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スマホアプリの露出をどう図る? 「広告ツール」として見たLINEの今

LINEが事業者向けセミナーを開催

 LINEは9日、アプリ開発者・提供事業者を対象にした「LINEを活用した最新マーケティングセミナー」を開催した。

 事業者向けのイベントとあって、LINEが提供する新たな商材がいかに効果的かアピールされる場となったが、その効果を裏付けるため、LINEが日本や世界でどのように受け入れられているか、現状が具体的なエピソードや数字とともに語られ、セミナーを通じて、広告主向けの視点で見たLINE、という一風変わった姿が紹介される形となった。

 またアプリ事業者を代表する形で、ガンホーが取り組んだプロモーションでの活動も紹介された。この講演も具体的なエピソードで紹介され、国内トップのスマホゲーム事業者であるガンホーの姿勢が垣間見える内容だった。

LINEのデイリーアクティブ率は

LINEの田端氏

 現在、LINEのユーザー数は、グローバルで4億5000万人。その中でも日本国内では5100万人を誇る。

 そうしたユーザー数のうち、どれくらいの人数が日々、LINEを利用しているのか。LINE上席執行役員法人ビジネス担当の田端信太郎氏は、「デイリーアクティブユーザー(DAU)は全体の約6割(59.2%)。3000万人以上が、毎日LINEを使っている。もはやマスメディア級といって差し支えないのではないか」とアピールする。

 これほどの人が使うだけであって、LINEのユーザー層は、年齢、居住地、性別などに大きな偏りがなく、「東名阪に偏るFacebookやTwitterとはかなり違ったユーザー属性」(田端氏)であり、一般的なWeb広告ではリーチできない層にもアピールできることがLINEの大きな特徴だという。

テレビCMの批判、と思いきや……

 一般的に、最も大規模なマスメディアであるテレビCMは、その威力も抜群で、多くの新規ユーザーを獲得できる効果がある、と見られている。こうした視点に対して、田端氏はテレビCMにかかる費用が、制作費を含めて「1つのキャンペーンでどんなに少なくても1億円~2億円」(田端氏)と高額であること、放送時の視聴率が想定よりも低かったとしてもWeb広告と異なり補填されないこと、新参となる企業は金額面で高値になりがちであることと、効果は多大ながら知っておくべきポイントがある、と説明する。

 そうした中で、スマートフォンで動画を観るユーザーは増えてきている、と状況の変化を紹介する田端氏の説明は、まるでテレビCMを批判してスマートフォン向け広告へのシフトを呼び掛けているように思える。しかし、スマホ向けの動画広告はテレビCMに置き換えるものではなく、「ユーザーはテレビとパソコン、スマートフォンを重ねて観ている。スマホのみの人は少ない」と田端氏は語る。

 そこで商材として紹介されたのが、最近同社がリリースした企業向け広告ツール「LINEフリーコインVideo」だ。単なる商材紹介に留まらず、その利用動向が人気ナンバーワンのLINEらしい驚きの数字。「LINEフリーコインVideo」は、動画全てを観ることで、ユーザーは無料でコインをもらえるという仕組みであることから、動画を全て観るユーザーが、全体の7割を超えている。さらには動画終了後、広告動画の出稿主である企業側が指定したページ(アプリダウンロードサイトなど)へのアクセスする率(遷移率)は2割を越えるとのことで、一般的なWebサイトにおける広告枠のクリック率を遙かに上回る。

ダイレクトスタンプ

 このほか、企業側がユーザーに直接スタンプを紹介して、ダウンロードを促す「ダイレクトスタンプ」も紹介された。これも広告枠の一種として提供され、企業は1000万円から利用できる。

 通常、スタンプは専用のショップで販売、紹介されるが、ダイレクトスタンプであれば、たとえばイベント会場でQRコードを掲示して、ユーザーに対して直接、企業の販促用スタンプへ誘導を図れる。スタンプであればユーザー同士のコミュニケーションにも活用され、スルーされる可能性が低くなる、というのがLINE側の主張。「既読」というマークを気にするかどうかが話題になるLINEの利用傾向からすれば、一定の広告効果が期待できそうなスタンプのダウンロード率をより一層高めるための広告枠として、企業側にそのメリットを訴えかける。さらには自らのスタンプショップの枠組みに縛られず展開する、LINEの柔軟性も透けて見える取り組みだ。

台湾、タイが次の有望市場

 「クッキーラン」「ディズニーツムツム」など、次々とLINE発のゲームが人気となっている。これらのコンテンツはゲーム会社が開発して、LINEがパブリッシャーとなって提供されているものだ。そういう意味で、LINEが他社と組まないというのは誤解だとLINEゲーム戦略チームの大塚純氏は説明。また手軽に遊べるカジュアルゲームだけではなく、最近ではタワーディフェンス型と呼ばれる、戦略的なゲーム「LINEレンジャー」をローンチしており、「だんだんとLINEゲームの印象を変えていきたい」(大塚氏)のだという。

