C CHANNELはなぜF1層を攻略できたのか——好きとリアルと8割にこだわった戦略

女性向け動画メディアC CHANNELのCEO・森川亮(50)とCCO・三枝孝臣(50)は、ターゲットであるF1層(女性の20ー35歳)とは共有点がないが、ビジネスの対象にすることは全く問題がないという。「あまりに違い過ぎるので、冷静に見ることができるから」と、2人は口を揃える。

だが、自らもF1層であるファッションカテゴリーのプロデューサー・岩本葉月(27)は、異なる見方をした。

「男性が思う女性の生態と、女性の実際には乖離があると思うんです。女性特有のあざとさって、ありますよね。男の人にはわかりにくい部分です。そこにも突っ込みながら『それ、わかる』と共感を得られるような。そういうコンテンツづくりは、ネットだからできること」

C CHANELLの岩本葉月

岩本葉月は前職ソフトバンクでは営業職として転勤も経験。コンテンツに関わりたいというソフトバンク就職時の希望をかなえるためにC CHANNELに転職した。

C CHANNELは、 2015年秋に動画のテーマを「ハウツー」を主軸に切り替えて以降、着実に再生回数を伸ばしてきた。 第2回は、C CHANNELがこの1年半で発見した「攻めの法則」をもとに、C CHANNELを要素分解する。

その1:「F1層は、自分のことにしか興味がない」

岩本がこの1年半で実感したのはこれに尽きる。

「どんなふうにしたら自分がカワイくなるか、オシャレになれるか。しかも興味は人によってさまざま。これが流行ってるから、とか、大枠でひとくくりにはまとめられないのがこの人たちです」

自分のことにしか興味がないF1層にとって、自分に手の届かない絵空事の世界は視聴する意味を持たないという。「だからリアルこそが大事」「成功の法則は 『リアル』に徹すること」と岩本は言う。

「リアルな情報を提供すれば、F1層が自分で行動できる。みんな、 自分のアクションにつながらないことには見向きもしません

わかりやすい例が「プチプラ」だ。ドラマ「東京タラレバ娘」の3姉妹コーデ(榮倉奈々、大島優子、吉高由里子)を 、上から下まで「カンパケ」でコーディネートしたものをクリッパー(C Channnel専属のブロガーのようなインフルエンサー)が着る動画。一見、ドラマのまんまなのだが、GU、しまむら、ユニクロなどで探してきた「プチプラ」(プチプライス)を中心にコーディネート。再生回数は約47万回まで伸びた。この「プチプラ」はファッションカテゴリーの定番コンテンツだ。

「(ドラマでみたコーディネートが)どんなに可愛くても、自分で取り入れられなかったら意味がない」(岩本)

一見、榮倉奈々や大島優子や吉高由里子と同じになれるが、実際にドラマで着用したコーディネートよりかなり安くて入手しやすい。景気の悪い時代に育った世代の「手堅さ」に合う。

「『あのコーデ、カワイイ』などと話題になりそうなものを、きめ細かく拾ってきてプチプラで再現します。安さという実用性がポイントです」(岩本)

だが、岩本によると、F1層は決してブランドに関心がないわけではない。

「ブランドへの憧れはあるし、それを身につける日もありますが、それは特別な日限定です。特別な日はリアルではありません。それより、毎日のコーディネートをどうするかという実用性へのニーズに応える情報性が大事

その2:「おしゃれカースト下位8割を狙え」

岩本はC CHANNELのターゲットを「おしゃれカースト下位8割」と断言した。おしゃれ偏差値の高い上位層2割は最初から狙わない。ふつうの8割が満足する「実用的な情報」に徹するという。

「オシャレ過ぎるのはリアルじゃないんです。女性誌に出てくるようなちょっと尖ったオシャレは、私たちが伝えるべき情報ではありません。むしろ、F1層の中でも圧倒的多数の女性たちに向けて発信していきたい。本当にこれはマスなのか、一般的に流行ってると言われているけど本当にそうなのか、街を歩いて確認し、アンケートをとります」

