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“ポスト爆買い” 化粧品・日用品大手のトップは今なにを考える

訪日外国人観光客は何をもたらし、何を変えたのか
“ポスト爆買い” 化粧品・日用品大手のトップは今なにを考える

訪日外国人観光客の消費は高級品から日用品へとシフト(東京・銀座)

 爆買いバブルが終息した今、グローバル化を目指す日本の化粧品・日用品メーカーに対して訪日外国人観光客は何をもたらし、何を変えたのか。大手4社のトップに聞いた。

資生堂・魚谷雅彦社長「世界のハブ拠点に」


 一つ目は、中国を含めアジア全体を捉えたグローバル化。二つ目は、日本の文化的背景やモノづくりに対する安心・安全の評価だ。我々が日本国内で当たり前に思っていることが、インバウンドの方々にあれだけ評価をいただいている。

 今回、大阪にスキンケア製品の工場をつくることを決めたのは、“メード・イン・ジャパン”として日本製の価値を持った、高品質の安全な良い商品を製造する拠点を作るということ。世界最高の技術の粋を集めた工場にしたい。

 中国やアジア各国・地域に商品を輸出していくハブ拠点になる。インバウンドがなかったら、そういう考え方をしていなかったかもしれない。
高級化粧品「SHISEIDO」は訪日中国人にも人気

コーセー社長・小林一俊社長「日本製比率高める」


 中国をはじめとした海外マーケティングは非常に重要。17年にマザー工場となる群馬工場の新棟が完成する。これを機に中国工場の稼働率を下げ、日本製の生産比率を高める。中国の現地生産ブランドを縮小させ、輸出でどれだけカバーできるか。スピード感が重要だ。

 競合他社は日本で売る製品まで海外で製造してきた。だが、今その(マイナスの)影響は大きい。化粧品はコモディティー化したものではない。メード・イン・ジャパンに絶対にこだわるべきだ。当社は日本で売る製品を海外で作る発想は全くなく、生産に対する考え方や判断は正しかった。ブランド毀損を防ぎロングセラーに育成するポリシーが大切だ。

花王・澤田道隆社長「越境EC、一層強化」


 日本のいいものを再発見してくれた。毛穴パックなどシェアが高いが、市場がシュリンクし取り残された商品が、インバウンドで再注目された。今後もまた違う商品がスポットライトを浴びる可能性が十分ある。(爆買いの)第1幕は終わったが、これから第2幕、第3幕が始まるだろう。動きを察知しながら複数パターンを考えておかなければならない。

 これまでベビー用紙おむつ「メリーズ」の増産や店頭での言語対応などをやってきた。今後は越境ECを一層強化して買いやすくする。他にも、中国子会社に輸出を強化する。販売ルートもいろいろと模索して、流通とうまく連携しながら進める。

ライオン・濱逸夫社長「ブランドすみ分け」


 中国事業では、(1)インバウンドで売れる物(2)中国国内の店頭で売れる物(3)中国ECで売れる物(4)日本から中国の越境ECで売れる物―とブランドをすみ分けして伸ばしてきた。日本製のほうが確かにプレミアムだが、日本の技術で作った中国製も次に人気がある。ライオンの商品ブランドを浸透させる手段として、使い分けながら取り組んでいる。

 中国の店舗ビジネスは難しいが、現地ECで当社の歯ブラシが1位と存在感を出している。越境ECでは衣料用洗剤「トップ」やハンドソープ「キレイキレイ」といったブランドの人気が高く、徐々にオーラルケア以外のカテゴリーでも中国の店頭に拡大していく筋ができている。
                        

日刊工業新聞2017年1月18日記事から抜粋
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
 訪日外国人観光客の消費動向の変化を受け、各社は需要を取り込むための施策を段階的に軌道修正してきた。爆買い初期は「日本でいかに売るか」の観点から、多言語対応や免税店出店、会員制交流サイト(SNS)による情報発信を積極的に進めた。爆買いピーク時は、ブランド認知の高まりをテコに「帰国後でも買える」越境ECの整備に乗り出す。これまで国・地域別だった販売の垣根は崩れ、国境をまたいだ顧客の囲い込みが可能となった。  爆買いが終息した現在は、訪日外国人観光客によって日本企業が日本のモノづくりの実力を再認識し、日用品、化粧品製造の日本回帰が進む。販売やマーケティングに目を向けると、国境や従来の枠組みがボーダーレス化しており、競争力強化に向けた海外戦略の再構築が求められている。 (日刊工業新聞第ニ産業部・山下絵梨)

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