◆[山形市]日本一の芋煮会(平成27年9月20日撮影)

「去年までは市スポーツセンターからシャトルバス出っだんだっけげんとなぁ」
「しょうがないべした。市営球場の建設が始まて、駐車場使わんねぐなたもはぁ」
ビッグウイング発のシャトルバスから降りる人々がバスのガラスに映り込む。

コスモスがこれ以上ない笑顔で人々を迎えてくれる。

エンジェルストランペットはホラを吹くわけでもなく、
人々が大鍋に向かう姿をじいっと見守っている。

「今年も大過なく終わっどいいげんとなぁ」
「タイムスケジュール通りいってだべねぇ」
大量動員されたスタッフたちは、会場のあちこちで汗水垂らして頑張っている。

スマホ・携帯・カメラのオンパレード。
これほど芋が写される日も珍しい。

「なしてオレば狙うんだずぅ」
よっぽど不審者に見えるんだべが。

ゴンドラに乗せられた報道陣。
自分たちが見世物になっていることに気づかない。

煙は馬見ヶ崎の川下から川上に流れている。
おかげで県庁は煙たげだ。

午前中に雨がパラついたときには、大丈夫だべがと思った。
ところがどっこい、あっという間に青空が広がり始め、汗ばむ陽気になってきた。

大鍋は煮えたぎり、人々はくの字に曲がって橋を渡る光景が広がる。

「このままでは大雨の水は引いでも、人だかりが土手ば越えでしまうんねがよ」
黒山の人だかりは河川敷に溢れかえり、馬見ヶ崎の水の方が避難したがっているようだ。

それでも人々は土手から河川敷になだれ込む。
里芋に吸い寄せられる人々は引きも切らない。
芋煮の力恐るべし。

「おらほは邪魔だべが?」
小さなヒマワリは自分が夏の主役だったのにと、鍋からそっぽ向く。

「早ぐあべ。芋なぐなたら大変だ」
花壇の花は人々の食欲に驚嘆しながら、ひそひそと会話を交わす。

スピーカは欄干に必死にたづいで、大声を攪拌している。
芋に目がくらんだ人々が、聞いているかどうかは定かではない。

先日の大雨の時は、茶色い濁流が渦を巻いて河川敷すれすれに踊り狂っていた。
今は穏やかな性格に戻り、人々をやさしく受け入れている。

「こだい人いっぱいいんのに、どごから入り込めばいいんだが・・・」
土手の上から人並みを眺め、食うか食わないかの決断を迫られる。

もちろん芋が主役。
でも、芋を主役とするためにはいろんな人々の支えがあってこそ。

クラゲさえも青空に舞う芋煮日和。

「芋煮ど玉コンは山形の魂だがらねぇ」
初秋の日差しを浴びて玉コンがテラテラ輝く。

豪雨体験。
日本に生まれたからには、こんな体験も必須科目。

今日だけは初秋の風とともに、人々も川面を渡る。

「カメラ持てっど、すぐこれだま」
「オマエは国体の後に現役引退したのんねのが?」
どっこいジュッキーは余生をあちこちで満喫しているようだ。

「お、ワイヴァンズのチアガールだど」
元々山形はバスケ王国の時代があり、地盤は出来ている。
チアガールのお姉さん、オレばバスケさ連れでってけろ。

おじさんたちは目を輝かせ、もっと近くに寄りたいと気持だけが前のめり。

髪を振り乱して、いや表現がまずかった。
髪を乱舞させて演技を披露。
いやが上にもバスケを見に行きたくなる。いやチアガールを見に行きたくなる。

華やかな舞台の上とは対照的に、壁一枚隔てた裏側に芋煮鍋が並んでいる。
これぞ山形。山形県民の神髄を見た。

「んだて家族の分も必要だべ」
「こんでも足んねくらいだぁ」

山形人は子供の頃からいも煮会を経験する。というか経験させられる。
小・中・高・社会人・親戚・友人・ご近所といも煮会を重ね、山形人は逞しい芋煮県民となっていく。

「ほだな肉の入れ方じゃ足んねべ。もっとドバドバ入れねど皆満足すねば」

至福の時がやってきた。
さんざん待って、並んで手に入れた芋煮。
これでまずいはずがない。

「ムシロなのなにするんだ?」
コスモスは不思議に思う。
しっかり握られたムシロが、いも煮会では必需品だということをコスモスは知らなかった。

いも煮会の爛熟期を迎えた山形では、あらゆるバリエーションの芋煮が楽しめる。
「ところで、芋太郎!頭の鍋さ具がなんにも入てねぞ!」

人々はいろんな場所を見つけては芋煮を頬張る。
三つ並んだ一番搾りの前に三人並んで集団お見合いか?

くたびれたヒマワリは大音響の案内をなんとなく耳の端で聞いている。

未知との遭遇並みにヒマワリがでかい。
ヒマワリは着地せずに、かろうじて重さに絶えてごった返す人々の様を静かに見守る。

「お、お嬢さん。ヒマワリが狙てっぞぉ」
なんぼヒマワリに見つめられても、芋煮を一心不乱に食べているから気づかない。

さすがに芋煮もくたびれたのか、ベンチで一休み。
「ほいず、おらいのだげんと・・・」
芋煮にカメラを近づけたら、隣のおばさんに睨まれた。

そよぐコスモス。
腹を満喫させた人々。
こうして山形の秋は始まった。

この先、コスモスたちは何人の芋煮人を河原で見ることになるのだろう。
「山形のコスモスは芋煮など見飽きだがぁ?」
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