ユーザー(読者)との向き合い方は、女性誌と明らかに異なる。

C CHANNELは、女性誌がターゲットにしてきたF1層に、女性誌とは異なる「リアル」に徹底してアプローチしてきた。

「明日どんなメイクをするか、明日どんなコーデをするか。女の子たちの選択肢を広げるという意味では、C CHANNELは女性誌に勝ってます」

その3:「最大の離脱対策=短時間に情報を詰め込む 」

「我々オンラインメディアにとって、いちばん怖いのは『離脱』。短い時間になるべく情報を詰め込んで、なるほど!と膝を叩くような感覚で見させることが大事」

そう話すのは、チーフプラットフォームオフィサー・成家勉(45)だ。

C CHANNELの成家勉。

成家勉は若い世代に向けた森川の思いに共鳴して転職を決めた。

C CHANNELは、2015年12月から3月にかけて徹底したFacebookを中心としたSNS対策を行った。ユーザーの行動に沿ったアプリを開発し、リアルに即した動画コンテンツを載せても、それだけではF1層の目に触れる機会は足りないからだ。

FBを中心にしたのは、当時、FBが他のプラットフォームに比べてユーザーとの繋がりが圧倒的に強かったこと、また、FB自体が動画ファーストの戦略を始めた頃だったためだという。

FB対策の一連の設計と運営を担当した成家は、2015年11月、森川から誘われてC CHANNELに転職するまで、NHNハンゲームでゲーム運営子会社の管理業務をしていた。

C CHANNEL上にアップされた動画コンテンツをFBでも拡散させていく作業で、成家はふたつの手間をかけた。ひとつは動画をFB向けにさらに再編集する作業だ。短い時間で見る人を飽きさせないために、導入部などできる限り削って短くした。もうひとつは、コメント欄に書き込んでくる視聴者との細やかなコミュニケーションを徹底した。

成家は、このふた手間が重要だと言う。

「いまの時代、ティップス数が多いものが勝ち。動画ひとつひとつのつくり方を含めて小さなノウハウを10しか知らないメディアと1000知ってるメディアでは成長が違う

視聴者からの書き込みには全部「貴重なご意見ありがとうございます」のお礼コメントを返した。コメントが動画やサービスを改良するヒントになることも。実際、ヘアカテゴリでモデルを後方から撮影するようになったのは、「モデルが可愛いのはわかるけど、見たいのはヘアスタイルの作り方」という視聴者のコメントがきっかけだった。

3カ月後の2016年3月、再生回数は1千万回から1億回に伸びた。

細かな作り込みについては、トップノット、テイスティジャパンなど、アメリカ発の人気動画サイトなどを研究したという。トップノットもテイスティジャパンも、30-60秒程度の動画でハウツー情報がテンポよく展開される。仕上がりがオシャレだが楽しく親しみやすいのが特徴だ。

一方で「おしゃれカースト下位8割」に対して「高級すぎる」動画になると、求められるものとはズレてしまう。

カッコいいということがそもそも求められているかも課題」(岩本)

「そこのバランスは難しい。それも含めて、完成度は現時点で50点」(成家)

その4:「好き」は「専門性」に勝る

岩本が、森川や三枝とは明らかに異なる意見を持っていたのが、「好き」と「専門性」の違いについてだ。

「森川さんや三枝さんは、専門性にバリューがあるという考え方。でも若い人たちは、専門家の話とか興味ない。もっとふつうで、もっとユーチューバーっぽい、『好き』を突き詰めてるリアルな人の話が聞きたいし、それが現れている動画はヒットするんです」

たとえば、メイクの中でもラメをうまく使うテクニックにめちゃめちゃ詳しい女の子。ガーリーな部屋づくりがすごく好きで究めている女の子。でも、特にそれを仕事にしていきたいわけではない。

“一芸”に秀でた女の子たちでも動画の撮り方がよくわからない。そんな女の子たちをサポートしながらC CHANNELでクリッパーとして育成していくことを考えているという。

「中途半端に可愛いだけでは飽きられてしまうし、視聴者からは『なんでこの子がクリッパーなの?』と反発されることもある。でも『好き』が立ってる子には女の子たちは共感します

成家は、こうした『好き』に寄ったクリッパーの育成を、マーケティング上も大事だと言う。

「情報はマネされますが、人は真似されない。だから『好き』の専門家としてのクリッパーを増やしたい」

さらに、今後は料理やファッション、DIYなどのカテゴリー同士でC CHANNELとしての統一したブランディングが大事になるとも。

成家の考えるブランディングは、「周りの人が幸せになることをやるのが大事」という森川の考え方と通じていた。

「C CHANNELをみたら可愛くなれるしシアワセになれそう、というメッセージを発信できるようなブランディングをこれからやらなくてはと考えています」(本文敬称略)

(撮影:今村拓馬)


三宅玲子:「人物と世の中」をテーマに取材。2009〜14年北京在住。ニュースにならない中国人のストーリーを集積するソーシャルブログ「BillionBeats」運営。

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