カタツムリの「恋の矢」が相手の寿命短縮、東北大

子孫を残してくれるパートナーを傷つけるのはなぜ?

2015.03.16
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鋭いラブダートをパートナーに向けるカタツムリ (Photograph by Kazuki Kimura)

 カタツムリが交尾の際に突き刺す鋭い矢「ラブダート(Love dart)」が、交尾相手の生殖能力を低下させ、寿命を縮める可能性があることが、東北大学の生物学者、木村一貴氏らの研究で明らかになった。3月10日付の『Proceedings of the Royal Society B.』誌に発表された。

 カタツムリには、雌雄同体のグループと雌雄異体のグループがある。そのうちラブダートを突き刺すのは、雌雄同体のカタツムリの一部。ダートはカルシウムでできていて、カタツムリが相手の体にこれを刺すと、ダート表面に塗布された特殊な分泌液が送り込まれ、卵子を受精させるのを手助けする。

 複数のパートナーと何度も交尾する習性を持つカタツムリにとって、とても役に立つ道具だ。ところが今回の研究では、交尾に欠かせないこのダートが、相手の生殖能力を低下させ、寿命を縮めてしまうことが明らかになった。

利己的な「恋の矢」

 今回、木村氏のチームは、日本原産のカタツムリであるコハクオナジマイマイ(Bradybaena pellucida)が産む卵の数と寿命を調査した。すると、交尾の際にダートで刺された個体は、卵の数が減少し、さらに、実験開始からの平均生存期間である60日の4分の3ほどしか生きないことが判明した。

 なぜ、カタツムリは自分の子どもをつくってくれる雌に、危害を与えるような道具を発達させたのだろうか。

 それはおそらく、利己的な遺伝子のなせる業だろう。ラブダートを刺すことで相手が別のカタツムリと再び交尾をするのを防ぐ。つまり、卵をめぐるライバルが減るので、ダートを刺す側のカタツムリの子孫の繁栄に役立つ。

 第三者の研究者であるオランダ・アムステルダム自由大学のヨリス・コーエン氏は 、刺されたカタツムリの交尾意欲が弱まるのはダートに含まれる化学物質によるものか、それとも受けた傷によるものかは明らかでないが、傷によるものだとすれば、この攻撃的な行為が説明できると述べる。

 また、交尾相手の卵を多く受精させることができる場合、相手の将来的な生殖能力にダメージを与えてもそれほどの不都合はないだろうと推測される。「実際、ダートを刺すことで相手を操作し、交尾後の短期間は自分の精子の受精成功率を高められることがわかっており、このことは大きなメリットです」と木村氏は言う。

 つまり、ダートを使うことでより多くの卵子を受精させることができるのなら、相手が多少の犠牲を払おうが些末な問題であるということだ。

性的な武装がエスカレート?

 カタツムリのこの危険な生殖行動は、今後、軍備競争さながらにエスカレートするかもしれない。生殖で有利となるよう、カタツムリはシンプルな槍状の形から、刃を持つ銛のようなより洗練された形のダートへと、一層強力な新しいダートを競って発達させるだろうと、コーエン氏は2005年に発表した論文で述べている。木村氏によると「種によってはとても大きなダートをもっていて、相手の体を貫通し、反対側から出てくるようなケースもあります」という。

 また同時に、カタツムリはダートで刺されることへの耐性も高めるだろう。たとえば、雌の生殖器は不要な精子を消化するが、この機能が強化される可能性がある。ダートが刺さりにくいように、柔らかい皮膚は鎧のように硬くなっていくかもしれない。雌雄同体のカタツムリにとって、まさに「恋愛と戦争は手段を選ばない」ようだ。

「恋の矢」を貫いて交尾するカタツムリのペア
交尾しているカタツムリのペアを下から撮影したもの。白い槍状のものがダート。右の個体のダートが、左の個体を貫いているのがわかる。明るさの関係で見えづらいが、実は左の個体のダートも相手を貫いている。(提供:木村一貴)

木村一貴氏による「カタツムリの交尾」解説ページはこちら

文=Ralph Martins/訳=キーツマン智香

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