イケアはスマホアプリにARを導入し、「家具の買い方」を根本から変える

イケアのつくった「IKEA Place」は、AR技術を活用し部屋の中に実寸大の家具を「設置」できるアプリだ。これまでもデジタルテクノロジーへ積極的な投資を行ってきたイケアだが、今回の取り組みは消費者の行動を大きく変える可能性がある。
イケアはスマホアプリにARを導入し、「家具の買い方」を根本から変える
PHOTOGRAPH COURTESY OF IKEA

自分で組み立てられる家具のデザインや製造において、イケアはテクノロジーの使い方に長けている企業である。例えば、ワイヤレス充電を搭載した家具や、どんなスマートホームにも対応した照明器具。さらに2012年という早い段階で、棚やテーブルに命を吹き込むために拡張現実(AR)を導入した実験を行っていた。いま、そのアイデアが「IKEA Place」と呼ばれるアプリで蘇る。

ソファやアームチェア、コーヒーテーブル、収納ケースなど、イケアのほぼすべての製品約2,000点が掲載されたカタログから商品をタップしてスマートフォンをかざす。それだけで、部屋のどこにでもデジタル家具を置けるのだ。

「STRANDMON」のウィングチェアを窓際に置くとどう見えるか、7フィートのマットが本当にそこにフィットするのか。そんなことを確認したいときは、アプリを開いてカメラのレンズを床に向ければ、その家具が実寸サイズで画面に現れる。ゲストルーム用のソファベッドを置き、その背もたれを倒してベッドにするとどう見えるかもチェックできてしまう。

イケアは、アップルの「ARKit」と呼ばれる開発者用ツールキットを使って、このアプリを製作した。iPhoneがiOS11にアップデートされていれば、このアプリは無料で利用できる。

デジタルソファをリヴィングに置いたところで、部屋全体を戦場に変えてくれるARゲームのようなスリルは味わえない。だが、IKEA PlaceはARを利用した試みのなかでも、最も重要なもののひとつだろう。アプリは家具を購入する過程を、確実によりよいものにし、狭いスペースに入るかどうか測るストレスを軽減してくれる。それだけでなく、アプリは買い物という体験にまつわるすべてのストレスを、大幅に軽減する可能性ももっているのである。

ARにおけるイケアの進化

イケアは5年前、初めてARを利用したショッピングの世界に進出した。紙のカタログと連携したアプリを使えば、選択した商品を3Dで再現できた。ただし、3D家具は床に置かれるわけではなく、宙に浮いてしまうことがあったり、大きなユニット式家具が人形用の家に変化してしまったり、商品がおかしなサイズで現れることもあったりした。

「最初のAR体験は、どちらかというと写真みたいなものでした」。イケアのデジタルトランスフォーメーションマネージャーを務めるマイケル・ヴァルスガードはそう話す。「3Dの家具を置きはしたものの、動かせないし、サイズも信用できなかったわけですから」

しかもユーザーは、アプリ上の家具を部屋のサイズに合わせて調整しなくてはならないし、分厚い紙のカタログから100個しか3D化できなかった。「家具の購入を決断するのに使えるようなツールではなかったのです」とヴァルスガードは語る。

VIDEO COURTESY OF IKEA

いまやIKEA Placeを使えば、3D家具の98パーセントは正確なサイズで現れ、テクスチャーや生地、光と影の加減も現実に近いのだとイケアは主張している。試しにアプリを使ってみたら、まさにその通りだった。デジタルソファとデジタル椅子が、まるで実物のように現れたのだ。

ヴァルスガードは、ARの発展は大部分がARKitから起きるとみている。カメラアプリを使って画像を重ね合わせるだけでなく、スマートフォンのセンサーからデータを集め、部屋に物体を正しくマッピングさせる。アップルはこれを「world tracking」と呼んでおり、このおかげでデジタルソファが風船みたいに部屋を飛び回ることはなくなる。以前のヴァージョンよりも速く家具が読み込まれ、ユーザーが調整する必要もなくなった。

「アップルは誰ひとり跳び越えたことのないハードルを、テクノロジーの分野でも越えたのです。説明書は読まなくていい。特別なメガネをかけなくてもいい。iPhoneを取り出して床をスキャンするだけで、もう測定は完了しています」と、ヴァルスガードは語る。

生活に役立つAR

デジタルソファベッドを設置すること自体は、ARの面白い使い方ではない。しかし、ほかの格好いいARアプリとは異なり、IKEA Placeは実際の問題を解決するためのものだ。大きさを測ったり、布地の見本を見比べたり、部屋に合うかどうか確認したりするために、店から家具をもって帰るという苦難──。それをARがなくし、家具を買う確実な方法になることは簡単に想像できる。

とはいえ、イケアはこの新しい分野を切り開く唯一の小売店にはならないだろう。主要なオンライン家具店のWayfairは今年早期にARアプリを発表し、ほかの店も似たアプリを使って製品に命を吹き込む方法を探している(Wayfairもそれ以来、グーグルのAR開発用キットであるARCoreを使ってアプリの性能を向上させた)。

開発者が生活のあらゆる側面にARを組み込む方法を模索している一方で、小売店は買い物のプロセスに巨大な影響を及ぼすツールのおかげで急速に進化するだろう。すぐにARアプリがオンラインショッピング用のフィッティングルームをつくり出すはずだ。どのズボンが自分に合うか、どのサングラスが似合うかを確認できてしまう。

ギャラリーはARで芸術作品のレプリカを映し出せるようになるかもしれない。そうすれば実際に購入する前に、家の壁において試せるようになる。

「これはわたしたちとコンピューターの関係性を変えていきます。わたしたちが買い物する方法も変えてしまうでしょう」とヴァルスガードは語った。必要なのはiPhoneだけ。さあ、始めよう。組み立ては不要なのだから。


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TEXT BY ARIELLE PARDES