「意識高い系チャーシュー」をつくる【理系メシ】

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最近のラーメンは、意識が高い。

無化調は当然、塩は天然塩、醤油は樽づくりの3年物、麺は国産小麦の全粒粉の自家製麺。どんぶりはお店専用を懇意な陶房で焼いてもらい、水は水素水。

 

……あ、水素水はともかく。

昔の、一斗缶に入った大豆かすで作った醤油に化学調味料をスプーン山盛り、麺はお店の前に山積みでガンガンに日光に当たってもまったく変色しない、絶賛プロピレングリコール満載中のラーメンとはわけが違う。ちなみに「プロピレングリコール」とは石油由来の保存料で、これを使うと麺が硬くならない。

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それはさておき、最近の一杯1,000円くらいの「意識高い系ラーメン」に使われているチャーシューも、そうとう意識が高いと思う。

 

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チャーシューといえば「茶色の煮豚」が常識だったのものだが、今どきのチャーシューはピンク色。

ものすごく柔らかくておいしい。

なんなんだ、あれは? 

私の知っているチャーシューと全然違うぞ?

低温調理という。タンパク質が凝固する60度前後で長時間加熱すると、ああいうピンク色のチャーシューができるらしい。ラーメンの調理本に意識の高いお店のチャーシューの作り方が書いてあったのでまねしてみた。

 

「意識高い系チャーシュー」を作ってみる

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チャーシューの肉を2日間、醤油2:みりん1:酒1 の中に漬けておく。

 

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表面をフライパンで焼いて焦げ目をつける。

「糖とアミノ酸で焦げる=メラノイジンができる」のをメイラード反応と呼ぶのだが、こいつが香気成分を生み出し、香ばしいおいしさになる。

 

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湯煎(ゆせん)する。

60度で2時間。

これが低温調理のゆえんだ。

タンパク質の凝固する一番低い温度でゆっくり熱を通すことで、ジューシーさが失われず、生肉のような赤みを残したチャーシューに……

 

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……ならないじゃないか! 

たしかに中心部は赤いけど、私が食べたいのはもっと意識が高いやつ! 

ピンク色のふわふわのやつ!

食べたらおいしかった。

業務用とは肉のサイズが違い過ぎるから、茶色になっただけでとてもおいしい。だけど、もっとピンクにしたいのだ。

どうやればいい? 

意識を高く、クリエイティビティーな気づきでエビデンスで……醤油をやめよう。醤油の色がつくんだ。白醤油に変えよう。

ついでにもっと赤みを増すには塩豚だ。

豚肉に塩をまぶしておくと水分が抜け、肉が赤くなるのだ。

意識の低い輸入肉は臭みが残る。香辛料で臭みを取ろう。

リベンジだ!

 

「もっと意識高いチャーシュー」を目指してみる

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塩を塗り込む。分厚く塗らないとうまくいかない。

 

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ラップで密封したら冷蔵庫へ。そのまま2日放置。

 

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ラップから出した肉は赤いドリップにまみれて大変なことになっている。

水で洗い、水に30分つけて塩抜き。抜けたかどうかわからない時は、はしっこを少し切って焼いて食べたら良いよ。

 

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漬け汁を作る。

白醤油は塩味が強いので、みりんと1:1で混ぜる。

 

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パックのブーケガルニを投入。2パック120円で売っていた。

にんにくもローズマリーもバジルも全部入っていて便利。

 

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ビニール袋に入れた肉と漬け汁を水の中に沈め、空気を抜いて口を縛る。

空気が入っていると煮ているうちにひっくり返っちゃうのだ。

 

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低温調理の問題は、ガスレンジで一定温度を保つのが非常に面倒ということ。

超とろ火にしてじわじわとやってもすぐに80〜90度まで上がってしまう。

そうなると肉が固くなる。

58~68度の幅に入れておくと柔らかく仕上がるのだが、それは難しい。

そこで便利なのが炊飯器の保温機能だ。水を入れて放っておくと、ほら67度! 

素晴らしい。

機種によっていろいろあるだろうが、ほとんどが60~70度なので、低温調理器具としてベスト。ここで気をつけなきゃいけないのが食中毒だ。

厚生労働省の豚の食肉の基準によると、「63℃で 30分間以上加熱するかこれと同等以上の殺菌効果を有する方法」とある。

保温器で1時間以上加熱するのは十分にこの基準を満たす。問題なし。

ただし! 

水が温まる前の保温器に肉を入れてしまうと食中毒の原因になる。

30~40度で菌が繁殖するので、その温度帯をゆっくり通ると菌が異常に増えるのだ。

そして68度になったからと引き上げたら、肉の中まで温度が十分にあがっておらず、お腹が痛くなるわけ。気をつけましょう。

 

意識高い系インスタントラーメンの完成

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2時間経過。肉も十分に67度となったので、冷やす。

 

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どうだ! ……って、なんだこれは。これじゃない! 

こんなもんではないのだ。もっと生で赤くてジューシーじゃないとダメだ!

 

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やり直しだ。

加熱が長すぎたのだ。

次は1時間の加熱に短縮して再トライしてみることに。

 

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冷めるのを待つ。

漬け汁に入れたまま冷やすと味が入りすぎることがわかったので、肉を出してさます。どうだ? 今度はいけるか?

 

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これだ! 

見たまえ、このピンク! 

これこそが低温調理チャーシューである!

 

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うまそうではないか!

まとめよう。

 

自宅で簡単にできる低温調理チャーシュー(別名:意識高い系チャーシュー)の作り方

【用意するもの】

  • 豚の肩ロースもしくはモモ肉 400グラム前後
  • 白醤油
  • みりん
  • ブーケガルニ

 

STEP1:肉全体に塩を厚く塗り、2時間放置。これで臭みを抜く。およそ2時間たったら、水で塩を洗い流す(2日置いておくと塩が肉に入りすぎてしっぱくなってしまったのだ)。

 

STEP2:厚手のビニール袋に肉を入れ、そこに白醤油とみりんを11で混ぜた漬け汁とブーケガルニ1袋を加え、口を縛る。空気をよく抜くこと。白醤油、みりんは50mlずつが目安。

 

STEP3:炊飯器の釜に6070度のお湯を入れるか、水を入れて保温で30分で湯にするか、どちらでもいい。肉をビニール袋ごと入れ、保温で1時間放置。

 

STEP4:袋から肉を出し、冷ます。だいたいの熱が取れたら、冷蔵庫に放り込んでおく。冷えたところで切れば、あなたのラーメンも今日から「意識高い系」。

 

わかってしまえば簡単である。

でもって、安い。肉なんて今はカナダ産が100グラム98円とかで売っているのだ。さくっと作って、意識高くなっていただきたいものである。いや~苦労したわ。

 

※この記事は2017年9月の情報です。

 

書いた人:川口友万

川口友万

サイエンスライター。科学情報サイト『サイエンスニュース』の編集統括。企業取材からコラム、科学解説まで、科学をテーマに幅広く扱う。東京・武蔵小山で、毎週日曜日のみ、肉に電気を流して食べたり、ワインを超音波で振動させて飲むイベントバー「科学実験酒場」を主宰。

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