットなどでも行われているとおり、正常な商慣習に照らして認められるレベルであれば、規制はかかりません(割引券としての配布方法によっては景品規制に抵触したり、独禁法上不当廉売にあたる場合あり)。

しかし、過去の販売価格や虚偽の定価等と比較した値引き額を表示して販売すると、今度は表示規制である「二重価格規制」に抵触するケースがでてきます。値引きすること自体は悪いことではないが、比較対照している価格が適切でないと不当表示として問題となる、というわけです。ここで、景品規制→値引き→表示規制と、体系のスキマをまたいで規制を考えなければならないところが、思考回路ができるまではちょっと混乱するかもしれないところです。

さらに、過去の販売価格と比較する場合、その比較対象となる値引き前の表示金額は「最近相当期間にわたって販売されていた価格」でなければなりません。この「最近相当期間」と認められるための条件が難しい。ガイドラインに文字で書いてあるものの、読んでいても普通の人はわからないはず。そんなときはこのフローチャートが頼りになります(後掲『景品表示法〔第3版〕』P92より)。

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補:新しいマーケティング手法に対する規制


広告・キャンペーン規制の奥深さは、新しい手法がどんどん開発されるのに対し、法律がそれに追い付ききれてないところにもあります。本稿では触れませんでしたが、
・検索連動広告
・アフィリエイト広告
・リワード広告
・フリーライドマーケティング
・ステルスマーケティング
と、次々生まれるマーケティング手法に、法務としてどう対応していくかも重要なテーマとなっていくでしょう。この話は、またどこかでご披露できればと思います。

情報源


最後に、情報源として、参考文献、ウェブサイト、告示・ガイドラインのリンク集を置いておきます。

◯参考文献
冒頭述べたように、広告・キャンペーン規制はこれ一冊でわかる!という文献がないのですが、私が読み漁った本の中からいくつかピックアップしてみました。

▼『景品表示法〔第3版〕』


これは持ってないとお話にならないです。消費者庁編著で、一見告示やガイドラインを踏襲しているだけのように見えるのですが、ところどころ二版→三版で書き加えられたところや、消費者庁見解より踏み込んだ記述があります。その記述の存在が見抜けるようになれば、中級レベルは卒業と言えるでしょう。

▼『広告表示規制法』


この本はご存知ない方も多いかもしれません。750ページを越える厚みをもち、不当表示規制の分野についての網羅性はピカイチです。業法における広告表示規制の一覧が掲載されているのが貴重。さらに外国の表示規制までも紹介されています。

▼『その表示・キャンペーンは違反です』


特に景品規制について、規制の背景や趣旨、そして実務での景品のバリエーションに深い理解のある実務家が平易な言葉で解説。ポイント制・値引きとのすみわけもよくわかります。ただし出版後かなりの時間が経過しているため、改正部分は自分で補完しながら読む必要があります。

▼『広告法務Q&A』
広告法務Q&A
公益社団法人 日本広告審査機構(JARO)
宣伝会議
2014-09-29


先月弊ブログでも紹介しました。最新の景品および広告表示の両面のネタが取り上げられています。

◯ウェブサイト
上記の本が改訂されるまでは、以下で最新の情報をアップデートしましょう。

消費者庁ウェブサイト 景品表示法
弁護士植村幸也公式ブログ: みんなの独禁法。

◯告示・ガイドライン
景品表示法は、告示・ガイドラインが複数存在しており、どれがどの規制のガイドラインか覚えるまで大変ですが、条文にないルールがすべてこちらに書かれていますので、面倒でも都度これらに当たって確認する必要があります。

不当景品類及び不当表示防止法第2条の規定により景品類及び表示を指定する件
景品類等の指定の告示の運用基準について
景品類の価額の算定基準について
懸賞による景品類の提供に関する事項の制限
「懸賞による景品類の提供に関する事項の制限」の運用基準
一般消費者に対する景品類の提供に関する事項の制限
「一般消費者に対する景品類の提供に関する事項の制限」の運用基準について
インターネット上で行われる懸賞企画の取扱いについて
不当景品類及び不当表示防止法第4条第2項の運用指針 ―不実証広告規制に関する指針
不当な価格表示についての景品表示法上の考え方
比較広告に関する景品表示法上の考え方
見にくい表示に関する実態調査報告書(打ち消し表示の在り方を中心に)
No.1表示に関する実態調査報告書
インターネット消費者取引に係る広告表示に関する景品表示法上の問題点及び留意事項
オンラインゲームの「コンプガチャ」と景品表示法の景品規制について
インターネット上の取引と「カード合わせ」に関する Q&A


以上、私自身手探りで学んできたところをつらつらと書いてみましたが、同じような境遇でお悩みやお困りを抱えた方に、ちょっとだけでもお役に立てれば幸いです。