グノシーは、上場ゴールと言われようと第2のgumiと言われようと、上場してからが真のスタートであると思う

 グノシーが4月28日に上場しましたね。
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 私自身もブログで何度かグノシーについて取り上げたこともあり、先日の「ネイティブアドのガイドラインが機能してくれないと、間違いなくネットの記事を一つも信じられなくなる未来が来てしまう件について」という記事で、グノシーの広告非開示疑惑を取り上げたことも有り、グノシーの上場をどう思いますか?という質問を良く受けるのですが。
 個別に説明するのが面倒になったのでブログに書いておきたいと思います。
 先日ShareThroughのダンCEOが来日された際に、丁度グノシーの上場が話題になっていた時で、ダン氏に「日本では何でたかだかダウンロード1000万もいかないスマホのニュースアプリがこんなに評価されるんだ?フリップボードとか1億ユーザー超えてるけど、こんなに話題にならないぞ」的な質問をされて、私も脊髄反射で「バブル」だと答えた実績があるわけですが。
 まぁ、冷静にグノシーの財務諸表だけ分析したら、PERが5000倍超えですからね。
 これをバブルと呼ばずに何をバブルと呼ぶのかという状態です。
 売上30億円見込で、時価総額300億超えてますからね。
 売上1000億超えてるヱスビー食品より時価総額大きかったり、売上何だかんだ600億あるニフティとかと同じぐらいの時価総額なわけですよ。
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 まぁ、逆に言えばgumiの業績下方修正がなければグノシーの株価ももっと過熱していておかしくなかったという見方もありますから、バブルとしてどれぐらいの大きさのバブルなのかは人によって見方が異なると思いますが。
 いずれにしても、状況としては一言で言うなら「バブル」だと思います。
 ただ、そのバブルが弾けてあっさり消えるのか、バブルの間に実体を伴ってバブルが弾けた後にもしぶとく生き延びて成長していけるか、はバブルとは関係なくその企業自身の努力次第とも思っています。


 そもそも論として正直なところをぶっちゃけると、私自身はライブドアショックの時に株で手痛い損をして以来、一切株に手を出してない人間なので、「上場ゴール」を巡る議論とか、gumiの業績下方修正を巡る議論とかは全く興味ありません。投資家としてのセンスがないんですよね。
 ソーシャルゲームという一発あたった時のインパクトが大きい業界で、国光さんのようなギャンブラーな経営者がトップを張っているgumiのような会社に投資するのであれば、正直あれぐらいの下方修正はリスクとして折り込んで投資するべきだろ、とか思ってしまいます。
 
 何しろガンホーはパズドラ一発で、時価総額5000億超える会社になったわけですし、ミクシィもモンスト一発で、存亡の危機から時価総額4000億近い優良企業に復活するわけです。
 そういう驚きの急成長を期待して投資しているなら、驚きの急降下も裏腹に存在するのが投資の世界なはずで、国光さんの普段の発言見てれば、どれぐらいギャンブラーな会社か簡単に想像できるだろうに、上手く行かなくなった途端に袋だたきというのは、やっぱり投資の世界って怖いなぁとつくづく思ったりする人種なわけです。
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 で、グノシー上場に関しても、丁度gumiの業績下方修正の後と言うこともあり、スマートニュースとの競争が厳しくなりつつあるのもあり、上場ゴールとか第二のgumiとかっていう批判が集まっているようなんですが。
 個人的には、今回の上場に関して、ちょっと違う見方をしています。
 つまりタイトルに書いたように、グノシーに関しては、上場ゴールと言われようが第二のgumiと言われようが、グノシーに関してはとにかく上場してからが本当のスタートと考えた方が良いのではないかという視点です。
 グノシーという会社は、エンジェル投資とVC投資による成功へのブーストのシナリオを絵に描いたように美しく成功させた会社と言えます。
 この辺はBridgeの平野さんのインタビューが詳しいのでこちらを読んでもらった方が良いと思いますが。
Gunosyが「グノシー」に変わるまで、それと共同創業者「きむしん」が眺めてる未来の話
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 東大の大学院生だった福島さん達が研究の延長として開発していたGunosyが、木村氏というエンジェルに出会ったことで、明確に急速な成長を目指すベンチャー会社に変化。
 自動ニュースメルマガ的存在から、ライバルのスマートニュースのインターフェースに寄せたマス向けのアプリに転換し、アドネットワークの仕組みを早期に確立し売上も億単位で計上。
 テレビCMをブーストに1000万近いダウンロードを獲得してライバルのスマートニュースをダウンロード数で抜き去り。
 広告宣伝費を抑えれば黒字が見える水準まで決算を創り上げ、設立からたったの二年半で上場まで一気に辿り着いています。
 創業者でありCEOである福島さんの3%台というあまりに低い持ち株比率に、大学院生が金儲けをしたい大人達のマネーゲームのおもちゃにされたという味方をする人もいるようですが、逆に言うと、大学院生のおもちゃが、木村氏を中心とした大人によって見事に2年半で上場できるほどに磨き上げられた、とも言えます。
 で、グノシーはここに至るまで、調達した資金の大部分をテレビCMに投下して、スマートニュースというライバルをダウンロード数で抜き去って、ダウンロード数1位と宣言できることに全てのエネルギーを投入しているわけで。
(関連記事:スマートニュースとグノシーのテレビCM対決に見る、いかに日本のテレビCMが効率的な認知獲得手段かという現実
 逆に言うと、上場してさらなる広告宣伝費を調達しないと、先に進むことができない構造にもなっているわけです。
 
