日本のタクシーの決済を変えた女性幹部の「巻き込み力」

金高恩 / Japan Taxi CMO

タクシーが目的地に到着する前に支払いを済ませてしまう──。2017年3月、JapanTaxiは、タクシー配車アプリ「全国タクシー」と日本交通の車両に搭載されたタブレット端末を利用した「JapanTaxi Wallet」というネット決済機能をリリースした。

現金商いが慣習で、IT化が遅れていたタクシー業界にとって、これは革新的な取り組み。その考案者が、金高恩(きむ・ごぉん)だった。

金は、ECなどネット販売の黎明期となる00年前後から、ECサイトの立ち上げメンバーとしてヤフーなどIT畑で活躍してきた。「昔ながらの業界にITを取り入れてイノベーションを生みたい」、そんな思いから15年にJapanTaxiに入社。

すぐにJapanTaxi Walletの構想を打ち出したが、グループ会社内では、ほとんど理解されなかった。ガラケーや何年も前のスマホしか使っていないなど、公私ともにITに疎い人ばかりだったのだ。

「さらに、会社で初めての女性経営陣への動揺があった。タクシー業界は、ドライバーのほとんどが男性であることが象徴するように、完全な男社会です。『女性はサポート役』という古い認識が残っていて、カルチャーショックを受けました」

金はさらに、女性ならではの視点を生かしたサービス「マタニティギフト」も考案。これは、「陣痛タクシー」に登録した人にオムツや哺乳瓶、子どもの事故防止情報などを詰め込んだ育児スターターキットを無料配布するものだ。

陣痛タクシー自体は、陣痛が起きた際に、簡単にタクシーでかかりつけ医まで行けるサービスとして、12年に開始していた。「5年前に自分自身が出産したときに、子育てにはどのようなアイテムや知識が必要なのかがまったくわからなかった。仕事が忙しく、その情報を集める時間もない。陣痛タクシーにマタニティギフトをつけたら、社会貢献になると感じたのです」

このアイデアもまた、男性社員はなかなか理解を示さなかった。しかし、プロジェクト開始後に消費者からの反響が続々と届きだすと、男性陣の態度は急に変わり始めた。そこで彼女は、マタニティギフト導入で陣痛タクシーの登録者数が増えたことを提示し、やっと、プロジェクトの重要性を理解してもらうことに成功する。

数字を並べてロジカルに説明すること。彼女は、男性社会で交渉する力を身につけたのだ。金は力を込めて言う。

「成功するまで続ければ、失敗になりません」

3つの質問
1. 好きな言葉は?
「 道は人の後ろにできる」

2. リフレッシュ法は?
娘とお風呂に入って一緒に寝れば、元気100倍!

3. 影響を受けた本は?
小倉昌男『小倉昌男 経営学』
ヤマト運輸元社長で、宅急便の創始者でもある著者の経営論。


金高恩(きむ・ごぉん)◎1976年生まれ。韓国で生まれ育ち、16歳から日本で暮らすようになる。サイバーエージェント、楽天、ヤフー、ガールズコレクションのECサイトの立ち上げを担当する。その後、独立して起業。2015年、インターネット業界での経験と実績が評価され、タクシー業界のIT企業であり、日本交通を母体とするJapanTaxiに入社。17年、「JapanTaxi Wallet」と「マタニティギフト」を立て続けにリリースする。一児の母。

文=吉田彩乃 写真=帆足宗洋(Avgvst) スタイリング=石関淑史 ヘア&メイクアップ=大山美智

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