植物から発想された「どんな液体でも弾く素材」の研究

『サイエンス』誌に発表された論文によると、微細な繊維でつくられたパターンによって、現在知られている最も表面張力の低い液体でもはじくことのできる表面が実現された。
植物から発想された「どんな液体でも弾く素材」の研究

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テフロン加工やセラミックのフライパンは忘れよう。なぜなら今後、「焦げ付き防止」は新しい意味をもつからだ。

カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の研究者チームは、既知のあらゆる種類の液体を、その表面張力に関係なく弾くことのできる手段を実現した。

『サイエンス』誌上で解説されているこの新発明が従来の撥水素材と大きく異なるのは、特殊な化学物質を用いるのではなく、これが物理的特性によるものだということだ。ナノスコピック(微視的)な繊維のパターンで、どんな素材の上にでも再現できる。そして、工業から医学、台所用品まで、非常に広い分野での応用が期待されている。

水は表面張力が強く、分子間に強い凝集力があるため、他の物質と簡単に分離される。油のように表面張力が弱い液体だと、そうはいかない。実際に、調理用油を一般的な焦げ付き防止加工のフライパンの上に注ぐと、油が表面上に広がるのを見ることができるはずだ(これが水であれば、球状の水滴を形成するのだが)。

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そして物理学者たちは、疎油性をも実現することに成功した。

彼らは自然からインスピレーションを得た。植物の葉は非常に細かい毛で覆われているが、これによって液体と接触する表面をより少なくして、液体を弾く力を極度に高める。

疎水性の素材の上にこの仕掛けを再現して、油がテフロン加工のフライパン上の水のようにふるまう疎油性の表面を発明した。それだけでなく、手の上で水銀が球状になるように水滴が転がっていく超疎水性の表面、さらには超疎油性の表面までもが発明された。

しかし、上を見ればきりがない。UCLA の研究者たちが研究したのは、 超疎水性の素材に使わるナノレヴェルの超微小繊維デザインだ。彼らは繊維の先端にT字に似た形を与えることによって、表面と接触するあらゆる液体の表面張力を指数的に増加させ、すべてを弾くものにすることに成功した。

「宇宙船の中では、液体が球を形成して宙に浮かんでいるのが見られます。これは、液体が完全に空気によって囲まれているからです。わたしたちの考え方はこれと同じです」と、論文の第一著者、ティンジー・”レオ”・リウは説明する。

「わたしたちが実現したナノスコピックな繊維上では、液体は95%が空気で構成されるクッションの上に置かれます。その表面張力が液体を凝集させ、接触面上を転がらせるのです」

UCLAの研究者たちによって作成されたムーヴィーで見られるように、彼らのつくり出した表面は、水も、メタノールも(はじくのが極度に難しいメチルアルコール)、現在知られている最も表面張力の小さい液体、ペルフルオロヘキサンもしくは FC-72 も、同じように弾くことができる。

この技術は、非常に多くの領域での利用が期待される。建設中の資材や重機を悪天候から保護するために。生物医学分野において、体液によって引き起こされる損耗から機器を保護するために。そして、非常に高価な焦げ付き防止フライパンを実現することだって、悪くない。

TEXT BY SIMONE VALESINI

TRANSLATION BY TAKESHI OTOSHI