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[イラストコラム]NBAオールスター2016観戦記(西尾瑞穂)

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初の米国外開催となったNBA All Star 2016 in Torontoから2週間が経ちました。延長戦にまで突入し、歴史的な盛り上がりを見せたザック・ラビーンとアーロン・ゴードンのダンクコンテストや、長年NBAを支え続け、今も絶大な人気を誇るコービー・ブライアントの最後のオールスターということで、NBAファンの皆さんにとっても記憶に残るイベントだったのではないでしょうか?

もちろん我々NBA Japan取材陣も会場で大興奮だったわけですが、熱く盛り上がったアリーナ内とは裏腹に、気温がマイナス20度を下回る極寒のトロントでの取材は過酷を極めました。このコラムでは、そんなトロントでのオールスター取材の裏側を振り返ります。


Illustration by Mizuho Nishio

印象に残ったファンの気持ちの強さ

昨年のニューヨークに続き、今年も極寒のトロントでの開催となったNBAオールスター。現地に集まった取材陣の間からは「暖かい南部でやってくれよ……」という声が数多く聞かれました。NBAオールスター期間中は、オールスターの本戦やサタデー、ライジングスターズ・チャレンジなどが開催されるエア・カナダ・センターと、各種関連イベントが開催されるNBA CENTER COURT(昨年はNBA HOUSE、それ以前はNBA JAM SESSIONという名称でした)の会場のほかにも、街のスポーツショップ等いたる所でNBA選手が登場するイベントが行なわれていたのですが、それらの場所を移動して回るにもマイナス20度を下回る気温の中では困難を極めました。

しかも、例年ならばメインの会場とNBA CENTER COURTが行なわれるサブ会場は歩いてでも行ける距離にあるのですが、今年は2つの会場の間がかなり離れており、気温だけではなく距離的にも、時間的にも大変な取材となりました。

また、例年ならばアリーナ内にある大広間がメディアルームとして開放され、そこで記者たちは記事を書いたり、取れたての情報を発信したりするのですが、今年はスペースの関係もあってかメディアルームが大幅に縮小され、記者は基本的に客席内にある自分のメディアシートに座るように指示された点も、大きな違いでした。

例年通りならばメディアルームのすぐ近くに写真撮影室もあり、オールスターサタデーのイベントで賞を受賞したばかりの選手がトロフィーを持って写真撮影に向かう喜びの姿などを見ることができたのですが、今回はそういった公式の記者会見場以外での選手との触れ合いもありませんでした。

以上のことからも、取材する側としては、今年のオールスターはかなり厳しい環境だったと言えます。

しかし、NBAの運営やトロントの人々の手厚いホスピタリティにより、気候や施設・設備の上、やむを得ず生じたこれらのマイナス面は見事に打ち消されました。

例えば、小さなことですが、アリーナとその周辺の道案内の親切さが挙げられます。

寒冷地のトロントでは、「PATH」という地下街が街中に張り巡らされていて、冬場は人々は主に地下で移動をします。今回のメイン会場のエア・カナダ・センターへも、ホテルがあるダウンタウンからPATHを通って行けるのですが、私たちのような土地勘のない人間にとっては、PATHはまるで迷路のような構造でした。

ちなみに、私はオールスター開催前に何度かエア・カナダ・センター~ホテル間の往復を試みましたが、迷わずに行けたのは1回だけでした。地上を歩けば一直線の道なので、マイナス20度の中を徒歩でアリーナまで行くことも覚悟しましたが、ひとたびオールスター期間に入ると、地下街のいたるる所に「エア・カナダセンターはコチラ」というプラカードを持った係員が立っていて、道に迷うことは1度もありませんでした。

地下街を歩いていて目の届く範囲には必ず係員が立っていたので、おそらく100人以上は道案内のためだけに動員されたと思われます。他のオールスター開催地では「街はいつも通りの街。NBAオールスターをやっているのは会場だけ」という雰囲気だったので、今回のように街全体がNBAオールスターに密接に関わっているのは、とても珍しいことだと感じました。

