かつての存在感を失った「2ちゃんねる」の明日はどっちだ
連載「ネットは1日25時間」。今回の記事はマターリ読んでください。
14歳でインターネットに触れてそろそろ17年になろうとしているのですが、僕がリアル中二病を発症していた1999年は、インターネット最大の匿名掲示板であり、良くも悪くも現在の国内インターネット文化の大きな潮流を作る一端を担った「2ちゃんねる」の開設年でもあります。
「ハッキングから今晩のおかずまで。」をキャッチフレーズに、開設当初こそ素人には近寄りがたいアングラ的な存在感を放っていた2ちゃんねるも、インターネットの浸透とメディアからの扱いが多くなるにつれて利用者を増やし、開設から数年後にはもう多くのネットユーザーにとって当たり前の存在となっていました。2ちゃんねるから発信されたネット文化やネットミームには、すっかり定着して現在も当たり前のように使われているものもあって、日本のネット黎明期に残してきた影響の大きさは計り知れません。僕自身もご多分に漏れず数年間は足しげく利用していた時期がありました。
しかし、一時は日本のネット文化の象徴となっていた2ちゃんねるも、現在ではユーザーの減少・高齢化などによる斜陽化の一途をたどり、かつての影響力や存在感は大きく失われているように感じます。
2ちゃんねるの現状キボンヌ
2ちゃんねるが培ってきた歴史や大きく関わった事件、ネットにもたらした影響の種類や生み出してきたコンテンツなど、そういったことの子細はすっかり語り倒されていると思うのでここで深く言及することはしません。
2ちゃんねるユーザーの過半数が30〜40代であるという情報がネットレイティングス社(現・ニールセン株式会社)の調査によって報告されたのは、もう8年も前の2008年頃になります(関連記事)。自分で稼いだお金を好きに使えながらも流行りものからアングラなコンテンツにまでアンテナを張りやすい20代〜30代のアクティブな時期に2ちゃんねるの洗礼を受けた世代が、そのまま2ちゃんねると寄り添いながら歳を重ねたのだと考えると不思議なデータではありません。もしユーザーの入れ替わりがなかった場合、現在は40〜50代が主流になります。
まとめブログの増加により、記事の転載元としてその存在意義を示した時期もありましたが、大手まとめブログがステルスマーケティングに関わった疑惑が噴出した、いわゆる「ステマ騒動」の影響などで、2ちゃんねる運営が転載禁止を掲げたことによる余波を受けたり、またSNSや動画サービスの隆盛、スマートホンの普及に伴いネットコンテンツそのものやネットの触れ方、生活の中におけるネットの在り方などに大きな変化が生じたことによるユーザーの分散もあり、「2ちゃんねる」は現在でもネットのメインストリームとして一定の地位を保っているとはいえ、過去のデータよりユーザーが増えていたり若返りが起きていたりということはまずないでしょう。
若い人が2ちゃんねるを使わないのは当然
先述のようにかつては2ちゃんねるのユーザーだった僕も、2010年頃からは全く覗かなくなってしまったのですが、久しぶりに覗いてみるとやはり現在のトレンドを比べたらどうしても前時代的な印象が拭えない、特に仕様に関してはシンプルではあってもスマートではないという印象を受けました。今やオーパーツの感さえ漂う、リンク付きのスレッドタイトルが羅列されているだけのシンプルなデザインは、目に極端な負担がかかりそうな見難さや、欲しい情報へたどり着くまでの時間がやたらとかかってしまうような煩雑さが残っています。
現代の若いネットユーザーやアクティブなユーザー層には、2ちゃんねるにわざわざ触れるだけのメリットがないという点も強いでしょう。ネットには昔よりぐっと知識のアーカイブが増え、SNSによって情報の共有も素早くなり、同好の士との接点が急速に身近なものになりました。以前、僕がアンケートツールを用いてまとめブログに関するアンケート調査を行ったところ(関連記事)、やはりまとめブログを利用する理由の中には「2ちゃんねるにはノイズが多すぎる」といったものがありました。情報の取捨選択は大量のノイズの中から行うものであり、そうやってリテラシーが培われていくものですが、もともとノイズが多いと分かりきっているところに好きで飛び込む必要性などないのです。
