ピザ価格破壊 格安専門店台頭、焼きたて1枚500円
ピザの価格破壊が進んでいる。起爆剤となっているのは1枚500円程度という格安で焼きたてのピザを提供する専門店だ。宅配ピザに割高感を感じていた学生や家族連れが手軽にピザを楽しめるようになった。一方、宅配ピザも持ち帰りによる値引きを図ったり、ワンコインピザに参入したりと新たな消費者の獲得に力を入れる。ピザ市場の最前線を追った。
「焼きたてピザっておいしい」。7月下旬の平日昼、「ナポリス ピッツァ&カフェ」渋谷神南店(東京・渋谷)。友人と一緒に訪れた杉並区の高校2年、鈴木彩世さん(16)の顔が思わずほころんだ。マルゲリータなどのピザ3枚、ドリンク2品で計約2千円に「高校生の財布にも優しい」(鈴木さん)という。
トマト、モッツァレラチーズなどの食材を窯で焼いたマルゲリータの価格は350円で宅配ピザのMサイズ(1千円台~2千円台)とほぼ同じ大きさ。イチジクとゴルゴンゾーラチーズのピザ(期間限定)など、約15種のピザはすべて千円以内で持ち帰りもできる。
遠藤商事ホールディングス(東京・渋谷)が2012年4月に渋谷神南に1号店をオープン。現在、別のワンコインピザ店を含め全国で48店舗を展開する。遠藤優介社長は「2千円台のピザの時代にワンコインという低価格なだけでなく本格的な窯焼きのピザは衝撃的なはず」と出店の狙いを語る。渋谷神南店は20代~30代を中心に人気を集め、客単価は約1千円で1日500~600人を集客し、月商800万~1千万円と想定を上回る売れ行きだ。
迎え撃つ宅配チェーン、持ち帰り値引き
ワンコインのピザは急速に店舗網を広げている。08年10月に1号店を開いたキャンディーBOX(東京・渋谷)の「CONA」は約30種類のピザを500円で提供し、全国35店舗を展開。Buona Vita(東京・杉並)の「センプレピッツァ」は1枚380~890円の約10種類を武器に11年6月の1号店オープンから4年弱で30店舗を達成した。
大手外食チェーンの参入も進む。吉野家ホールディングス傘下のグリーンズプラネット(東京・北)が運営する「ピッツァナポレターノカフェ」荻窪駅前店(東京・杉並)は、週末、家族連れでにぎわう。近くに住む会社員、川崎紀弘さん(43)は「もちもちな生地を味わえ、宅配よりも早くて安い」と満足そう。妻、長男とマリナーラ(500円)などのピザ2枚を含め6品を注文しても計約3千円。月3回のペースで利用している。
ピザは女性一人でも手軽に食べられることを狙い、20センチメートルサイズ。イタリア産小麦と天然酵母を使った生地を注文から400度の本格窯で焼き上げ、耳までおいしいことにこだわる。1枚500円~900円の約10種類を取りそろえる。
13年10月に新高円寺駅(東京・杉並)前に1号店をオープンし、全国15店舗を展開。「ピザがメインのカフェという新しいカテゴリーを開拓する」(栗原幹雄社長)。荻窪駅前店の客単価は約1000円で1日約110~160人を集客。月商約400万円と想定を上回る。
イオンも17年春までに全国の総合スーパー内にあるピザ専門店を現在の約20店舗から100店舗に増やす計画だ。店内で発酵させた生地を手でのばし、専用窯を使って約90秒間で焼き上げる。27センチメートルのマルゲリータを1枚594円で提供する。
ピザメーカーなどでつくるピザ協議会(東京・新宿)によると、14年度のピザ市場は2605億円と13年度比で微増だったが右肩上がりで伸びる。うち、宅配と専門店がほぼ半分を占め、残りが市販・業務用のメーカー出荷額だ。宅配と専門店の伸びは約6%増。価格破壊により、ピザの市場はさらに拡大しそうだ。
オペレーション、低価格のカギ
1枚約2千~4千円の宅配ピザに比べると、格安の1枚500円という価格をどのように実現しているのか。ワンコインのピザ専門店の原価率はどの店舗でも宅配ピザと同じ約30%。オペレーションに工夫を凝らし、低価格につなげている。
ナポリスでは1枚のピザが約60秒で焼き上がり、同時に3枚を焼くことができる窯、生地のノシ作業が約3秒で可能な機械を導入している。アルバイトでも焼き上げまで約90秒で提供可能だ。1店舗に2人のスタッフを配置すれば営業できるため、人員コスト削減につながっている。CONAではスタッフ全員がピザを焼けるように指導している。
一方、フォーシーズ(東京・港)が運営する宅配の「ピザーラ」は、待ち時間を30~60分の範囲内に収めるため、1店舗あたり3~4人のキッチン担当者、4~5人の宅配担当者の計7人以上を待機させる。宅配担当者の交通事故のリスクに対応するための保険料などもあるという。
ワンコインのピザ店と宅配ピザの価格差は初期投資(店舗取得費用を含まず)からも生じる。地域や店舗面積、物件の状況により異なるが、ナポリスのフランチャイズ加盟店の初期投資は約1800万円。宅配用のバイクなどが不要のため、ピザーラのフランチャイズ加盟店(約2150万円)に比べて約20%抑えられている。
(小田浩靖、中川竹美、服部良祐)
[日経MJ2015年8月10日付]
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