アングル:ドンキが狙うコンビニ市場、実験店次第で多店舗展開も

アングル:ドンキが狙うコンビニ市場、実験店次第で多店舗展開も
 11月12日、小売業界の中でユニークな発展を続けているドン・キホーテホールディングスが、コンビニエンスストア市場を狙っている。都内の同社店舗で5月撮影(2014年 ロイター/Yuya Shino)
[東京 12日 ロイター] - 小売業界の中でユニークな発展を続けているドン・キホーテホールディングス<7532.T>が、コンビニエンスストア市場を狙っている。
価格や品ぞろえで既存のコンビニとの差別化を図っており、10店程度の実験店舗で検証後、多店舗展開に踏み切るかを決断する。小売業界で数少ない成長市場で一定の存在感を示すことができれば、大きな波紋が広がりそうだ。
<小商圏型店舗は世界の潮流>
ドンキが展開するコンビニは「驚安堂(きょうやすどう)」。昨年6月に1号店を開き、今年10月15日に4店舗目・梅島駅前店(東京都足立区)をオープンした。「ビッグコンビニ」との看板通り、売場面積は通常のコンビニ店舗より広く、食品、酒、日用消耗品、化粧品などコンビニにある商品に加え、衣料品や家電、玩具など品揃えも豊富だ。個店主義の同社だけに、品ぞろえは店によって異なる。
安田隆夫・会長兼最高経営責任者(CEO)は「コンビニ市場は極めて巨大な市場。しかし、一定の店舗規模で、しかもフランチャイズ形態で成功してきたため、ビッグコンビニを手掛けることはできない」として、狙いを定めた。
対コンビニの強みは、価格面と選択肢の多様性だ。コンビニがひしめく中で新たな需要を引き出すには「全く違うものを差し込むしかない。コンビニ銀座の中で、コンビニより安い物を、コンビニより大きな面積でやられれば、コンビニにとっては痛い」と指摘する。
こうした小商圏型店舗は、世界でも潮流となっており、米ウォルマート・ストアーズや独ALDIなどが手掛ける。小型店舗で機動性を高め、移り変わりの早い消費者ニーズに的確に対応する。ネット通販の拡大への対抗する側面もある。
日本でもイオン<8267.T>が「まいばすけっと」、セブン&アイ・ホールディングス <3382.T>が「食品館」、ローソン<2651.T>が「ローソンマート」などを展開しているが、ドンキの場合は、これまで培ったノウハウを生かし、徹底したディスカウントで臨む点が他社と異なる点と言える。
<コンビニで満足できない消費者>
小商圏での店舗は、対象となる客数が少ない分、何度も来店を促す「食品」を中心に据えることが必要となる。
ドイツ証券・シニアアナリストの風早隆弘氏は「ドンキの食品の売上高は、日本の小売業でトップ15に入る規模になっている。長崎屋を買収後に食品を強化してきたことで、スケールメリットも出てきている」と評価。ローコストオペレーションで提供される「食品」は、十分に顧客を呼ぶことができるとみる。
高齢化や個食化、女性の利用など客層拡大に向けた対応を進め、06年に4万店舗に乗ったコンビニは、2015年9月末には5万1000店舗超と約3割拡大した。ただ、食品支出に占めるコンビニのシェアは15%に過ぎない。コンビニだけでは満たされない都市部の消費者は、確実に存在していると言える。
風早氏は「アベノミクスの本質は、格差拡大社会」と指摘、あらゆるところで発生している2極化も、ドンキの試みにとってフォローの環境だとみる。消費増税をはじめとしてインフレ経済の兆しのなか、個人の「2極化消費」もますます明確になっており「賢く消費をする人が増えている。同じものならば安く買うという行動は強まっていく」(風早氏)。
<「果敢な挑戦」は日の目を見るか>
ドンキの安田会長は、実験店舗を10店舗程度に広げていく方針を示している。その後、多店舗展開を行うか、戦略を見直すか、今後の展開について検討することになる。
コンビニは「小口・多頻度・定時配送」という物流システムを構築したことで発展した歴史がある。安田会長も物流は今後の課題になると認める。店舗数が少ない現段階ではコンビニと同じ戦いは難しいものの「かなりの部分を取っていくことは可能。コンビニにも強みと弱みがある」とし、商機はあるとみる。
企業間格差が目立ち始めた小売業界でも再編・淘汰が予想され、出店場所の確保についても、追い風が吹く可能性がある。
迎え撃つコンビニ側では「今、コンビニの主たる対象は、働く女性と高齢者。価格というよりも、対象顧客のニーズにどう応えるかが勝負となっている」(大手コンビニ幹部)と話し、価格重視の業態は競合にならないとみる。
価格で勝負する商品に加え、どの程度、オリジナリティのある商品を提供できるかも集客のポイントになる。食品は粗利率が低いため、利益率を重視するならば、食品と他の商品とのバランスをどのように取るかが重要な点となる。
ドンキは以前、「情熱空間」というコンビニを展開していた。2006年8月の1号店から1年足らずの2008年1月に全店舗の閉店を終え、撤退した。安田会長によると、キッチン付きのコンビニにしたことで、消費者からの支持は高かったもののコストが掛かり過ぎたことから、撤退を決めたという。
「果敢な挑戦と迅速なる撤退」―――。安田会長は、ドンキの経営についてこう話す。「驚安堂」がコンビニ業界を脅かす存在になるかどうか、そう遠くない時期に答えは出そうだ。

清水律子 取材協力:金昌蘭 編集:田巻一彦

私たちの行動規範:トムソン・ロイター「信頼の原則」, opens new tab