松本です。
新元素の名称案が「Nh:ニホニウム」に決まりました
日本人が発見し、初めて命名権を得た113番目の元素の名称案が「Nh:ニホニウム」に決定しました。
周期表の日本の国名を残すのは、かねてからの悲願でありましたし、非常に喜ばしいことです。
しかし、元素マニアの目線で言うと、ほんの少しだけ残念なこともあるのです。
そこらへんを命名の流れを踏まえて、語ってみたいと思います。
なぜ「ニホニウム」という名称になったのか
まず、命名権を得られるんじゃないかという段階で、色々と候補はありましたが、日本に由来する名称というのが最有力でした。
そもそも元素に国名をつけるのって、どうなの?という意見もあるかもしれませんが、そこらへんも説明しておきますと、国名をつけるのは割とメジャーです。
ここ最近国名由来の元素名はなかったので、メジャーです、と言うと若干ずれた回答になるかもしれませんが、少なくともおかしくはありません。
マイナーな元素ではありますが、アメリシウムやフランシウムといった元素もありますし、ゲルマニウムやルテニウムもそれぞれドイツ、ロシア由来です。ガリウム、ポロニウムもそうです。
なので、全く問題はありません。
ただ、その中でなぜ「ニホニウム」になったのか、というのは理由があります。
「ニッポニウム」は使えない
大前提として、まず「ニッポニウム」は使えなかったのです。
これは元素の命名ルールの中に「周期表に一度登場した名称は使用できない」というのがあるのです。
そう言うと、え、ニッポニウムってあったの?となると思います。
実は昔、ニッポニウムという元素が周期表に載っていた時代がありました。
そちらに関して詳しく知りたい方は、上の過去記事を御覧ください。国名云々も書いてましたが、同じようなことばっか言ってんなーと思って飛ばしてください。
ですので、選択肢から「ニッポニウム」は消えました。
完全な余談をはさみます
ここで、完全な余談をはさみますので興味ない方は飛ばしてください。
先ほど、元素命名のルールとして「周期表に一度登場した名称は使用できない」と言いましたが、厳密に言うと少し違います。
厳密には「元素名として一度提案された名称は使用できない」です。つまり、採用されようがされまいが、提案してしまえばもう他の元素にも使用できなくなるのです。
このルールによって明暗がわかれた有名な話があるのでご紹介します。
その昔、マイトナーという有能な女性化学者がいました。マイトナーは数々の発見をし、研究の末、原子核の崩壊という現象を発見しました。
これらの功績により、ノーベル賞の受賞は確実と言われていましたが、原子核の崩壊によりノーベル賞を受賞したのは、マイトナーの共同研究者で男性のオットー・ハーンだけでした。
マイトナーが受賞できなかった理由は、当時の女性軽視という風潮、権力争いの結果、マイトナーがユダヤ系の血筋、色々と噂されましたが、確定的な理由はわかっていません。
そして時は流れて、加速器により2つの元素を高速でぶつけることで、新しい元素を生み出すという技術が確立され、アメリカとソ連が次々と新元素を発見(生成)する時代になりました。
アメリカとソ連は次々に発見しては、命名権を主張しあいました。
その中で、105番目の元素に対して、アメリカは「ハーニウム」という名称を主張しました。あの、オットー・ハーンにちなんだものです。
その一方で、アメリカは106番目の元素に「シーボーギウム」という名称を主張していました。これは加速器を用いて数々の元素を発見したシーボーグに由来するもので、アメリカはどうしてもこの名称をつけたいと考えていました。
しかし、これに対しては猛反対にあいました。なぜならば、シーボーグはまだ存命だったからです。存命中の人物名を元素につけた例はありませんでした。
アメリカはシーボーグの功績からどうしても譲らないと主張しました。その過程で、ハーニウムに関しては、ソ連に譲ろう、という話になり、ソ連は105番目の元素に「ドブニウム」と名付けました(ソ連の研究所名にちなむ)。
そして、106番目の元素はシーボーギウムになりました。
こうして、ハーンの名称は元素名にはならず、また、未来永劫、元素名になることはなくなりました。
しかし、ノーベル賞を受賞できなかったマイトナーは、109番目の元素を発見したドイツにより「マイトネリウム」という名称で周期表に載ることになりました。
