焦点:英国、米企業の新たな「節税天国」に

焦点:英国、米企業の新たな「節税天国」に
 6月10日、英国が米企業の新たな「節税天国」に。2011年1月、ワルシャワで撮影(2014年 ロイター /Kacper Pempel)
[ロンドン 9日 ロイター] - 節税に熱心な米企業はかつて、カリブ海諸島やスイスを目指した。それが、最近では米企業にとって英国が新たな「節税天国」となりつつある。
英国では最近、法律が改正され、いわゆるタックスヘイブン(租税回避地)を含む国外で申告された企業利益については課税されなくなった。そのため、節税目的で英国に拠点を移す米企業が増えている。
ここ1年だけでも、リバティ・グローバルやチキータ、ファイザーなど米大手企業12社が納税拠点を米国外に移す計画を発表している。
オバマ米大統領と議会民主党は、こうした動きを阻止するための対策を提案。しかし、議会では税制改革をめぐってこう着状態が続いており、海外移転を阻む新たなバリアが近くできる可能性は小さいようだ。
納税拠点を英国に移した米企業の数は、正確には分かっていない。しかし、政府高官や税金関連の専門家の話をまとめると、その数は少なくとも7社とみられる(エーオン、CNHグローバル、デルファイ・オートモーティブ、 エンスコ、リバティ・グローバル、ノーブル)。
ファイザーとオムニコムは、本社を米国に維持したまま納税拠点を英国に移すことを計画していたが、その前提となる買収や合併計画がとん挫し、実現はしなかった。
納税拠点を英国に移した米企業が当局に提出した書類を見ると、これらの企業は実際はごく少数の幹部を英国に異動させただけだった。
ハーバード大学のスティーブン・シャイ法律学教授は「英国は多国籍企業を誘致するため、税制上の競争力を高めるという、はっきりとした政策決定を行った。アイルランドと張り合っていると言ってよいだろう」との見方を示す。
「最近では、税金関連の会議に出席する度に、タックスヘイブンとして英国が話題になっている」などと述べた。
法律事務所スクワイヤ・サンダースのパートナー、バーナード・ギルビー氏は、国が税金をめぐって競争することは普通のことであり、企業は法律に従って行動していると指摘。企業は実際、そうした政府の優遇策に対応して組織を組み立てるという圧力に直面していると述べた。
<雇用、税収面で英国への恩恵は大きくない>
オズボーン英財務相は、米企業が拠点を移す動きを歓迎。ビジネスをする場所として英国の魅力が高まったということだとの認識を示した。
会計事務所のアーンスト・アンド・ヤングが昨年11月に公表したリポートによると、多国籍企業60社が英国への移転を検討している。
アーンスト&ヤングは、5000人以上の雇用創出と、年間10億ポンド超の法人税をもたらす可能性があるとの見通しを示していた。
しかし、ロイターが企業の提出書類やインタビューを基に調査したところ、実際にはそれほどの雇用は創出されていないことが分かった。
例えばエンスコとノーブルは、納税拠点の英国への移転に伴い最高経営責任者(CEO)が英国に異動、約30人の雇用が生まれた。エーオンは英国での雇用創出数について公表を拒否したが、当局への提出書類によると、CEOが移ったほか、ロンドンの親会社は昨年16人を雇用した。
法律の専門家は、英国で新規雇用があまり創出されていない点について、政府が企業に税制上の恩恵を与えているにもかかわらず、投資というリターンを十分に受けていないことになる、と指摘している。
税収面で見ても、英政府への恩恵は小さいようだ。
一例を挙げると、デルファイ・オートモーティブの最も上位に位置する英法人はパートナーシップの形態をとっているため、税金を支払う必要はない。
<イメージ戦略も>
米企業が節税目的で英国への移転を選択する理由には、税制面で有利だという点に加え、イメージが良いという面もあるとみる向きもいる。
前述の法律事務所スクワイヤ・サンダースのパートナー、ギルビー氏は「アイルランドやオランダ、ルクセンブルクなどに移転すると、いかにも課税逃れという感じでイメージが悪い。その点、英国は典型的なタックスヘイブンというわけではないため、悪い印象がない」と話す。

Tom Bergin 翻訳:吉川彩 編集:山川薫

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