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越境ECで次に狙うべきは「タイ」——市場を制する4つのキーワード

2017年04月04日 08時00分更新

文●D2Cスマイル

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今回はタイのeコマース市場について4つのキーワードとともにご紹介します。

キーワード1「華僑」:ASEAN経済共同体(AEC)< 中国系EC

多くの企業やメディアが、2015年末に成立されたASEAN経済共同体(AEC)に多大な期待を寄せていることと思いますが、東南アジアeコマースに及ぼす直近インパクトは限定的だと考えられます。なぜならば、加盟各国の施策が現状あまりにも零細な上に、中国EC市場がこの1、2年爆発的な成長率を保っているため、AECにまたがっている他の市場政策がその魅力を発揮できずにいるからです。

またAECにおいて、忘れてはならないのが華僑の存在と、その影響力、そして中国企業との積極的な協業です。そのため2017年の越境ECを牽引していく原動力は中華系企業にあると考えられます(こちらを参照)。

実際、台湾政府の東南アジアなどとの関係強化や経済の輸出を進める政策「新南下政策」や、中国の「京東集団(ジンドン)」がその典型的な例です。中国ECモール2位の「京東(JD.COM)」は昨年インドネシアに拠点を設立し、4000万以上の商品項目と、中国−東南アジアのサプライチェーンによって、Matahari Mall やLazadaら地元企業と競争しています。その一方で、アリババグループ(中国最大規模のECモール)はシンガポール郵政に5億ドル近くを投資し、東南アジア市場への足掛かりにしています。

キーワード2「決済機能」:代引きVSサードパーティペイメント

ECと切っても切れないのがペイメントです。

アメリカには「PayPal」、中国には「支付宝(アリペイ)」がありますが、東南アジアにはまだこれといった信頼できる大型なペイメントプラットフォームはなく、それぞれの国や地域で中小規模のペイメントプラットフォームがあるだけです。

東南アジアのEC市場において、代引きはまだ大きなウェイトを占めています。

東南アジア地域におけるeコマースを支援しているタイのスタートアップ企業「aCommerce」の最新調査によると、代引きによる取引はトータル取引額の74%を占めており、前回の調査時の53%に比べ大きく成長しています。これは、中国のサードパーティペイメントフォームの生態と全く違う方向に向かっているようにも見えます。しかし、東南アジアにはまだこれという大型な有効ペイメントプラットフォームがまだ台頭していない現状から来る一時的なものともいえるでしょう。

そんな中、タイやシンガポール政府はFintechに力を入れており、アジア版Pay Palの開発、推進に力を入れている動向には今後注目が集まることでしょう。

キーワード3「モバイルファースト」:PC普及率 < スマホ普及率

eコマース市場の成長要因としては、世界的に見てもモバイルコマースがあげられます。急速に普及するスマートフォンやタブレット端末などのモバイル端末を利用し、商品の検索から決済までを網羅し広く普及しているからです。

グーグルは、スマホ使用者の約80%にモバイル経由で商品を購入した経験があるという調査結果を発表しています。また、eMarkerterによれば、モバイルデバイスを通じて商品を購入する比率は年々増加し、2017年には50%を超えると予測しています。これらはアメリカでの調査結果ですが、PCの普及率がスマホの普及率より低いアジアでは一層加速し、モバイルシフトは免れないだろうと考えられます。

eMarketerの調査によると、eコマース市場は、2019年には現在の約2倍の3.5兆ドルまで拡大すると予測しています。地域別でみると、アジア地域による貢献が最も高く、2015年における同地域の市場規模が全体の約半分を占めていますが、2019年には約65%までに増加すると予想されています。商取引額のうちeコマースが占める割合は、2019年に全世界が12.8%であるのに対し、アジアは20%を超える水準に達すると予測されています。

小売市場の面から見ると、アジアはまさにeコマースの急速発展期にあります。中国の小売市場に占めるECがおよそ10%前後なのに対し、タイはまだ1.7%。経済規模からするとまだまだ成長空間が広いと考えられます。