ノーベル賞と元素名、どちらも非常に名誉なことですが、元素の名前となった人物はキュリー夫人、アインシュタイン、ノーベル、レントゲン等、10人ほどしかありません。
化学の世界というのは、一体いつ、どんな功績が生まれ、名誉が与えられるかわかりませんね。
ちなみに、彼女、マイトナー自身、新元素(Pa:プロトアクチニウム)を発見しております。その命名の際に「自身の名前をつけたらどうか?」と提案されましたが、断っています。そこらへんもまた興味深い話ではありますね。
それではまた!(もうちょっとだけ続くぞい)
なぜ、もう一つの案「ジャポニウム」ではなかったのか
ニホニウムの話に戻します。
ニホニウムに決定する前、有力な名称として「Jp:ジャポニウム」が挙げられておりました。これも過去の記事に書いていた気がします。
僕もジャポニウムになると思っていました。では、なぜジャポニウムにならなかったのか。
一つは、ジャポニウムという名称が日本人の蔑称である「ジャップ」を連想させるから、だそうです。
確かに言われてみれば、その可能性はあります。
また、もう一つの理由として「ジャポニウム」はラテン語やフランス語に由来するものですが、発見グループは日本語にしたい、というこだわりがあったそうです。
そう言われれば、海外で「ニホン」という呼称はあまり使われていませんね。これを機に「ニホン」が広まると思えばいいかもしれません。
しかし、ニホニウムという発音は少し難しい気がしますので、上のような理由があったからこそ、ニッポニウムであれば・・・という想いもやはりありますね。
ちなみにどうでもいいですが、ニッポニウムであれば、Npが使えないので、Nnになっていたでしょう。同じアルファベットが2つ続く元素名はないので、初になっていました。本当にどうでもいいですが。
元素マニアの嘆き
さて、冒頭でも少し述べましたが、元素マニアのしょーもない嘆きを説明して終わりにします。
僕は「Jp:ジャポニウム」を推していました。推していましたとかいうと、まるで検討グループに参加してたかのような言い方ですが、勝手に推してただけです。
なぜかというと、その元素記号です。
現在、周期表に存在しないアルファベットは、実は2つしかないのです。
それが「J」と「Q」です。
その中でも「J」に至っては、登場したことがないのです。正式名称ではありませんが、元素につける仮の名称として「Q」はつい最近までありました。
おおお、ようやくJが出るか、しかも日本に由来するし、これは初物尽くしで言うことねぇなぁ!!というしょーもない喜びだったのです。
これにより、Jの登場はまた流れましたし、しばらくはまぁないでしょうね。Qもないですけど。
本当にどうでもいいですね。
115番目、117番目、118番目の元素名(案)も発表されました
それぞれ、115番目が「Mc:モスコビウム」、117番目が「Ts:テネシン」、118番目が「Og:オガネソン」だそうです。
117番目と118番目がこれまでとは違った雰囲気になっているのは、ハロゲン元素と希ガス元素だからでしょう。それぞれの末尾の合わせて命名されたようですね。
モスコビウムはモスクワに由来、テネシンはアメリカのテネシーに由来、オガネソンは人名のようですが・・・まだ存命中だそうです。
シーボーギウムと同様、例外となりますが、すでにシーボーギウムが通っているので、まぁ通るんでしょうね。
これらは決定ではないので、数ヶ月後に正式決定された際は違った名称になっている可能性もあります。
しかし、一気にきましたね。覚えられるかな。
最後にオススメ
最後に元素マニアからのオススメです。
これは僕が愛用している元素図鑑です。
元素って、どうしてもそのものが目に見えるわけじゃないので、身近には感じないかもしれませんが、その作り出す美しさを知ることで、元素という概念や文字ではなく、元素の存在を認識できるんじゃないかと思います。
これで元素を覚える!というには不向きかもしれませんが、家に一冊あるとついつい読んでしまいます。
子供にも見せてあげたくなる、物理化学のとっかかりとしては最適な図鑑だと思います。
ちなみに僕はiPhoneアプリも持ってます。
こちらもどうぞ!!!
続編もあります!