 実際、朝日新聞の記事によると「調達した約48億円の資金はテレビCMなどの広告宣伝費として2017年5月期までに使い切る考えだ」そうで、要は資金調達した48億円もさらにテレビCMに投入すると宣言しているわけです。
 特に、注目すべきなのはライバルのスマートニュースとグノシーの広告効率の違い。
 明らかにグノシーに比べると広告宣伝費をそれほど使っていない印象があるスマートニュースですが、実はグノシーがテレビCMを抑えると自然とスマートニュースの方がランキング上位にいる期間が長くなるようです。
 さすがに今週はグノシーが上場のインパクトもあり、トップに返り咲いていますが、やはり普通にニュースアプリの一覧に「スマートニュース」と「グノシー」という名前が並んでいたら、どちらも知らない普通の人はニュースアプリが欲しいわけで「スマートニュース」を選びますよね。
 ある意味、グノシーはその独特な名前ゆえに、自分がニュースアプリであることを知ってもらうためにテレビCMを打ち続けないといけない宿命を帯びているとも言えます。
 さらにグノシーにとって今後深刻になりうるのはユーザーのアクティブ率。
 日経新聞の記事によるとニールセンの調査による月間のアクティブユーザー数はスマートニュースの417万人に対し、グノシーは276万人で、約3分の2。
 つまりグノシーはスマートニュースと同じだけのユーザーを獲得しても3分の2しかアクティブになっていないわけで、これはグロースハッカー的な視点から見ると致命的な違いになります。
 つまり、グノシーはスマートニュースよりも明らかにテレビCMを大量に投下しているのに、ダウンロード数でそれほど圧倒的な差はつけることができておらず、さらに獲得したユーザーのアクティブ率でライバルに1.5倍の差をつけられているということ。
 この獲得効率と継続率の差を埋めるためには、上場して資金調達することが、今後のグノシーにとって絶対的な最低限の必要条件だったといえるわけです。
 資金調達さえできれば時間を買うことができ、その間に新しい事業の種やユーザーのアクティブ率や獲得効率の改善を行うこともできます。
 ライバルのスマートニュースに仮に勝てなくても、mixiにおけるモンストのような第二の事業ドメインを見つけることができる可能性もおおいに拡がります。
 10年前にWeb2.0バブルの象徴として上場したドリコムも、一時1000億円を超える時価総額になったものの、その後株価がつるべ落としで批判の的になったりしてましたが、事業転換して今は時価総額200億ぐらいを保てているようです。
 当時ドリコムの内藤社長も学生起業家の代表として、持ち上げられたり、叩かれたりと忙しい感じでしたが、そういう意味で、今後のグノシーで注目されるのは社長の福島さんを中心にグノシーの経営陣がどのようなビジョンを持ってどういうチャレンジをしていくのかという点でしょう。
 一部のメディアの方からすると、福島さんが上場益を手にあっさりグノシーを辞めてしまうのではないかという見方をされている方もおられるようですが。
 
 ある意味福島さんは、普通の大学院生では絶対経験できないような、大人のマネーゲームによって、自分のおもちゃが、時価総額300億の企業に変身する貴重なチャンスをもらっているわけで。
 二度と得られない貴重な舞台を整えてもらっているという見方もできます。
 もともとグノシーの元になっていた興味のあるニュースを見つけてくるアルゴリズムを元にしたサービスは、私も含めて多くの人が絶賛して、成長を期待する素晴らしいサービスでした。
 そのサービスを作った人こそ創業者である福島さん達なわけです。
ホリエモン絶賛!「グノシー」創業者のホンネ | 大企業よりもスタートアップ | 東洋経済オンライン | 新世代リーダーのためのビジネスサイト
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 グノシーって、面白い記事さえ書けば、企業とか個人とか関係なく、結構なトラフィックをくれる新しい存在でもあったんですよね。
いつの間にか自分のブログへの誘導数トップが、ツイッターでもFacebookでもなく、グノシー砲になっててビックリした件について
 あのサービスを開発できるセンスを時価総額300億という会社で、48億円という資金調達をして、どのように活かしていくのか。
 単純にスマートニュースとの消耗戦に明け暮れるのか、第二の金鉱を見つけるのか。
 持ち株比率を考えると、福島さんがトップに君臨し続けるためには成果を出しつづけることが必須とも言えますが、
 今回の上場で、少なくともVCからの短期上場のための数値作りという一方向への圧力はなくなるわけで。
 首が飛ばない程度に新しいチャレンジをする余地はできてくるはずです。
 今回のグノシー上場は、そんなグノシーの今後が問われる、グノシーにとっての真のスタートなんだと見るべきでは無いかなと思ったりします。
 一方で、直近での上場という選択肢ではなく12億の資金調達を選んだスマートニュースが既に400億円近い評価額になっていて、今後どう展開していくのかというのも、もちろん非常に興味があるテーマですが。
 長くなったので今日はこの辺で。