デジタルパブリッシャーが動画事業の構築と拡大を目指す際、その大多数がYouTubeとFacebookに注目する。その一方で、この1年、パブリッシャー向けに動画配信だけでなく、初日から収益を上げる機会を提供するプラットフォームを構築しているのがAmazonだ。
デジタルパブリッシャーが動画事業の構築と拡大を目指す際、その大多数がYouTubeとFacebookに注目する。その一方で、この1年、パブリッシャー向けに動画配信だけでなく、初日から収益を上げる機会を提供するプラットフォームを構築しているのがAmazonだ。
Amazonは2016年、あらゆる規模の動画パブリッシャーやクリエイター向けに、プライムストリーミングプラットフォームを開放した。これによって個人動画やテーマ別の動画コレクション、シリーズ番組の全シーズン、さらには会員制チャンネルを配信できるようになった。このプログラムは「Amazonビデオダイレクト」と呼ばれ、これを利用すれば、パブリッシャーはアメリカだけでも推計7900万人のプライム有料会員にアクセスできるようになる。
YouTubeからの収益の4倍
あるパブリッシャーによると、昨年同プログラムを利用開始後1カ月で5万米ドル(約565万円)の収入を得たという。これは同月にYouTubeから得た広告収入の4倍だという。「これには目を見張った。それからは、Amazonに投稿する動画タイトルを増やしている」。
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Amazon自身もまた、ビデオダイレクトプログラムが最初の1年間で支払ったロイヤルティは「数千万ドル(数十億円)」、配信動画は総計「数十億分間」にのぼると発表している。
Amazonビデオダイレクトを率いるエリック・オルメ氏は「コンテンツのクリエイターがポジティブに反応し、当サービスを利用してくれている。そして、Amazonビデオの顧客のエンゲージメント率も高い。このことに、我々は勇気づけられている」と話した。
Amazonでのマネタイズ方法
Amazonビデオダイレクトプログラムでは、動画パブリッシャーが多様な手法を使って収益をあげることができる。Amazonプライム有料動画視聴サービスで個別の動画や番組配信した場合、アメリカでは1時間の視聴につき15セント、イギリスやドイツ、日本なら6セントの報酬が支払われる。
さらにパブリッシャーは、個々の映画、番組、動画製品を顧客に販売することも可能だ。購入やレンタルで収益が出た場合は、その50%を受け取ることができる。また、広告支援サービスの無料ポータルもあり、プレロール広告による収益1ドルにつき、Amazonから55セント支払われる仕組みだ。会員制サービスを販売することもできる。
複数の情報源によると、現時点では、広告支援による収入はほとんどない。しかし、月によって変動しているものの、プライム有料動画視聴サービス向け配信による収益が一歩抜きんでていることがわかっている。昨年、教育関連企業のハウスタッフワークス(HowStuffWorks)がAmazon配信用の長編番組制作を開始したほどだ。
パブリッシャーの見方
Amazonから十分な収益を生み出すことができることを知ったコメディー制作会社のジャシュ(Jash)は、有名なコメディアンによるコメディトークショー「ノーム・マクドナルド・ライブ(Norm Macdonald Live)」の最新作を上演当日にAmazonで公開する予定だ。
「私がこのような、少々注目を浴びる番組を制作できるのも、Amazonが頭角をあらわしはじめているからだ。従来のエンターテイメントより利益率の高い収益を上げることができる」と、ジャッシュの共同創設者、ミッキーマイヤー氏は話した。たとえば、コメディセントラルで放映される「最高裁判所(The High Court)」のような番組をテレビ放映した場合、制作会社が受け取るマージンは通常10%だ。 「ノーム・マクドナルド・ライブ」で制作と配信を管理するジャシュはそれより多額の収益を手にするチャンスがある。
「プレミアムコンテンツに価値を置くAmazonのようなプラットフォームが、視聴者全体が従来式から新しいデジタルな視聴スタイルへと移行する大きな要因となっている」。
さらなる収益化手段