 そしてLINEのゲームが受け入れられているのは、日本だけではない、という。特にアジア市場が有望であり、既に台湾のARPU(ユーザー1人あたりの売上)は日本と同レベルとなり、タイでも「クッキーラン」がタイ国内のゲームアプリ市場の規模を2倍にして、その半分を「クッキーラン」が占めるなど、高い人気を得たという。東南アジア市場ではクレジットカードでの支払いが期待できなかったが、LINEではWebストアを展開。「クッキーラン」が人気のタイでもそうした仕組みが活用され、売上を伸ばした。こうした状況を踏まえ、米国や欧州ではなく、東南アジアは今、競合となる企業が少なく、これからの成長が期待できる市場と大塚氏はアピールした。

ローカライズが重要

 各国でのLINEの展開は、たとえばスタンプやゲームのどちらも、日本で開発して現地に投入、という単純なものではなく、現地スタッフの収集した情報を踏まえて、ローカライズした上で提供されている。

 インドネシアでは、イスラム教の行事である、ラマダンにあわせたスタンプを配信した。ブラジルでは「ムーン」というキャラクターがなよなよしているという意見があがったことを受けてマッチョなデザインにした。タイでは水かけ祭り(ソンクラーン)にあわせたイベントをゲーム内で実施した。さらにシステム面でも社内のエンジニアが「LINE遠征隊」として各国に1週間単位で過ごし、通信速度などを調査して、サーバーの設置場所などを検討し、改修を重ねているのだという。

LINEの出澤氏

 テレビCMも各国によって内容を変えている。最近ではスペインから南米へ人気の火が移り、さらには同じスペイン語繋がりで北米への進出も目論む。「いろいろと想定できない面白い動きがある」と、LINE代表取締役COOの出澤剛氏は語る。

 このように世界各国で地域に根差した取り組みを進め、エリア拡大を図る一方、高いシェアを得た日本のようなエリアでは、通話サービスや通販サービスなど、内容を多様化して接点を増やし、インフラ化していくことを目指している。出澤氏は、日本のスマートフォンゲームを世界に進出させ、ひいては日本のネット業界を盛り上げたいと述べて、来場したアプリ開発者にLINEでの取り組みを進めるよう呼び掛けた。

「ケリ姫スイーツ」で見るガンホーの取り組み

ガンホーの横内氏

 国内トップの人気アプリ「パズル&ドラゴンズ」を手がけるガンホー・オンライン・エンターテイメントのマーケティング部マーケティング課 課長の横内皇太氏は、ガンホーにおける全てのスマホ向けアプリの広告・宣伝活動に携わる。今回は、広告・宣伝という面で複数の手段を駆使することの重要性を紹介する講演を行った。

 ゲームが主役というスタンスを打ち出すガンホーだが、テレビCMはもちろん活用する。ただ、「新規ユーザーの獲得だけ見ればあまり効率的ではない。単純にアプリのダウンロード数ではアドネットワークのほうが(効果が)高い」と横内氏は指摘する。それでもテレビCMには認知度の向上、いったんプレイしたもののしばらく遊んでいない“休眠ユーザー”の復帰を促す、Web広告だけでは訴求できない層へのアプローチといった効果が見込めるのだという。

 今回の講演の題材に選ばれた、2012年11月リリースのゲーム「ケリ姫スイーツ」はどうだったのか。開始時の施策の効果などもあって3カ月目で150万ダウンロードに達し、初動は順調だった。その勢いをどう活かすか、4カ月目以降は、ひとまずプロモーションには注力せず、ゲームそのものを改修。チュートリアルやゲームバランス、イベント内容などに手を入れたことで、継続してプレイするユーザーの割合が向上した。そして次の一手として実施したのがテレビCM。2013年の8月中旬と9月中旬、つまりお盆とシルバーウィークを狙って実施したテレビCMでは、累計ダウンロード数の向上と認知率向上を目指し、CMの内容自体も「ケリ姫スイーツ」の楽しさを紹介するものにした。テレビCMに加えて、ブースト広告(一定期間、ネットや他のアプリの広告枠での露出を増やす手法)の実施、Webメディアや紙媒体へのアプローチを行った。

 CM放送前の時期、そしてCMだけ放送していた時期を比べると、アプリのダウンロード数は1.67倍だった。そしてテレビCM以外での露出の取り組みを実施した期間に入ると、ダウンロード数はCM放送前の14.72倍と飛躍的に伸びた。テレビCMだけではなく、さまざまな手法を組み合わせることで、それらの効果の最大化を追求できる、と横内氏は説明。ダウンロード数や認知率も、目標を大幅に超える結果を残した。

 LINEが用意する販促ツールである「LINEフリーコイン」も、「ケリ姫スイーツ」のテレビCM実施時にあわせて活用したとのことで、通常ではリーチしづらいユーザー層にアピールでき、なおかつLINEがもともとコミュニケーションツールであることから口コミでの広がりという効果も大きかったと指摘。さらにLINEユーザーはゲームアプリに慣れ親しんでおり、継続率は、他媒体経由で獲得したユーザーを凌駕するという。

 こうした取り組みは、最大の人気を得ている「パズル&ドラゴンズ」でも実施。月間の利用率は2013年春ごろから横ばいだったが、昨年末ごろから、「ケリ姫スイーツ」のような“多角的アプローチ”を実施したことで、利用率が向上したという。こうした取り組みは、事前の準備期間が必要であり、横内氏は、「開発・運営・プロモーションが一連託生となって動く必要がある」と社内社内の関係者が力をあわせることの重要性を指摘していた。

関口 聖