商取引に占めるeコマースの割合(金額ベース)の推移及び予測

諸国のeコマース市場の規模と成長性

UBSの予測によると、スマホ普及率54%以上のタイは2017年までにはインターネット普及率(モバイル経由を含む)が60%に達する見込みで、その中で64.9%のタイ人にオンラインショッピングを経験しているとの予測を発表しています。シンガポールとマレーシアに次ぐ高さです。

同じ時期に、タイ政府は「ETDA(Electronic Transactions Development Agency )」を成立し、国内のデジタル経済発展を推し進めており、その中でもECは重要な一事業であると位置づけられています。

ETDAの2015年度の調査によると、タイにおける42.6%のオンライン取引はアパレル関連商品で、IT関連商品の27.5%が2位、健康、コスメ関連商品が24.4%で3位となっています。タイのネット世代がEC市場の発展に貢献しているといっても過言ではないでしょう。

ただし、モバイルへの消費者シフトにはクリアしなければならないハードルがあります。

たとえば、カスタマイズされたアイテムレコメンドや消費意欲を促す適時なディスカウントクーポンの配布、モバイルペイメントの習慣化など、消費者にとって最適なUI、UXの提供が課題です。それらが実現した時、東南アジアにおいてもモバイルシフトは一気に加速するでしょう。

キーワード4「流通システム」:外資企業VSローカル協業

タイEC市場の急速な発展に目を付けたのがDHLです。

DHL ECビジネスアジア地区総裁のMalcolm Monteiro氏によると、タイEC市場における2015年~2020年の営業利益は約36億ユーロを超え、3倍程度の成長見込みと予測しています。タイは、DHLが2008年に中国、インドでEC向けの流通システムを開始してから、3番目に大がかりな投資をする市場に選んだ国です。

Uberとマレーシア発のタクシー配車アプリGrab Taxiは、昨年配送ソリューションを導入しました。アマゾンはUberと協業し、eコマース企業や小売店に対する支援事業aCommerceを始めました。ローカルの道路事情や路況に詳しいUberとGrab Taxiのドライバーを使って、設計があまり良くないタイの道路の欠点や輸送間のシームレスなコーディネートの障壁を克服し、APPを通じて荷主が随時貨物の最新情報を把握できるようにしました。

これはDHLがタイでECの配送システムを構築した時、最初に直面した問題でもあります。

タイのブロガーY. Tanaboriboon氏が発表した「Bangkok Traffic」のコンテンツによると、タイの道路設計はフィッシュボン式であり、1本の幹線道路から無数の小さい道に枝分かれし、その多くが一方通行か行き止まりであるため、トラフィク量が少しでも増えると渋滞が激しくなると指摘しています。

ローカル協業のUber、Grab Taxi、aCommerce以外に、タイにおけるDHLの最大競争相手はシンガポール郵政です。

老舗で、信頼度が高いシンガポール郵政(SingPost)はECの配送業に参入してから、現在ではEC配送の収入が総売り上げの25%を占めるほどに成長しました。タイ市場において競合相手のaCommerceに類似したサービスを提供する一方、aCommerceの物流システムにも巨額の投資をし、Win-Winのシチュエーションを創出しています。

そんな中、中国最大プラットフォームのアリババグループは、シンガポール郵政に2.49億ドルを投資、10%のシェアを獲得し、東南アジア最大の物流センターを構築する予定です。

越境ECが挑むタイ市場の挑戦

タイには現在50万軒のオンラインショップがソーシャルプラットフォームやオフィシャルオンラインショップを通じて商品を販売し、その半分以上がバンコクにあります。ECの流通システムの発展に伴い、各国の越境ECがこぞってタイに市場参入していますが、貨物輸送の即時性やコスト高など、まだ解決待ちをしている問題点はあります。

日本、中国、台湾などの市場ではペイメント、CRM、通信環境、流通手段など、すでにある程度成熟しているため見落としがちですが、その他のアジア市場はまだその途上であり、最適化されたUXを提供できたものこそが次期王者として市場を制することでしょう。

ローカルに混じり、中華資本、欧米資本など多くがタイ市場でしのぎを削っている中、流通を含め、日本からの越境ECはあまりアクティブに参入しているようには見えません。先攻の利を逸さないことを祈るばかりです。

(記事提供:D2Cスマイル

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