楽天市場で人気のコーヒー店 銀座で試す接客力
(村山らむね)
インターネットショップから実店舗へ進出、という流れが止まらない。オイシックス、アットコスメストアなど有力なネットショップが百貨店や商業地の一等地へ出店している。
今回取り上げる澤井珈琲(鳥取県境港市)は楽天市場にショップを出した2002年時点では年商4億円規模のコーヒー製造会社だった。それが17年3月期では年商27億円を超える見込みという、楽天でも有数の成功ショップだ。「ショップ・オブ・ザ・イヤー」という楽天市場のアワードを11年連続で受賞し、熱狂的なファンも多い。
その澤井珈琲が、昨年10月に東京の銀座3丁目に路面店を出店した。これまでも鳥取県、島根県に店を出していたが、今回は日本を代表する街だから話が違う。
1階はコーヒーと紅茶のショップ、地下がカフェだ。ショップでは商品説明が詳しくなされ、カフェは清潔感あふれて女性同士でのおしゃべりが楽しくなる雰囲気。コーヒー好きを喜ばすツボも押さえつつ、女性一人でも通える華やかなカジュアルさがある。カフェマットにはコーヒーの入れ方や産地についての豆知識が書かれ、待っている間も楽しめる。
コーヒーは全て680円(2杯分のポットサービス)。メニューを書いたカードは持ち帰ることができ、集めるとオリジナルグッズと交換してくれる。お店でコーヒーを味わい、1階の店舗で購入し、ネットショップも試す。様々なカタチでの還流が期待される。
店長で、いずれは2代目社長に就く澤井理憲氏に今回の出店の目的を聞くと、ずばり「ブランドを買っている」。単体での黒字化はあまり考えず、信頼性と安心感を実店舗で補完する。
同社はメーカーだからこその粗利益率の高さを生かし、これまでも広告に積極投資してきた。実店舗もそのブランド戦略の一環と言える。利益はネットでしっかりとっていく考えだ。
もちろん、お客の失望を招くような店作りでは逆効果になる。「楽天での熾烈(しれつ)な競争に比べたら、この銀座での競争なんて何も怖くない」という言葉が印象的だった。その自信を支えているのがネットで磨いた接客力だ。
楽天市場でのユーザーによる総合評価は、5点満点で実に4.77。「お手紙やメールなどいつもご丁寧な対応」「品ぞろえ、スピーディーな配送に満足」といった声が並ぶ。店長がメールマガジンでこまめに豊富な情報を発信。開けやすいパックなどお客の声を基に工夫を積み重ねてきた。
そのスタンスが、一等地の路面店というネットでは実現できない空間作りにも生かされた。百貨店からの出店依頼も殺到しており、人的余裕ができてから考えるそうだ。澤井氏によると、楽天市場の有名ショップで実店舗の出店を検討している店長は多く、全面的に賛成だという。
楽天で成功した店はヤフー!ショッピングやアマゾン・ドット・コム、そしてネット上の独立店と店を広げてきた。そして、どう次の成功につなげるか。店長の顔の見える実店舗というのは、非常に大きな価値があると思う。
ニッチなショップが、ブランドを獲得するためにリアルに出店する。そのショップが実現する空間、すごす時間、二つの「間」を、どう演出するか。そして、そこに店長や客同士という人間がどう介在するか。ネット発のお店たちの挑戦が非常に楽しみだ。
(通販コンサルタント)
[日経MJ2017年2月24日付]
関連企業・業界