また、中でも最も印象に残ったのは、「カナダで開催される初めてのNBAオールスターを成功させよう」、そして「このオールスターを心の底から楽しもう」という会場に集まったファンの気持ちの強さです。

ここ何年かはずっと現地でオールスターを観てきましたが、どこもかなりの空席が目立っていました。チケット価格が高騰したからなのか、ダフ屋に大量にチケットが回ってしまったからなのか、スポンサーにチケットを配りすぎたのか……その原因は定かではありません。昨年のニューヨークでは、普段から街にエンターテインメントが溢れているために、NBAオールスターが開催されていることすら知らない市民が多かったとも聞きます。

しかし、今回のトロントでは、どのイベントも会場は超満員。しかも、集まったファンは、例えば地元チームの選手や一部のスター選手といった特定の選手にだけ声援を送るようなことはせず、全ての選手に向けて暖かく大きな声援を送り、絶えず大きな歓声を上げてイベントを盛り上げていました。

今年のオールスターサタデーの3つのイベント(スキルズチャレンジ、3ポイントコンテスト、ダンクコンテスト)がどれもNBA史上最高級の盛り上がりを見せたのは、もちろん選手たちのプレイが素晴らしかったのもありますが、ファンの熱い声援が選手たちの力をもう1段階上に押し上げたような気がします。

特に、50点満点の連続で延長戦にまでもつれ込んだザック・ラビーンとアーロン・ゴードンのダンクコンテスト決勝で、持っている技を出し尽くしたであろう2人が最後までミスすることなく最高のパフォーマンスを披露できたのも、そのときに会場で巻き起こった「one more time!」コールに2人の気持ちが後押しされたからに違いありません。

……と、そんな温かなトロントのファンだったのですが、今回イースタン・カンファレンス・オールスターのヘッドコーチを務めたクリーブランド・キャバリアーズのタロン・ルーHCにだけは会場が割れんばかりの大ブーイングが浴びせられていました。

実は、オールスター直前にキャバリアーズはデイビッド・ブラット前HCを解任しており、その件でルーHCは“良いとこどり”のイメージが付いてしまっていたのです。それだけでなく、地元トロント・ラプターズのライバルチームで、イーストの首位に立つキャバリアーズ(オールスターブレイク時点)の指揮官であること、そして「暫定ヘッドコーチなのだから、イースト2位のラプターズのドウェイン・ケイシーHCがオールスターの指揮を執るべきだ」という考えも、トロントのファンにはあったのかもしれません。いずれにせよ、ルーHCには申し訳ないのですが、「夢の祭典といえども、そこは現実的なんだ」と妙に面白かったです。

以上、現地の興奮から一呼吸おいてNBA All Star 2016 in Torontoについて振り返ると、つくづく「NBAオールスターは開催地ごとに全く違ったイベントになる」ということに気付かされます。特に今年は国もアメリカではなくカナダということで、今まで以上に大きな違いを感じました。

さぁ、そして来年は、あのマイケル・ジョーダンがホストを務めるNBA All Star 2017 in Charlotteです! 果たして次はどんなNBAオールスターになるのか。早くも1年後が楽しみになってきました。

文・イラスト:西尾瑞穂
イラストレーター、CGデザイナー、バスケットボールライター。イラストやCGの制作、バスケットボール取材、コラムや漫画の執筆、写真撮影など幅広く活動。2013年から1年間NBA.com Japanでイラストコラムを連載した。現在もユタ・ジャズ関連を中心に毎シーズンNBA現地取材をしている。2011年にデロン・ウィリアムズとカイル・コーバー主催のチャリティ・ドッジボール大会のメイン・ビジュアルを手がけたほか、NBA選手たちのTwitter、Instagram、Facebookのアイコン用イラストを数多く描いている。 Twitter: @jashin_mizuho Instagram: jashinmizuho

著者
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NBA日本公式サイト『NBA Japan』編集スタッフ