しかし、動画制作会社がAmazonで配信し、収益を得る方法はビデオダイレクトプログラムだけではない。プライム契約客向けに、会員限定サービスで商品を販売できるAmazonチャンネルプログラムもある。現在、このプログラムにはHBOやショータイム(Showtime)、スターツ(Starz)などのプレミアムケーブルチャンネル、そのほかにもデファイメディア(Defy Media)、フルスクリーン(Fullscreen)、ファンドール(Fandor)、インシュ―ジアストネットワーク(The Enthusiast Network)といった中間層およびデジタルパブリッシャーを含む100社以上がパートナー契約をしている。
取引条件はさまざまだが、複数の情報筋によれば、通常このプログラムの会員契約で発生した収益の30から40%をAmazonが受け取るという。金融サービス企業BTIGのアナリストであるリッチグリーンフィールド氏による6月次調査ノートによると、HBOの契約者の半数、そしてスターツのストリーミングチャンネルの75%相当をAmazonチャンネルが占めている。
この数字には幅があり、米DIGIDAYには、Amazonチャンネルがそれらのストリーミングチャンネルで占める割合は、全契約者の10%から40%だという情報も複数寄せられている。あるパブリッシャーは、昨年Amazonでストリーミングサービスを開始してから最初の3カ月で加入者数が倍増したものの、最近では成長率が落ち込んでいるという。これは、例年夏季には契約数が伸び悩むため、時期的なことだと見られている。
A+Eネットワークの配信およびデジタルコンテンツライセンス部門で、シニアバイスプレジデントを務めるマークガーナー氏は「我々は、長期的に付き合える企業と仕事がしたいと思っており、Amazonはその可能性を秘めた企業のひとつだ」と話した。同社はAmazonチャンネルで「ヒストリーボールト(History Vault)」と「ライフライムムービークラブ(Lifetime Movie Club)」の2番組をストリーミング配信中だ。
急拡大するAmazonの勢力
Amazonと提携する方法がさらにもうひとつある。同社のオリジナル動画事業だ。これまでのところ、コンデナスト(Condé Nast)とプレイボーイ(Playboy)がAmazonスタジオにそれぞれ連続ドキュメンタリー番組「ニューヨーカープレゼンツ(The New Yorker Presents)」と「アメリカンプレイボーイ:ヒューヘフナー物語(American Playboy: The Hugh Hefner Story)」を販売している。この分野ではAmazonがNetflixやTV放送、映画スタジオと競合しており、大手デジタルパブリッシャーが長編動画への投資を拡大する際に注目する場所だ。
「我々は今後、Amazonに販売するための長編映画にさらに力を入れていく」と語ったのは、コンデナストエンターテイメント社のプレジデント、ドーンオストロフ氏。同社は2016年6月、連続テレビドキュメンタリー「ラストチャンスU(Last Chance U)」をNetflixで初放送した経緯ももつ。「Amazonは実に、もっとも人気のある販売先のひとつとして台頭している。彼らが名声につながるからだ」。
YouTubeやFacebookは、今後も多くのデジタルパブリッシャーが多くの時間、リソース、資金を費やしてオーディエンスを発掘していく場であり続けるだろう。それだけのスケールがある。しかし、昨年1年間でAmazonが支払ったロイヤリティや契約関連収入を見れば、動画関連会社が(テレビネットワーク、制作会社、デジタルパブリッシャーなど)Amazonをほかの動画配信プラットフォームと同様、重要視していることがわかる。
ドキュラマ(Docurama)、CONtv、ダブチャンネル(Dove Channel)の3つのストリーミングチャンネルをAmazonで配信するシネダイム(Cinedigm)のデジタルネットワーク担当エグゼクティブバイスプレジデント、エリック・オペカ氏は「新たにプラットフォームを立ち上げるとなると、ほとんどの場合で成功までに非常に長い道のりがある」と話す。 「Amazonでは、スタート当初から成功が見えた。そのおかげで消費者向けストリーミング事業をどのように成長させるか、ということに注力する余裕ができた」。