雷句誠先生の小学館提訴からもう7年 サンデー38号「読者の皆様へ」感想

このページ、少年誌の歴史に残るのでは
読者の皆様へ

 「サンデー 読者の皆様へ」でGoogle検索すると、いまだに2008年に雷句誠先生が原稿紛失で小学館を提訴した件がヒットするんですよね(挨拶)。

 サンデー38号に掲載されて各所で話題になった市原編集長への交代に伴って掲載された「読者の皆様へ」と銘打った声明文ですが、要約すると内容は

  • 今後は新人作家の育成に力を入れます
  • サンデーに掲載されるマンガは、新人ベテランひっくるめて全て編集長が独断で決定します
  • 言うこと聞かない編集者は容赦しないよ

 の三点になると思われます。
 この中で特に重要と思われるのは、「新人を積極的に登用します」の部分でしょう。この文章はタイトルこそ「読者の皆様へ」になっていますが、これから漫画家になろうとしてる新人に向けたアピールの側面がかなり強いのではないかと解釈しました。
 今のサンデーは「銀の匙」「マギ」を筆頭に、他所で活躍している作家を引っ張ってくる傾向が続いていたんですけど、今後はサンデー生え抜きの作家を重用して行くようにするし、編集者もちゃんと作家の面倒をみるので、漫画家志望の皆さんはぜひサンデーでマンガ描いてください! と訴えたいんじゃないかなーと思っています。

 ただ、新人を登用するにしても、ここ最近のサンデー編集部には、思い出せるだけでも雷句誠先生の一件を筆頭に、「東遊記」の酒井ようへい先生が編集者から罵倒されていた件とか、「ワイルドライフ」の藤崎聖人先生が小学館漫画賞を受賞した時に不自然なコメントを発表した件とか、その後「忘れたいくらいいい思い出のない作品だった」と日記で書いていた件とか、「アラタカンガタリ」のリマスター版制作の件とか、何かこう明らかに編集者と作家の関係が上手くいっていないことが原因と思われるトラブルが色々と起こっているのは、大きな問題です。
 当然これらは漫画家志望の方々にも広く知られている訳で、これらのネガティブな事件が新人作家を集める上で明確な障害になっていた可能性も高かったのではないかと思われます。わざわざ誌面を割いてまで「編集部は変わりました! もう大丈夫だよ! 今度はちゃんと仕事するよ!」とアピールするのは、そういった事情があるんじゃないのかと勘ぐってしまいました。

 ネットで皆さんが既に指摘していることではありますが、「読者の皆様へ」に列挙されている編集者の中に、雷句誠先生や藤崎聖人先生の時に名前が出てきた冠茂氏の名前がないのは、そういう意味において重要なポイントなのかも知れません。

 そしてサンデー38号の「読者の皆様へ」の掲載に先立ち、ナタリーに市原編集長のインタビュー記事が掲載されていました。
 個人的に気になったのは、この二つの部分です。

藤田和日郎先生、西森博之先生、久米田康治先生。この3名には一刻も早く帰ってきてほしいと思っています。

週刊少年サンデー特集、新編集長・市原武法インタビュー (1/3)

僕は週刊少年サンデーというのは“作品を作ることよりもマンガ家を作ることを得意とする雑誌”だと思っているので。一生マンガ家でいられるような、何本もヒット作を飛ばせるような才能のある作家さんを育てる雑誌だと。もう一度そういう個性派の才能集団に作り変えたいという思いが一番強いです。

週刊少年サンデー特集、新編集長・市原武法インタビュー (3/3)

 まず藤田・西森・久米田の各先生方が揃って活躍していたのは90年代の前半〜中盤頃だと記憶していますが、確かにあの頃はサンデーという雑誌にはまだ勢いがありました。小学館も90年代を「サンデーの黄金期」と称するサイトをわざわざ立ち上げていますし、サンデー自身がこの頃の栄光を取り戻したいと考えるのは自然なことだと思います。

 また、そもそもサンデーという雑誌の雰囲気として、かつては「編集部主導のマガジンや、アンケート重視のジャンプと比較すると、漫画家が自身の描きたいものを描ける風潮がある」という伝説がありました。自身が得意な描きたいテーマを持った個性的な作家が集まり、編集はそれに合わせて雑誌を作り、作家の個性をより伸ばしていく。その雰囲気に惹かれて、新人作家がサンデーでのデビューを目指して集まってくる。サンデーの黄金期と呼ばれていた時代は、そのサイクルが上手く行っていたのではないのでしょうか。
 「作品を作ることよりもマンガ家を作ることを得意とする雑誌」という市原氏の言葉は、そういったことが実際にできていた時代をイメージしているのではないか、と思いました。市原氏の考える「少年サンデー」は、個性的な作家を育てて作家性の強い作品がガンガン掲載される、かつての黄金時代のサンデーの姿があることは間違いありません。90年代の黄金期にサンデーで活躍していた作家の名前をあえて上げたのは、その象徴であると思います。

 しかしその一方で、それを実現するために、掲載される作品は全て編集長が独断で決定し、編集者はその方針に従ってもらうという、独裁的な手法を取ることも明言しています。編集部が強い権限を持ってマンガを作るやり方は、先程の「作家のサンデー」というイメージとは相容れないような気もしますが、まず「作家を育てることができる編集者がいる環境を作る」ところから始めないといけない状況な様なので、これは致し方ないことなのでしょう。
 サンデーをかつての「作家主体」の雑誌に戻すために、編集長があえて強権を奮わなければならないところに、今のサンデーという雑誌の苦境が現れているのかも知れません。

 もし本当に市原氏の言うように「2年以内にはかなり変わってくる。実際に秋口くらいからは完結する連載が多くなってくる」が実現するのであれば、サンデーという雑誌はこれからものすごい勢いで様変わりして行くと思います。
 我々読者としては、実際に掲載される新しい作品をちゃんと読んで、読者アンケートなりコミックスの購入なりの形でフィードバックを行いつつ、今後2年間でサンデーがどのような雑誌に化けていくのか見守っていきたいと思う次第です。

 雷句誠先生がサンデー編集部内の腐敗を訴えてから7年経った今、ついにサンデー自身がそこから立ち直る機会を得たのだ! と、今は思いたいですね。残された時間を考えても、浮上するならこれが最期のチャンスかも。いやマジで。

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サンデー黄金の90年代を支えた立役者といえば、やっぱりおキヌちゃんっスよ(ファンサイト要素)

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