太陽系から最も近い太陽系外惑星が消えた!

『アバター』や『トランスフォーマー』ではキャラクターの故郷にも

2015.11.04
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
ケンタウルス座α星Bbの想像図。ケンタウルス座α星は三重連星で、想像図にはそのうちの2つの恒星(左がA星、中がB星)と、B星のまわりを公転する惑星Bb(右)が描かれているが、この惑星が存在しないことが明らかになった。(PHOTOGRAPH BY REUTERS)
ケンタウルス座α星Bbの想像図。ケンタウルス座α星は三重連星で、想像図にはそのうちの2つの恒星(左がA星、中がB星)と、B星のまわりを公転する惑星Bb(右)が描かれているが、この惑星が存在しないことが明らかになった。(PHOTOGRAPH BY REUTERS)
[画像のクリックで拡大表示]

 科学者が1つの惑星を消滅させた。このほど発表された研究によれば、太陽系から最も近い太陽系外惑星として話題になったケンタウルス座α星Bbは、観測データ上にあらわれた幽霊にすぎないという。

 2012年に科学誌「ネイチャー」にこの惑星の存在が報告されたときには、推定質量が地球程度だったこともあり、画期的な発見と評された。ケンタウルス座α星系は、地球からの距離がわずか4.3光年で、『アバター』や『トランスフォーマー』などのSF作品の登場するキャラクターの故郷に設定されている。そんなに近いところに生命が棲んでいるかもしれない惑星が見つかったというニュースに、人々は大いに沸き立った。(参考記事:「最も近い恒星系に地球大の惑星を発見」

 とはいえ、この惑星は生命探しには適していない場所だった。主星からの距離が太陽から水星までの距離の10分の1程度しかなく、その灼熱の表面はドロドロに溶けた岩石に覆われていると予想されたからである。

 そして今、ケンタウルス座α星Bbは、地球サイズの惑星を見つけることの難しさを「惑星ハンター」に改めて教えることになりそうだ。このほど論文サーバー「arXiv」に投稿され、近々「英国王立天文学会月報」に掲載される予定の論文が指摘したように、背景ノイズとかすかな手がかりを区別するのは信じられないほど困難なのだ。

 この惑星を発見した研究チームも同意見だ。米ハーバード・スミソニアン天体物理学センターのザビエル・ドゥムスケ氏は、「本当によい研究です」と評価する。「100パーセント確実というわけではありませんが、あの場所に惑星は存在していないのでしょう」。

惑星はどのように消えたのか

 惑星が消えたのは、これが初めてではない。2005年には、ポーランドの天文学者マチェイ・コナツキ氏が、互いに強く結びついている三重連星HD188753が木星に似た巨大なガス惑星を持つことを示す証拠が得られたと発表して、天文学コミュニティーを波立たせた。惑星形成理論によれば、三重連星の重力場は、そうした巨大惑星の形成を妨害するはずであるからだ。けれどもその2年後、別の研究グループが問題の惑星を観測しようとしたが確認できず、コナツキ氏の発見は勘違いだったことが示された。

 ドゥムスケ氏がケンタウルス座α星Bbを発見したときに用いたのは、ドップラー法というやり方だった。恒星のまわりに惑星があると、恒星が引っ張られてわずかにふらつき、この運動が恒星の光の変化として捉えられる。パトカーが近づいてくるときにはサイレンの音が高くなり、遠ざかるときには低くなるように、恒星が地球に近づくように動くときには波長が青の方にずれ、遠ざかるように動くときには赤の方にずれるからだ。ドゥムスケ氏がケンタウルス座α星Bを観測したところ、スペクトルが規則的に赤の方や青の方にずれているように見えた。この変化は、恒星が小さな惑星に引っ張られて約3日の周期でふらついていると考えると、うまく説明することができたというわけだ。

 当時、恒星のふらつきを利用して存在が推定されている惑星は数百個あったが、いずれもケンタウルス座α星Bbより大きな惑星だった。そのため、一部の研究者はドゥムスケ氏の発見に懐疑的で、太陽系外惑星探しの草分けである米イエール大学の天文学者アーティー・ハッチェス氏も否定的な分析結果を発表している。(参考記事:「グリーゼ581の系外惑星は幻だった」

 そして今回、まばらなデータのせいで、存在しない惑星を出現させてしまったことが明らかになった。

 ピアノ協奏曲を鑑賞しようとしているものの、10音に1音しか耳に届かない状況を想像してほしい。すると、バッハをベートーベンと勘違いするかもしれない。同様に、ケンタウルス座α星Bbを発見した望遠鏡は1週間に数回しか恒星を観測していなかったので、まばらなデータを見た天文学者は、何もないところに惑星があると勘違いしてしまったのだ。

 英オックスフォード大学で天体物理学を専攻する大学院生のヴィネシュ・ラジポール氏は、恒星の黒点、観測装置の電子ノイズ、別の恒星による引力など、惑星とは無関係な原因が恒星表面にかすかな光のパターンを作り出し、それが惑星のせいと勘違いされることを示した。

偽りの惑星を作り出す

 この主張を証明するため、ラジポール氏はコンピューター・シミュレーションで惑星を持たない恒星を作り、とぎれとぎれに観測してみた。

 それから観測データを合成したところ、突然、存在しない惑星が出現したのだ。

 ラジポール氏によると、これまでに5600個以上の太陽系外惑星候補が発見されているが、そのほとんどはずっと大きいため、問題はないという。

 ケプラー宇宙望遠鏡は地球より小さい太陽系外惑星を発見しているが、こちらも問題ない。ケプラー宇宙望遠鏡は空の一画を連続的に観測している上、ドップラー分光法とは別の、惑星が恒星の手前を通るときに恒星の明るさがわずかに暗くなる現象を利用して惑星を探しているからだ(トランジット法)。(参考記事:「太陽系外惑星と宇宙における生命」

 太陽系外惑星探しの難しさをよく知るドゥムスケ氏は、最近、小さな惑星を発見するコンテストを主催した。大小さまざまな惑星を持つ恒星や惑星を持たない恒星のシミュレーションを作って、惑星探しの専門家に挑んだのだ。その結果、恒星のふらつきから大きな惑星を探している専門家チームのこの部門の正答率は約90%だったが、小さい惑星になると、いちばん成績がよかったチームでも正答率は約10%で、実に多くの誤りがあったという。

文=Devin Powell/訳=三枝小夜子

  • このエントリーをはてなブックマークに追加