なぜユベントスはエンブレムを変えたのか──ブランド再構築を担う2人が『WIRED』に語ったこと

イタリア・セリエAのユヴェントスが、そのエンブレムを変更すると発表した。デザインを手がけたInterbrandのマンフレーディ・リッカ、ユヴェントスのシルヴィオ・ヴィガートが、このイメージチェンジの背後にある哲学を『WIRED』に語ってくれた。
なぜユベントスはエンブレムを変えたのか──ブランド再構築を担う2人が『WIRED』に語ったこと

1月16日の夜、ミラノの国立科学技術博物館で、ユベントスのイヴェント「Black and White and More」が開催された。ビアンコネーロ(白と黒)のこのクラブは、モード、音楽、そしてスポーツ業界のセレブリティたちを集め、自らのイメージチェンジを公式に発表しようとしたわけだ。

あらゆるイメージチェンジがそうであるように、これには非常に深く検討された重要なことが示唆されている。

『WIRED』では、ブランドコンサルティングのリーダー企業で、ユベントスの新しいイメージ制作を担当したInterbrandの欧州・中東・アフリカ・ラテンアメリカ担当チーフ・ストラテジー・オフィサー、マンフレーディ・リッカと、ユベントスのマーケティング・ライセンシング・リテール責任者、副CRO(売上責任者)のシルヴィオ・ヴィガートと話すことができた。

彼らはまず、サッカークラブにとって「ブランド」が何を意味するかを説明してくれた。

シルヴィオ・ヴィガートは次のように語る。「それは、熱狂的なサポーター/ファンを結びつけて、彼らが自分たちの価値とアイデンティティとを認識できるようにするものです。ユベントスのブランドコントロールを担うということは、120年の伝統を守りつつ、同時に未来に目を向けられるようにすることを意味します。多くのクラブは過去を生きていて、未来を志向するクラブでもあることを忘れています」

マンフレーディ・リッカも同じ見解だ。「ブランドは、情熱とビジネスが出合う場所です。取り扱いがとりわけ複雑な触媒です。それは、特にスポーツクラブにとっていえることです。サッカーは、“ロイヤリティ”が必ずしも議論の対象とならない唯一のカテゴリーです。成績が思わしくないこともあるでしょうし、選手は変わっていきます。でも、統合された価値としてのブランドは変化しないのです」

では、何のためにユヴェントスは“外見”を変えるのだろうか?

「エンブレムの変更は、衣服を変えるようなものです。新しい現実に適応するため、新しいメッセージを伝えるための試みです」と、シルヴィオ・ヴィガートは語る。

「これは、チームを取り巻く世界の変化だけでなく、それをどう理解しているかも物語るメッセージなのです。いま起きている変化をみれば、さまざまな市場、さまざまな国々にブランドを拡大していくことが必要です。全ての要素は、今後5年のためにユベントスが立てた戦略的計画と、それをサステイナブルなものにしようという意思から生まれています」(ヴィガート)

「老貴婦人」[訳註:ユベントスの愛称]は、異なるストーリーテリング、新しい語り口を探していたのだ。世界のどんな場所でも理解でき、熱狂的なサポーターにも、熱意がそれほどでもないファンにも、冷静なサッカー通にも届けることのできるものだ。だからこそ、新たなエンブレム制作には、イタリアだけでなく国外のさまざまな企業への声掛けがなされた。「われわれは“そちら”にも、行こうとしています。であれば、どのような装いをすべきでしょうか?」という質問に対する回答をできる限り多く集めるためだ。

「われわれは、ユベントスから、彼らと同じようになるよう試みるべしとの“指令”を受け取りました。勇敢で、妥協せず、最高のものために献身する、ということです」と、マンフレーディ・リッカは説明する。

「単なる修正や美容整形では役立ちません。必要なのは、ユベントスの本質の中心までたどり着き、企業が目指している発展がどのようなものかをブランドに語らせることです。その全てを、サポーターへの尊敬と、企業が未来に対して抱いているヴィジョンとのバランスを取りながら行わなければなりません」(リッカ)