また今の若い人にとってネットの触れ方は、かつてよりミニマムであったりクローズドであったりするということも影響しています。若い人が「自分の知り合いしか見ていない」と思いSNSで悪事自慢をして炎上するケースは枚挙に暇がありませんが、これはそもそもSNSの特性を十分に理解していなかった場合が多く、ネットに関しもっとヘビーで有用性のある知識を携えた若者であっても、「広大な空間を狭く捉えて使う」という意識の面ではさほど変わらないのではと思います。あまり広く手を伸ばし続けると、どこかで自分の手に収まらなくなるということを、ネットの歴史が教えてくれたからです。
信頼できる他者と信頼できるコンテンツを、信頼できるソースと信頼できる空間(そんなものがネットにあるとは思えませんが)を厳選しコンパクトに遊ぶということは、当然というべき洗練さであり広くプラスの要素ではあるのですが、そういった意識は2ちゃんねるのように不信と雑多で構成された領域とは非常に相性が悪いと言えます。
ユーザーというのはどのコンテンツでも時が経って入れ替わるにつれて賢くなっていくものであり、2ちゃんねるが残してきた多くの負の側面から学んでいけば、「2ちゃんねるってなんだか使いづらくて怖いところ」と若い人が考えるのは無理もなく、それはかえってアングラだった時代の印象を再び獲得しているようにさえ思えます。
こうすれば2ちゃんねるは復活する……かもしれない
一時期と比べていくら衰退しているとはいえ、まだまだその規模は他所とは比較にならないほど大きい2ちゃんねる。高齢化社会に伴いこのままではネット老人ホームとしての機能しか果たせなくなってしまいます。どうすれば若い風を送り込んで黄金期の輝きを取り戻せるのでしょうか。
やはり「SNS疲れ」層に訴えるのがいいのではないかと思います。SNSの隆盛は多くの可能性をもたらしてくれた一方で、知人との狭いつながりで生まれる監視状態、半匿名とはいえひとつ間違えれば他者の手によって身元が特定されるかもしれない緊張感、言いたいことも言えないポイズンな状況に、すっかりくたびれてしまった者たちも少なくありません。そういった層に、自由度をアピールする戦略を取るのです。
ですが今までの2ちゃんねるのような風情をそのままにするのではなく、重要な運用変更として「匿名性の魅力を強調しつつモラルの線引きを厳しくする」ようにしましょう。
例えば、名誉毀損やプライベートの侵害、レイシズムや性差別などの書き込みなどは、わずかな通報でも運営が迅速に対応し削除できるべく、削除の基準点を大幅に下げるようにします。
これはSNS疲れ層の意識には「素性が特定されないようにして好き勝手言いたいけれど、倫理のタガが外れているレベルではない」というバランスがあるからです。2ちゃんねるを表現する代表的なフレーズとして「便所の落書き」という言葉がありますが、「便所には入りたいけれど落書きがしたいわけではない」「落書きだらけの便所には入りたくない」という層のほうがよっぽど、アクティブな便所ユーザーには多いのです。
実際、2ちゃんねるがいくら汚物まみれであり、それが魅力だという人がどれだけいても、汚物しか存在していなかったらとっくの昔に機能不全になっています。2ちゃんねるユーザーだって多くは「倫理のタガを外したくはない」人たちなのです。多分半分、いや3割くらいかな……。
とはいえヘビーな2ちゃんねるユーザーにしたって「ここが潰れるならばそれはそれ」程度でしか考えてなさそうですし、無くなって深刻に困る人もそこまでいないと思うので、副作用を覚悟して変に劇薬に頼り延命処置をしてしまうより、無くなるときはさらっと無くなってしまったほうが変化の目まぐるしいネットらしい結末だといえます。
プロフィール
85年生まれのブロガー。2012年にブログ「ナナオクプリーズ」を開設。おとぎ話などをパロディ化した芸能系のネタや風刺色の強いネタがさまざまなメディアで紹介されて話題となる。
2015年に初の著書「もしも矢沢永吉が『桃太郎』を朗読したら」を刊行。ライターとしても活動中。
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