30代も後半に差し掛かり、なかなかついて行くことができないでいる最新の消費動向。特に、若い女性らに人気を集めているキャラクターやアイテムについては、トレンドの移り変わりが激しいこともあり覚えるだけでも一苦労だ。そんな中、1度目にしたら忘れられないイラストに出会う機会があった。

 背中にパンケーキを乗せたユニコーンや、シャンパンタワーを運ぶゾウといった、様々な動物たちが登場するパレード。黒猫を抱く、まつ毛がふさふさのパッチリ目の女の子ーー。中年に足をかけた男性記者にとっては、多少の気恥ずかしさも感じるが、そのインパクトは圧倒的。見入ってしまうような印象深さがある。

 インスタグラムなど写真の見栄えを重視したSNS(交流サイト)が大きな存在感を持つ中、これらのイラストが多くの若い女性らの心を掴んでいる。その生みの親が、イラストレーターの「絵子猫(えこねこ)」さんだ。

 昨年12月、記者はカメラマンと一緒に、絵子猫さんが埼玉県東松山市に構えるアトリエを訪れた。アトリエ内の壁には一面に絵子猫さんの作品が飾られ、独特の世界観を一層鮮明に感じることができる。百聞は一見にしかず。まずは、アトリエにある「絵子猫ワールド」が描かれた作品を見ていただこう。

絵子猫さんは「ポケットモンスター」など人気キャラクターともコラボ(写真=陶山 勉)
絵子猫さんは「ポケットモンスター」など人気キャラクターともコラボ(写真=陶山 勉)
埼玉県東松山市のアトリエでは、「絵子猫ワールド」が壁一面に広がっている(写真=陶山 勉)
埼玉県東松山市のアトリエでは、「絵子猫ワールド」が壁一面に広がっている(写真=陶山 勉)

 「圧倒的にカワイイものが好きなんです。カワイイは正義ですから!」。こう笑顔で語る絵子猫さんは福岡県出身で3児の母親。中学生の頃からイラストレーターを志し、美術系の短期大学で油絵や彫刻を学んで上京、2002年から活動を始めた。「夢カワイイ」をコンセプトに画力を磨き、地道に活動を続けてきた。

 頭角を現し始めたのは06年頃からだ。東京・原宿の「ラフォーレ原宿」で10メートルの壁に壁画を作成したり、小学館の『CanCan』で人気モデルとイラストを組み合わせた特集が組まれたりと注目を集めるようになった。人気タレントにも多くのファンがおり、吉川ひなのさんの本ではイラストも担当している。

キキ&ララやポケモンともコラボ

 絵子猫さんの作品は、写実的なデザインと幻想的な色使いを組み合わせつつ、女性が好むアイテムを散りばめているのが特徴。動物たちは造形こそリアルだが、何十種類もあろうかというパステルカラーの色使いは、多くのイラストが氾濫する中でも異彩を放つ。ユニークな構図と色彩の絶妙なバランスがファンの支持を集める。「私もそうであるように、女の子はどこかで圧倒的にカワイイものが好きだと思う。いつも一緒にいたいと思ってもらえるような絵を大事にしている」と語る。

「カワイイは正義です!」と笑顔で断言する絵子猫さん(写真=陶山 勉)
「カワイイは正義です!」と笑顔で断言する絵子猫さん(写真=陶山 勉)

 この絵子猫さんに、日本の大企業やアジア圏の有力企業が熱視線を送っている。

 例えば、サンリオは人気キャラクター「ハローキティ」や「キキ&ララ」を活用したコラボレーションの取り組みを13年から開始。キキ&ララの40周年に合わせて、絵子猫さんにオリジナルデザインを要請し、新しいイメージのキキ&ララを表現した。同様のコラボは「ポケットモンスター」でも手掛けている。