発表会場。白と黒は、ユベントスを象徴するカラーだ。PHOTO: LAPRESSE / AFLO

これは、単なる「リブランディング」ではないのだ。ヴィガートが説明しているように、Interbrandが受注したのは、ユベントスの深遠なる目標をとらえることなのだから。それは、気に入らなくなったからロゴを変えるという話ではなく、ユベントスが目標とする商業面、スポーツ面での成長を伝えることを目指した道のりを歩み始めるということだ。

「Interbrandはプロジェクトのグローバル性を理解して、われわれと一緒に変化のリスクを取りました。この変化は、物事がうまく行っていないことが原因ではなく──この2年、収益を上げているし、ピッチでの結果は言うまでもありません)──、物事を常によりよくしていくことを目指しているのです」(ヴィガート)

その成果としてまず現れたのが、最も伝統的な枠組みを壊したこのエンブレムだ。盾、スクデット(盾型ワッペン)、そして紋章学的要素を選手たちの胸のゼッケンの上で目立たせてきたあのフレームだ。

「われわれにとって“拡大”とは、サッカーに基づく価値を体現することを意味します。されに、これは、ユベントスという体験全てを見据えた本質を生み出しながら行われなければならないのです」と、マンフレーディ・リッカは説明する。彼は、Interbrandのつくり上げたロゴの要素を、次のように描写してくれた。不可欠な白と黒の縞、Jの文字──これらは、ユベントスの歴史の力強さとスポーツにおける決意を表している。メイド・イン・イタリアでありながら、新しいロゴは、多くの国際的大企業の様式的選択と軌を一にしている。本質性とミニマリズム、複雑で意味深いメッセージを伝えるためのシンプルな線だ。

発表会場となったのは、ミラノの科学技術博物館。PHOTO: LAPRESSE / AFLO

今回の発表が、[ユベントスのホームである]トリノではなくミラノにて行われたというのも独特だ。「ミラノを選んだのには、さまざまな理由があります」と、シルヴィオ・ヴィガートは言う。「まず何より、運営上の理由です。ミラノはイヴェントを開催し人々のアクセスにもいいですから。さらに、科学技術博物館は、過去のスタイルを用いて復元した建物であり、伝統とイノヴェイションが完璧に調和した好例です。われわれが普段立ち入ることのない、モード、芸術、音楽の接点たる場所です。われわれは、われわれユベントスもまた文化であることを、可能な限りより広いターゲットに伝えたいと思ったのです」

ユベントスの戦略的計画が実際に何を想定しているかは、まだトップシークレットだ。しかし、シルヴィオ・ヴィガートは、トリノに新しい大規模ストアをオープンすることを教えてくれた。既存のストアの倍の面積で、より多くの製品を収容できるようにするという。スタジアムが多様なサポーター集団で構成されているように、グッズ販売も、マフラーから帽子、カーボン製のスキー板にまで至る、全ての人々の嗜好に適合しなければならない。さらに、この大規模ストアはミュージアムともつながっていて、書店も設置されるようだ。

こうした発展は、最も厳格な(そして伝統的な)サポーターには受け入れがたいのではないだろうか? マンフレーディ・リッカによると、答えはノーだ。

「ユベントスには、単なる一都市の精神のみを体現しているのではなく、どのような場所や環境でも表明することのできる哲学をもっているという信頼があります。ユベントスとは、真っ先に因習を破壊する勇気であり、どの分野でも最高を目指すことです。勝利することが可能な唯一の選択であり、敗北は存在せずあるのは学ぶことだけだという考え方です。ユベントスはサッカークラブですが、それだけではありません。ユベントスを応援するというよりは、むしろ『ユヴェントスを生きる』と表現する方がふさわしいのと、わたしは考えています」


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TEXT BY FEDERICA COLLI VIGNARELLI

TRANSLATION BY TAKESHI OTOSHI