年末は大忙しでも年が明けてしまえば、ゆったり過ごせるお正月となるわけですが、このところ、海外旅行に行ったり、帰省したりという人ばかりではなくなっているように感じます。正月気分でおとそにおせちに...というのも元日だけで、松の内どころか、三が日のうちに通常モードなんて方も多いのではないでしょうか。ショッピングモールや家電店など元日から営業しているところも多いのですが、やはりそうしたところには人が集まるもの。人混みは初詣だけで十分という方は、結局、うちに帰って寝正月となってしまうのでは?そんなとき、穴場なのがミュージアムです。美術館が三が日からやっているわけないじゃない、とお思いかもしれませんが、意外や意外、4日から開館は当たり前。2日から開いているところも多く、元日に開館しているところもあります。テレビは観たいものもないし、初詣のついでに、"新年は美術館・博物館に初詣"というのはいかがでしょう?

お正月気分でいっぱいの上野へ!

美術館・博物館の三が日開館の先駆けとなったのがトーハクこと東京国立博物館です。2015年も「博物館に初もうで」として、2日より開館します。本館玄関前では池坊・蔵重伸氏によるいけばなが出迎え、本館前のユリノキを囲むように、和太鼓や獅子舞、太神楽などが実演され、お正月ならではの雰囲気でいっぱいになります。

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恒例となった「博物館に初もうで」は1月2日から。写真は2014年の獅子舞

本館では新春特別公開として、長谷川等伯筆による「国宝 松林図屏風」といった新春らしい名品が公開されます。ひつじと吉祥2015年の干支にちなんで、「重要文化財 十二神将立像 未神」をはじめとした、中央アジアから東アジアまで羊に関連した作品を一堂に集めて紹介する「特集 博物館に初もうで~ひつじと吉祥~」も楽しそう。また、耐震工事のため2012年4月から休館していた黒田記念館が、いよいよ1月2日より公開されます。1月12日までは、新設された特別室において黒田清輝の代表作「湖畔」「舞妓」「智・感・情」「読書」の4作品が特別公開されます。

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国宝 松林図屏風(右隻)長谷川等伯筆 安土桃山時代・16世紀 東京国立博物館蔵

2015年1月2日(金)~1月12日(月・祝)まで本館2室(国宝室)にて展示

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重要文化財 十二神将立像 未神 京都・浄瑠璃寺伝来 鎌倉時代・13世紀

2015年1月2日(金)~1月12日(月・祝)まで本館特別1室 特集「博物館に初もうで~ひつじと吉祥~」にて展示

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黒田清輝筆 重要文化財「湖畔」の展示風景(モデル:藁科早紀)

人気のトーハクですので、2日は開館前から列ができるほどです。混雑を避けるなら、3日の午後以降とか、三が日を外すのが狙い目かもしれません。

美術館・博物館が多くある上野だけあって、トーハクのほかに国立西洋美術館も1月2日から開館しています。同館では、19世紀末から20世紀初頭のスイスを代表する画家、フェルディナント・ホドラーの大回顧展「日本・スイス国交樹立150周年記念 フェルディナント・ホドラー展」を開催中です。キービジュアルにもなっているアルプスの山々を描いた作品を集めた「変幻のアルプス」のコーナーは展示室を本展のために真っ白に塗り替えており、まるで雪山の中のギャラリーのようです。館内のカフェ「すいれん」は混雑する上野では比較的、狙い目かもしれません。

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国立西洋美術館も1月2日から開館

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「雲のあるメンヒ山」(左)と「シャンベリーで見るダン・ブランシュ」

(いずれもフェルディナンド・ホドラー)。フェルディナント・ホドラー展より

このほか、国立科学博物館は2日から、東京都美術館、東京藝術大学美術館は5日から、「進撃の巨人展」を開催中の上野の森美術館は、年末年始は休まず開館しています。

お正月らしく日本画を堪能

お正月らしく日本の美しさに触れるなら、日本画に力を入れた美術館を訪れるのはいかがでしょう? 

東京・広尾にある日本画専門美術館の山種美術館は1月3日より開館します。同館で開催中の「没後15年記念 東山魁夷と日本の四季」は日本各地の自然と風景を詩情豊かに描き続けた日本画家・東山魁夷の没後15年を記念したもので、「日本の四季」をテーマに魁夷の画業を師や仲間の作品とともに振り返ります。全長9メートルの大作「満ち来る潮」や京洛四季連作の「年暮る」や「北山初雪」では、日本という国の美しさ、日本人の持つ感性のすばらしさにあらためて触れることができます。

もうひとつ、ぜひおすすめしたいのが、島根にある足立美術館。年末年始は休まず元日からの開館です。大観美術館と称されるほど日本画の大家である横山大観の作品を数多く所蔵しており、竹内栖鳳、川合玉堂、菱田春草といった名だたる近代日本画家の作品が堪能できます。現在は優しい気持ちになれる日本画を紹介する冬季特別展「心あたたまる 優しい日本画」を開催中。キービジュアルとなっている竹内栖鳳の「爐邊」の子犬のように、心がなごむ愛らしい動物たちの姿や、思わず笑みがこぼれるユーモアあふれる人物、どこか懐かしい風景を描いた作品が展示されています。

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竹内栖鳳「爐邊」(昭和10年)

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横山大観「冬之夕」(大正14年)