 イオンは14年から、絵子猫さんが描くデザインを使った企画を実施。花王の洗濯用洗剤「エマール」や小林製薬の消臭剤「お部屋の消臭元」など、大手メーカーのブランドを巻き込んで限定パッケージを作り、全国約350店のスーパーで大々的に販売している。化粧品大手のディーエイチシー(DHC)も、ネット通販のキャンペーンで絵子猫さんのデザインを採用した限定グッズを使った。

 さらに昨年末からは、絵子猫さんのデザインが台湾においても大々的にビジネス展開されている。日本製の医薬品、化粧品などを扱う有力ドラッグストア、日薬本舗(台北市)が絵子猫さんのデザインを活用した商品の開発・販売を始めたのだ。日本の「カワイイ」が人気の台湾では高い注目を集めている。

イオンは大手メーカーのブランドを巻き込み、大々的に絵子猫さんデザインの商品を販売
イオンは大手メーカーのブランドを巻き込み、大々的に絵子猫さんデザインの商品を販売
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台湾でも絵子猫さんのデザインは注目を集めている
台湾でも絵子猫さんのデザインは注目を集めている

 これらの企業との連携において、黒子役として絵子猫さんを支えるのが、グループでブランド品買取サイトの「ブランディア」などを手掛けるEC(電子商取引)企業のBEENOS(ビーノス)だ。ビーノスの子会社、モノセンス(東京・品川)が12年から絵子猫さんとライセンス契約を結び、ブランドのマネジメントを担う。

 絵子猫さんの側はライセンスをモノセンスに提供し、同社がメーカーや小売店に商品化やキャンペーン企画などを提案。イオンの企画のように大規模なものについては、プロジェクトの進行管理やプロモーションをサポートする。様々な分野で絵子猫さんのイラストの浸透を図るとともに、複雑な権利関係を管理している。

 前出のサンリオをはじめ、取引関係のある企業は総合商社の双日のグループ企業、コスメ、アパレルなどを手掛けるドウシシャなどが並び、取り扱い商品も化粧品・日用品からインテリアまで多数に上る。作家の主義と取引先の方針をどのように調整するかも重要だ。絵子猫さんは「キャラクターに必ず『まつ毛』を描きこむのが私の流儀。企業によっては難色を示すケースもある」と話す。こうしたこだわりを取引先に認めさせ、反映させるのもモノセンスの役割になる。

 また、台湾の日薬本舗との取り組みでは、ビーノスのネットワークが役立った。同社はアジア圏のネット企業への出資や越境ECで現地企業との多数のパイプを持ち、今回はビーノスと日薬本舗自体も業務提携を結んでいる。今後は日本の有望なコンテンツをアジアに積極的に「輸出」していく考えで、絵子猫さんのデザインはその第一弾の目玉だ。

有望作家の「発掘」が重要に

 キャラクタービジネスについての長い歴史がある日本では、人気キャラクターについてのマネジメントを担う企業は当然ながら昔から存在している。一方、今ではSNSの普及などもあり、大手企業の目が届きにくい領域で密かに多くのファンを抱える作家が生まれやすい環境でもある。彼ら彼女らを「発掘」できれば、有望なビジエスチャンスにつながる可能性がある。

 絵子猫さんを見出したモノセンスの木村文香・ライセンス事業部プロデューサーは、「実力のある作家はどんどん出てくるが、個人で活動している作家にとって権利関係をどのように管理するかは大きな課題。特にアジア圏であれば模造品対策なども重要になる」と語る。作家の思いを尊重しつつ、ビジネス面で成果を上げることで作品の価値を高めていくことを目指す。

 調査会社のキャラクター・データバンク(東京・港)によると、国内のキャラクター商品の市場は足元で1兆6000億円前後とほぼ横ばいだが、世界的にはアジアを中心に拡大傾向が続くとみられている。任天堂の「スーパーマリオ」、故・藤子・F・不二雄氏の「ドラえもん」など、世界中の人々に愛されるキャラクターを生み出してきた日本が今後も存在感を高めていくためには、ダイヤの原石を見つけ出し、磨き上げる企業の存在も重要になる。

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