なぜ私はファンドの5割をインド・ベンチャーに投資するのか。課題の多さはチャンスの多さだ

13億人の巨大市場インドに注目が集まっている。在インド日本大使館によれば、インドに進出している日本企業は2006年に267社だったが、2016年には1305社と10年で1000社以上増えた。

人口減少時代に入った日本の企業は、その巨大なマーケットに引き寄せられている。ファンドの5割をインドに集中投資する、ベンチャーキャピタルBEENEXTの佐藤輝英氏(42)は「日本と中国のeコマースの会社を比べると、まったく同じビジネスモデルでも、中国の会社には10倍の売り上げがある。インドでも同じことが起きる」と話す。

ニューデリーの市場

インドは今後巨大なマーケットとして注目されている。

Smarta / Shutterstock.com

課題の多さはチャンスの多さ

佐藤氏は、慶応義塾大学在学中から起業家としての活動を始めた。eコマースやオンライン決済を手がけ、現在は東証一部に上場しているBEENOS(旧ネットプライスドットコム)のファウンダーとしても知られる。2014年に同社の代表を退き、現在はシンガポールを拠点に、BEENEXT社でのベンチャー投資に専念している。

6年ほど前、東南アジアを中心とした新興国で、創業後間もないアーリーステージのベンチャー企業への投資を始めた。インドへの投資を始めたのは5年前のことだ。都市部でインターネットの普及がある程度進んだ時期だ。

佐藤氏は「いま、中国が世界最大のeコマース、オンライン決済国家になった。消費者向けの市場を狙う上では人口がものを言う。その意味で、インドには大きな可能性がある」と話す。

インドは、約13億2千万人(2016年、世界銀行)の人口を抱え、2016年の経済成長率は7.11%と高成長が続いている。

一方で、インフラ整備の遅れや、都市と農村の格差など新興国としての様々な課題も抱えている。佐藤氏は、課題の多さはチャンスの多さの裏返しだと指摘する。

「テクノロジーでどうやって課題を解決するか、そうした着眼点を持ちやすい国だ」

データが集まり生まれるモデルに投資

佐藤輝英氏02

2017年12月11〜14日にインド・ニューデリーで開かれたグローバルパートナーシップサミットに登壇した佐藤輝英氏。

撮影:小島寛明

この5年間で、投資したインドのベンチャー企業は40社にのぼる。分野は中古車売買、不動産売買、不動産賃貸、人材紹介、ファッション、決済、ヘルスケア、農業など。幅広く見えるが、投資先には共通点があると佐藤氏は説明する。

「いまはデータの時代。データが集まるモデル、データが生まれるモデルには、ジャンルを問わず投資している」

新興国でのベンチャー投資で投資家側が得られる情報は、極めて限られる。佐藤氏は、何を基に投資を決めるのだろうか。大事なのは次の3つのポイントだという。

  1. 事業ドメイン(領域)の規模は十分か
  2. タイミングがいいか

BEENEXTはテクノロジーに特化して投資しているが、最初の判断基準は、起業家が狙う事業ドメインの規模だ。

「あまりにドメインが小さければ、チャレンジする意味がない」(佐藤氏)

テクノロジーを活用した新たなビジネスを始める際には、タイミングも重要だ。「ヤフー、楽天、ゾゾタウンが日本で成功した要因はタイミングも大きい。起業家にとって、タイミングは極めて重要だ」と言う。

最後は人だ。

佐藤氏が注目するのは、起業家の頭の中だ。起業家が大きな構想を描き、それを可視化して、ひとつひとつの具体的な行動まで落とし込めているかどうかをみる。

「プロダクトの細部までイメージができている人は、どんな質問をしてもきちんと答えが返ってくる。ベンチャーは、場合によっては、ビジネスが回っておらず、売り上げが立っていない状況で投資を決めることもある。何で判断するかを突き詰めると、やはり人だろう」

インド側との共同投資でリスクヘッジ

インドのベンチャー企業に投資をするうえで、もう一つ重要な点がある。インド国外のベンチャーキャピタルだけでは、現地の情報収集には限界があり、最終的に「信用できる相手か」を判断するのは困難な面がある。

このため佐藤氏は、インドでは必ずインド側の投資家とともに投資を決めるという。インド側との共同投資で、対象となるベンチャー企業の情報も得やすくなる。

「ぼくらが持てる比率は減るが、その分リスクヘッジができる。インドではここを特に意識している」

BEENEXTは、アジアを中心に十数か国のベンチャー企業に投資している。おおまかな投資先の割合は次の円グラフのようになるという。

BEENEXT投資先

BEENEXTの投資先の概要

制作:小島寛明

その他の10%は、主にインドの「次」の市場を見据えている。投資先には、ナイジェリアのオンライン決済、トルコのライドシェア、バングラデシュのモバイルウォレットの企業などがある。

BEENEXTは毎年、投資先の起業家を世界中から集め、キャンプを開いている。成功した事例を報告し、起業家特有の悩みも語り合う。参加企業には、インドネシア有数のeコマース企業に成長し、ソフトバンクグループからの出資も得たトコペディアも含まれている。

最近、BEENEXTが投資した起業家から、新しい投資案件が持ち込まれたり、出資を受けたりすることも増えてきた。佐藤氏は、投資先の企業がそれぞれの国で際立った存在に成長し、後に続く起業家たちを支援するサイクルを育てていきたいと考えている。

「起業家による起業家のためのコミュニティを育て、知恵と情報、資金面でのサポートを共有し、最終的にはリターンとイノベーションの花を咲かせる。僕がやりたいのはこれなんです」

(文・小島寛明)

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