イオンがアマゾン的誘客術、格安タブレットで通販へ
イオンリテールが2月に全国350店で販売を始めたタブレット(多機能情報端末)「イオン得するタブレット」。端末代と通信費合わせた利用料金は月額2354円だが、イオンのネットスーパーやネット通販で月額5万円(税別)以上使えば、ポイント還元によって実質無料となる。イオンはこの「大盤振る舞い」を中長期的に進める次世代の販促と位置付ける。
「このタブレットをイオンの入り口として使ってもらいたい」。同社オムニチャネル推進本部インフラ構築グループの備仲日出男マネージャーはタブレット発売の意義を強調する。
昨春発売した格安スマホに次ぐこの「イオン端末第2弾」には、チラシ閲覧やネットスーパー注文などイオンが提供するアプリが導入してある。スマホより画面が大きいためシニア層にも購入が広がっているという。端末は中国のファーウェイ製の8インチタブレット。通信会社ワイモバイルの通信サービスを利用しインターネットに接続する。
メーンターゲットはイオンの主要顧客である主婦層だ。イオンにとっては来店頻度の高い顧客層に情報端末を使ってもらって、もっと効率的な販促手法を根付かせる仕掛けにしようとしている。
イオンはこれまで、クレジットカード会員などにはセール情報などを知らせるダイレクトメール(DM)を送付してきた。これまでのDMを購入履歴などをもとに顧客を500種類ほどに提供情報を振り分けたのが約2年前。乳幼児用品や酒類といった特定商品カテゴリーを買った顧客に、類似の新商品を紹介するといった購買履歴をもとにした「リコメンドDM」を始めた。
しかし、紙を郵送するDMはどうしても印刷・配送コストが伴う。そこでイオンが着目したのが米アマゾン・ドット・コムが展開するタブレット「キンドルファイア」のビジネスモデルだ。格安で端末を利用してもらって本業のネット通販へと顧客を誘い込む仕組みだ。イオンがスマホに次いでタブレットを発売した根底には、アマゾン流の個人個人に最適な商品を提案する次世代販促を取り入れる狙いだ。
サービス開発を主導する備仲氏は「特定の顧客に深く浸透する仕組みをどう提供できるか。常に考え続けなければならない」と話す。現時点で、情報アプリ「イオンおトク」ではサイトの閲覧履歴に基づいて選ばれる新商品情報やキャンペーン情報、新しい売り場の特集などを表示する。DMの500種類に比べ「もっと細かな趣味嗜好に対応できる」(備仲氏)。既にリコメンド機能の実験を一部地域で始めており、今後は年齢や性別、居住エリアのほか購買履歴などに基づいたお薦め情報の提供も検討する。
リコメンドは豊富な品ぞろえを持つネット通販でこそ生きる機能だ。これまでイオンの主要顧客層はネット通販へのなじみが比較的薄く、低価格端末の発売はリコメンド情報を届けるインフラ作りという側面もある。
実店舗を持つ小売業が情報端末を格安で発売して、端末経由でリコメンド情報を届けるのは英小売り最大手テスコなどが先行する。タブレット発売を「手元にイオンの窓を」(備仲氏)と位置付けて、次世代への囲い込み戦略を推進していく考えだ。
(細川幸太郎)
[日経MJ2015年3月25日付]