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異例の日曜日の配達もOK

午前3時のサンフランシスコ。郵便配達員が見慣れない箱を持って、住宅街の軒先に置いていく。中身は牛乳や卵など傷みやすい食料品。USPS(アメリカ郵便公社)は昨年10月から、サンフランシスコやニューヨークなど大都市に住むアマゾンのユーザーに、食料品雑貨を届けている。

「私たちのインフラを活用しているだけのことだ」と、3月に第74代郵政長官に就任したメーガン・ブレナンは言う。240年の歴史で初の女性郵政長官だ。「USPSは週に6日、場合によっては日曜日も配達を行っている。これは論理的な進化にすぎない」

ブレナンは、USPSをネットショッピング時代の大手配達請負業者に変身させようとしている。そのためには手紙の郵便を減らして、小包の配達を増やし、以前なら考えられなかった時間(さらには日曜日)の配達にも対応しなければならない。

「アマゾンは一番(のクライアント)だ」と、ブレナンは言う。「だがもちろん、この種の配達業務に関心のあるクライアントは歓迎だ」

パトリック・ドナヒュー前郵政長官が、USPSがアマゾンの配達業務を週7日請け負うと発表したのは、2013年11月のこと。以来、アマゾンは全米に仕分けセンターを15カ所設置。そこで荷物を仕分けして、トラックで近くの郵便局に運ぶ。あとは郵便配達員が各戸まで配達してくれる。最新の有価証券報告書によると、アマゾンは今年度、こうした仕分けセンターの数を増やす計画だ。

USPSは機密保持契約書を理由に、アマゾンとの取り決めの詳細を明らかにしていない。しかし、調査会社バーンスティン・リサーチの運輸アナリストのデービッド・バーノンによると、USPSは昨年、アマゾンの荷物の40%(約1億5000万個)を取り扱ったという。これは民間宅配業者のUPSやフェデックスの取り扱い数よりも多い。

バーノンの推計では、アマゾンがUSPSに支払う手数料は荷物1個当たり2ドルと、UPSやフェデックスの半額近い。これはアマゾンが仕分けをはじめ、配達に関わる準備作業をかなり自前でやっているからだ。

顧客の住所データもそのひとつ。アマゾンはこれをUSPSにデータのかたちで提供しているから、配達員は効率的な配達ルートを決めやすい。「(アマゾンは)自分たちで仕分けができるんだから、フェデックスに全部任せる必要はないと思っているだろう」とバーノンは言う。「そんなに大変なことじゃない」

経営状態は火の車

ブレナンはアマゾンだけでなく、ありとあらゆるビジネスチャンスを必要としている。なにしろ2014年、普通郵便は前年比3%減の640億通に減った。これに対してダイレクトメール(DM)は横ばいで、小包の取扱量は8%増の40億個となり、USPSの事業収益680億ドルの20%を占めた。

とはいえ、小包の配達数が増えるにしたがい、まとまった設備投資も必要になってきた。USPSは昨年、2億ドルかけてハネウェル製の携帯型無線スキャナー27万個を調達し、配達員に持たせた。荷物の配達情報をリアルタイムで提供するためには、こうした機器が不可欠だ。「USPSは、ほとんどの人が思っているよりもずっとテクノロジー志向だ」と、ブレナンは言う。

配達用トラック18万9750台の入れ替えも必要だ。ほとんどのトラックは25年前のもので、小包の配達に適した設計になっていない。USPSの監査官は入れ替えの費用を50億ドル以上と見積もっている。

ただ、USPSの経営状態は火の車だ。今年も61億ドルの赤字で、3月末には現金が60億ドル(わずか22日分の運転資金)しかなかった。ブレナンは、密かに議員や利益団体のロビイストを訪ねて支援を要請した。

最優先事項は、USPSの退職者に医療保険としてメディケア(高齢者医療保険制度)を利用することを義務づける法案を可決してもらうことだ。USPSはほかの連邦機関と異なり、将来の退職者の医療給付金を年50億ドル積み立てなくてはいけない。しかし経営状態が悪化したため、2011年以降はこの積立ができていない。

強みは全米30万人の配達員

小包の取扱個数が増えたことで、ブレナンは普通郵便の減少といった暗い話だけでなく、明るい話を議員やロビイストとできるようになった。

実際、議会では、民主党のエリザベス・ウォレン上院議員らの提案で、USPSに金融などの新事業参入を認める法案も提出された。この法案は保守的な共和党議員らの反対にあっているが、その彼らも、USPSがオンラインストアの配達業務を増やすことには大賛成している。

「USPSが小包をやるべきじゃないとは誰も言っていない」と、USPSを監督する下院監視・政府改革委員会のジェーソン・チャフェツ委員長は言う。郵便配達員たちも前向きだ。「われわれはUSPSがこの種の業務を請け負うよう何年も働きかけてきた」と、全米郵便配達員協会のブライアン・レンフロー部長(都市部配達)は言う。

USPSは、アマゾン以外の複数の企業のためにも、休日配達を行っているという。ただし、ブレナンがアマゾンほどの大型クライアントを獲得するのは、もう少し先になりそうだ。アマゾンは仕分けセンターのほかにも、全米50カ所に巨大な物流倉庫を持つ。

「現在アメリカで、オンラインショッピングのためだけにこれだけ多くの物流センターを持つのはアマゾンだけだ」と、コンサルティング会社MWPVLインターナショナルの創業者マーク・ウルファートは言う。「その次はウォルマートで、おそらく6〜7カ所の物流倉庫を持ち、非常にスピーディーに荷物を配達している」

USPSにとってアマゾンは顧客というだけはなく、ライバルでもある。ニューヨークやワシントンのような大都市で、USPSはアマゾンと同じような即日配達の実験を行っている。

アマゾンはアマゾンフレッシュ(AmazonFresh)という食料雑貨配達トラックを独自に確保している。連邦航空局にドローンを使った配達の認可も求めている。その飽くなき野心を考えると、いずれ独自の配達員を雇ったとしても不思議ではない。

だが、ブレナンはそんな心配はないという。仕分けセンターをあれだけ構築した後で、アマゾンのジェフ・ベゾスCEOが一番やりたくないのは、30万人以上の配達員を雇ってUSPSのように荷物を各戸に届けることだろう。

どんなにアマゾンの快進撃が続いても、それだけはUSPSが持つ大きな強みだ。(文中敬称略)

(執筆:Devin Leonard記者、翻訳:藤原朝子、写真: © Ken Brown/iStock.com)

注:本記事で扱っているのは宅配便(民間)のUPSではなく、アメリカ郵便公社のUSPSです。

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