「タクシー業界はITの力を使って変革しなければ、いずれ衰退してしまう」。

 日経BP社が7月26日~28日にかけて開催した「D3 WEEK 2017」(六本木アカデミーヒルズ)の最終日に登壇したJapanTaxi(東京都千代田区)CMO(最高マーケティング責任者)の金高恩氏は聴講者に対して、こう訴えかけた。

 創業80年を超える老舗タクシー会社にイノベーションを起こす。日本交通子会社のJapanTaxiは、そうした役目を担うために、2015年8月に前身の日交データサービスから社名を変更して、本格的にITを活用した新たな事業モデルの開発に取り組み始めた。

JapanTaxi CMO(最高マーケティング責任者)の金高恩氏
JapanTaxi CMO(最高マーケティング責任者)の金高恩氏

 JapanTaxiが開発するサービスは大きく3つのカテゴリーに分類できる。1つ目がスマートフォンを活用したタクシーの「配車」だ。同社が開発するスマホ向けアプリ「全国タクシー」は、すべての事業の根幹となるサービス。現時点で330万件のダウンロードがされており、これを2020年までに倍に拡大することを狙う。

 この全国タクシーはスマホの画面に表示された地図上で自分がいる場所を指定すると、近くにいるタクシーの迎車を申し込めるサービス。海外では「Uber」や「Lyft」といったタクシー配車アプリ事業者が注目を集めているが、それらのアプリに参加するタクシーは多くが、一般の消費者が運転する自家用車だ。

 しかし国内ではタクシー事業は許認可制のため、一般の消費者の自家用車をタクシーとして利用することは法律で禁じられている。そこで、同等のサービスを既存のタクシー事業者で実現するために全国タクシーは開発された。

 ただ、その利便性はまだ十分に伝わっていない。「ダウンロード件数では国内でナンバーワンになっているものの、日本ではタクシーを呼ぶ時にスマホのアプリで配車するという選択肢を持たない人が多い」(金氏)。そのため、サービスとの接点を拡大することがマーケティング上の課題となっていた。

 そこで、サービスとの接点を拡大するために、3月から始めたのがグーグルの地図アプリ「Googleマップ」との連携だ。利用者がGoogleマップで現在地と目的地を設定してルートを検索した後に、その情報を流用して全国タクシーでタクシーを配車できる機能を開発した。また、iPhoneの音声アシスタントソフト「Siri」との連携も開始。Siriに「タクシー呼んで」と話しかけて目的地を伝えるだけで、タクシーを呼べる機能も開発した。

「Googleマップ」で目的地を設定してタクシーを呼べる
「Googleマップ」で目的地を設定してタクシーを呼べる

30~50代のビジネスパーソン向け広告事業に期待

 2つ目が「決済」だ。全国タクシーと連携して使える、自社開発の決済サービス「JapanTaxi Wallet」を提供している。同サービスは乗車中にオンラインで決済を完了することで、降車時の支払いの手間を省くもの。利用する場合、まず全国タクシーにクレジットカード情報などを事前に登録しておく必要がある。

 乗車後に日本交通のタクシーの後部座席に設置されたタブレット端末を操作して、決済サービスのボタンをタップすると画面上にQRコードが表示される。このQRコードを全国タクシーで読み込むと、事前に登録した決済手段で決済が完了する。紙の領収書が必要であれば、降車時に受け取るだけで降りられる。

アプリでQRコードを読み込むことで、乗車中に決済できる「JapanTaxi Wallet」
アプリでQRコードを読み込むことで、乗車中に決済できる「JapanTaxi Wallet」

 これは、「タクシー利用者の9割が街中で手を上げて、走っているタクシーを止めて乗車する」(金氏)という国内市場に併せて開発したもの。そうした利用者でも、事前決済を利用できるようにすることで利便性の向上を目指した。

 そして、決済でも利用するタブレット端末を活用した「広告」が3つ目の事業カテゴリーとなる。ネット広告会社のフリークアウトと共同出資会社のIRISを設立して、広告商品を共同開発している。

 「タクシーの平均乗車時間は18分。さらに30~50代のビジネスパーソンが多く利用している」と金氏はタクシー利用者の特徴を紹介する。そうした層を狙いたい広告主企業向けに、タブレット端末に動画広告を配信するサービスを提供する。最大の特徴はタクシーのメーターと連動していること。「空車」から「賃走」などに切り替わったタイミングで動画広告の再生が始まるため、空車時の無駄な広告配信を防げる。

 こうしたタクシーの利便性の向上や、タクシーを広告媒体と見立てたサービスなど、ITを活用して様々な事業を生み出すJapanTaxiが次に狙うのはAI(人工知能)の活用だ。「ビッグデータを用いて、AIが効率的にタクシーを配車するシステムの研究開発に力を注いでいく」と金氏は将来像を語り、講演を締めくくった。

(文/中村勇介=日経トレンディネット)

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