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冬季特別展「心あたたまる 優しい日本画」を開催中

同時に必見なのが、5万坪にもおよぶ広大な庭園。枯山水庭をはじめ、四季折々の表情を見せる庭園は、まるで一幅の絵画のようで、借景となっている自然の山々との調和は日本画そのままです。同じ島根にある出雲大社とあわせて訪れて、年のはじめに日本の美しさ、日本の心に触れてください。

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雪化粧をまとった足立美術館の庭園

元日から楽しめる美術館も

年末年始を温泉につかりながら、という方もいらっしゃると思いますが、そうした方には箱根がオススメです。アート好きなら誰もが知っている美術館がいっぱいある人気のスポットですが、多くの美術館が年末年始は休まず開館しています。ポーラ美術館では元日に来館した先着100名に、オリジナル缶バッジとポストカードのプレゼントがあります。

ポーラ美術館ではシャガール、マティス、ミロ、ダリをはじめとした画家たちが版画の技法で制作した豪華な挿絵本を紹介する「紙片の宇宙 シャガール、マティス、ミロ、ダリの挿絵本」展を開催中です。また、美術をより楽しんでもうらおうと行っているプロジェクト「じっくり/JIKKURI」は必見です。現在展示されている「じっくり 03 光をかえる、光を感じる」では、通常の展示室で設定している「7月のパリの夕暮れ」の光をはじめ3種の光を用意し、この3種の光を自由に切りかえて作品を鑑賞することで、作品の表情の変化を感じることができます。箱根で美術館と日帰り湯、なんていかがでしょう?

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「紙片の宇宙 シャガール、マティス、ミロ、ダリの挿絵本」より(モデル:茂木ミユキ)

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「じっくり 03 光をかえる、光を感じる」(モデル:高野麻衣)

元日から開館している美術館は都心にもあります。六本木ヒルズの森美術館です。日本を代表する現代美術の最先端に出会うことができる美術館で、現在、台湾のアーティスト、リー・ミンウェイの大規模な個展「リー・ミンウェイとその関係展:参加するアート─見る、話す、贈る、書く、食べる、そして世界とつながる」を開催しています。美術館というスペースではなかなか実現が難しい、展示空間での食べる、泊まるといった体験型のアートを行い、好評を博してきた本展は1月4日まで。鑑賞できる最後の機会となります。

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《ひろがる花園》2009年「リー・ミンウェイとその関係展」より。(モデル:茂木ミユキ)

また同館とのセットで楽しまれている東京シティビューにもぜひ。都内随一の高さの屋外展望フロアと屋内展望フロアからは東京のランドマークはもちろん、天候に恵まれれば富士山も。新年の初景色が拝めます。一般入館料が割引になる「晴れ着割引」もありますので、初詣の帰りにもおすすめです。また、六本木ヒルズアリーナでは獅子舞や振舞酒といったお正月ならではのさまざまなイベントが行われます。なお、森美術館、東京シティビュー(展望台も含む)、森アーツセンターギャラリーは改修工事のため、1月5日~4月下旬まで一時休館となります。

新春の京都に詣でるなら?

初詣でにぎわう京都で早くから開館するのが京都国立博物館。上野のトーハク同様に「京博でお正月」として、お正月ならではのイベントが2日から行われます。庭園では「親子で餅つき大会」、平成知新館グランドロビーでは「新春・福引き抽選会」があります。平成知新館は2014年にオープンしたもので、設計はニューヨーク近代美術館などを手がけた谷口吉生。同館特別展示室では2日より新春特別展観「山陰の古刹・島根鰐淵寺の名宝」が開催されます。新しい美術館で新年を清々しく過ごせそうです。

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京博の新しい顔として2014年9月にオープンした平成知新館(撮影:北嶋俊治)

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重要文化財《観音菩薩立像》飛鳥(白鳳)時代、鰐淵寺蔵。「山陰の古刹・島根鰐淵寺の名宝」より

お正月からオトクな美術館は?

最後にオトクな情報をお知らせします。1月2日から開館する東京・清澄白河にある東京都現代美術館では、2日、3日に「開館20周年記念 MOTコレクション特別企画 コンタクツ」展を無料で鑑賞できます。また、両日とも先着50名に美術館オリジナルグッズを、また、各展覧会の入口にて先着500名にMOTちゃんシール(展覧会ごとに異なる3種類の図柄)をプレゼントします。

同館では現在、ビョークのミュージックビデオや映画『エターナル・サンシャイン』で知られる映画監督ミシェル・ゴンドリーの独創的なイマジネーションの世界を紹介する「ミシェル・ゴンドリーの世界一周」展、また狂言師、野村萬斎を総合アドバイザーに迎えた「東京アートミーティング(第5回)新たな系譜学をもとめて」展も開催中です。いずれも1月4日までの会期となりますので、お見逃しのないように。

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「ミシェル・ゴンドリーの世界一周」展。さまざまな映画撮影のセットを再現しており、その中で役者気分に。(モデル:藤本明子)

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「新たな系譜学をもとめて」展より。野村萬斎本人が選んだ自身の古典、異種交流の2種の映像アーカイヴが堪能できます。

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「開館20周年記念 MOTコレクション特別企画 コンタクツ」展。

また、東京・九段にある東京国立近代美術館も1月2日は所蔵作品展「MOMAT コレクション」が無料観覧できます。こちらも要チェックです。