アングル:アップルペイが決済業界に波紋、駆け込み参入相次ぐ

アングル:アップルペイが決済業界に波紋、駆け込み参入相次ぐ
 9月19日、アップルがわずか10日前に発表した新たなモバイル決済システムは、既に金融業界の大手企業を取り込み、他の弱小決済システムは消滅に追い込まれる恐れがある。米カリフォルニア州で開催されたアップルイベントで9日撮影(2014年 ロイター/Stephen Lam)
[フランクフルト 19日 ロイター] - 誇大広告を煽ることが多いハイテク業界において、「革命的」という言葉はその意味を失う危険性が絶えず付きまとう。しかし、アップルがわずか10日前に発表した新たなモバイル決済システムは、既に金融業界の大手企業を取り込み、他の弱小決済システムは消滅に追い込まれる恐れがある。
その極意とは「アップルペイ」が既存の多くの関係を維持しながらも、市場支配力を持つ新たなプレーヤーを組み入れることだ。そのプレーヤー自身が支配者となる。潜在的なアップルペイの信奉者は誰かといえば、既に「iTunes」(アイチューンズ)ストアの口座に対してクレジットカードやデビットカードで決済を行っている8億人のアップルユーザーということになる。
銀行コンサルタント会社アイテ・グループの決済エキスパート、ナタリー・ライネルト氏は「アップルの手法は、既存の決済ネットワークと競争的というよりは協調的に思える。しかも参入による悪影響は非常に少ない」と指摘する。
アップルペイが始まると、アップルの新型携帯電話や近く発売されるタブレット、スマートウォッチを利用する消費者は、端末を店頭に設置されたリーダー(読み取り装置)にかざすだけで買い物ができるようになる。19日に発売された新型スマートフォン(スマホ)「iPhone(アイフォーン)6」は9日にまず公開されたが、この際にクレジットカード業界の大手ビザ、マスターカード、アメリカン・エキスプレス(アメックス)がアップルの新サービスへの対応を確約すると宣言した。
大手小売り企業もアップルと契約を結び、今や大手銀行が他行を出し抜こうと顧客への売り込みを競い合っている。消費者による支出の大きなシェアを得たり、採算の見込める付随した取引ビジネスを獲得しようと期待しているのだ。
AT&T、ベライゾン、TモバイルUSA[TUII.UL]の米携帯電話大手でつくるコンソーシアム「ソフトカード」はこのほど、SIMカード対応版の2015年の開発に向け、アップルと協力していると発表した。
さらにフランスの決済端末会社インジェニコは、スペインの高級ハンドバッグとファッション小売りロエベとの間で、34カ国160店舗でアップルペイの決済サービスを提供する契約を結んだ。ロエベはフランスの高級ブランドLVMHが保有する。
フォレスター・リサーチの決済アナリスト、デニー・カリントン氏は「企業サイドで殺到する動きが出ていることに、疑いの余地はない」と話す。
米ツイッターの共同創業者ジャック・ドーシー氏の2社目の起業となるクレジットカード・リーダーの新興企業スクエアは、多くの店舗に導入された同社の端末でアップルペイが利用可能になるとしている。
グローバル・エクイティーズ・リサーチの金融アナリスト、トリップ・チョードリー氏によると、アップルはすでにツイッターとの間で「今すぐ購入する(BUY NOW)」ボタンの創設に向け協業中で、フェイスブックとも「購入する(BUY)」ボタンの導入に向け作業を行っているという。
<急がば回れ>
電子決済システムは、銀行やクレジットカード発行体、取引処理業者のほか、ともに競走上優位な立場を求めて激しく競い合っている小売業者や加盟店など、極めて複雑な供給網を通じて顧客とお金をつないでいる。
このほかに独立した決済技術の関連企業が新興企業から中規模会社まで何百社もある。こうした中規模会社は健全な事業機会を見極めた上で、決済システムで足りない部分を供給している。銀行や通信会社、小売り大手はこれらの専門業者に特別注文での決済システム創設を依頼している。
業界地図が急速に塗り替えられる中で、英国のモニタイズは早くも犠牲者になったようだ。同社は11年前に革新的企業として多くの異なる携帯電話で利用可能な電子決済サービスを開始し、ここ最近まで毎年売上高が倍増していた。
成功のカギは、世界中の銀行や金融決済サービス会社との契約を支援してくれる世界最大のカード会社ビザの後ろ盾だった。
しかし、ビザは18日、モニタイズの残る持ち株の売却を視野に入れていることを明らかにした。今後は自社システムに注力するためで、モニタイズは時価総額の3分の1に当たる2億9000万ポンドを失う。
シティグループのグローバル消費者向け銀行部門の責任者を務め、現在はシリコンバレーのデータシェアリング企業であるコマース・シグナルズを経営するトーマス・ノイエス氏は「何百種類もの携帯電話が存在した複雑な環境は過去のものになった。今は(グーグルの)アンドロイドとアップルだけ」と指摘する。
前出のフォレスターのカリントン氏は「小規模事業者だけでなく(イーベイ傘下)のペイパルのような大手も立ち止まって考える理由が生じた」と付け加えた。
銀行ソフトウエアのサプライヤーであるテメノスの最高戦略責任者(CSO)、ベン・ロビンソン氏は、世界の大手カード会社までも締め出されないようにアップルペイへの対応を急いでいると指摘した。
その上で「電話をタッチしたり、メッセージを送信するだけで決済できるなら、加盟店は(大手クレジットカード会社を)利用しなくても取引から直接的に価値を得ることが可能になる」とみている。
ロビンソン氏はこのほどジュネーブで198人のシニアバンカーを対象とした調査の結果について発表した際、上記のコメントを寄せた。
テメノスの調査によると、回答者の23%は競争上の最大の脅威としてハイテク企業を挙げ、回答率は20%の大手銀行を上回った。そうした回答は2012年の11%から、2013年は18%と年々上昇している。
(Eric Auchard記者)

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