ジョンソン・エンド・ジョンソン日本法人の社長を務めていた松本晃氏が、カルビーの会長兼CEOに就任したのは、2009年のこと。当時、カルビーは国内需要の頭打ちとも重なり、成長の踊り場ともいえる状況にあった。ところが以後、カルビーは大きく業績を伸ばす。とりわけ注目すべきは、1%台だった営業利益率が今や10%に迫っていることだ。カルビーに何が起きたのか。「儲かる会社」へと変貌を遂げた、松本氏の改革に迫る(全2回)。

 

難しいことはやっていない。儲けるための仕組みをつくっただけ

――カルビーの営業利益率はかつて1%台でした。今や10%に迫る勢いですが、なぜカルビーは儲かっていなかったのでしょうか。また、どう変えていかれたのでしょうか。

 単に儲け方が下手だっただけです。会社が儲かるには、基本的には3つの要素があります。「商品の品質」「コストの安さ」「供給体制」です。カルビーは1番目と3番目はよくできていた。ところが、2番目のコスト意識がまったくなかった。儲ける気がないんじゃないか、と思えたぐらいです。

松本 晃
(まつもと・あきら)

カルビー株式会社 代表取締役会長兼CEO。1947年生まれ。京都大学農学部修士課程卒業後、伊藤忠商事株式会社に入社。ジョンソン・エンド・ジョンソン メディカル株式会社代表取締役社長、ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社代表取締役社長、最高顧問などを経て、2009年より現職。

 でも、日本の会社って、そういう会社だらけじゃないですか。儲ける気がある会社は本当に少ない。儲けても儲けなくても、経営者の給料が大きく上がるわけでもないし、株主が辞めろと言うわけでもない。これは日本の風土でしょうね。

 実際、カルビーでも難しいことはやっていないんです。一言でいえば、仕組みを変えた。儲かっていなかったから、儲けるための仕組みをつくった。当時の最大の弱みは、製造原価が高すぎたことでした。競合が57%なのに65%もあった。競合より3倍もつくっていたのに、です。量は3倍なのにコストが高いなんて、どう考えてもおかしいと思いませんか。

 しかも工場が多すぎたんですね。だから稼働率が低く、週3日しか動いていない工場もあった。これでは、工場で働いている人も困るでしょう。働きたくても働けませんから。生活がかかっているのに。

 そこで何をしたのかというと、まず変動費を下げました。余計なモノを買うな、と。いいものを安く買うのはいいことですが、本当に必要がないなら、買わないほうがずっといい。会社というのは、不要なモノをついつい買ってしまうんです。なぜかって、人間は売るのが嫌いで買うのが好きだから。家の中を見ても、要りもしないものがいっぱいありませんか。会社も同じです。ましてや、自分の財布でなくて会社の財布。つまらないものを、たくさん買ってしまう。だから、これをやめた。設備投資も、好きなようにやっていたのでコントロールしました。

 こうして製造原価は下がったのですが、その分は取り込まずにお客様に還元しました。価格を下げたんです。すると、競争力が高まった。シェアが上がると、工場の稼働率が上がります。稼働率が上がると、固定費が下がる。さらにコストが改善されるわけです。

 こうしたことは、現場に行かないと見えてきません。経営者がずっとオフィスに籠もっていると、稼働率と製造原価の関係がわからなかったりするんです。