株式会社ロックオン、マーケティングメトリックス研究所の松本です。

前回は「誤解を生みやすいグラフの表現方法5つのテクニック」を紹介しました。

参考:
悪用厳禁!誤解を生みやすいグラフ表現方法5つのテクニック|ferret

今回はより柔軟な表現方法でよりメッセージが伝わりやすいことで知られる「インフォグラフィック」における、絶対にやってはいけない5つのテクニックを紹介します。もちろん、今回も悪用厳禁です! ぜひ業務に役立ててください。
  

インフォグラフックとは

まずは、"インフォグラフィックとは何か"について、ご紹介します。

参考:
インフォグラフィックとは?視覚で情報を伝える技術を理解しよう|ferret

インフォグラフィックとグラフ(人によってはデータビジュアライゼーションとも言うでしょう)の違いは2つあります。

1つ目は「情報量」です。ほとんどの場合、1つの枠の中の情報量はインフォグラフィックが多いでしょう。グラフは表現方法が決まっていますから、異なるデータを3つも4つも盛り込んで表現できません。

2つ目は「再現性」です。あるデータを渡されて「特徴を説明して」と言われた場合、グラフは全く同じ内容に仕上がる可能性はあるでしょうが、インフォグラフィックはほぼありえないでしょう。

自由に表現できるからこそ情報量も多いのです。一方で自由過ぎるが故に、グラフ以上に誤解を招きがちな表現になるのも事実です。
  

インフォグラフィックでやってはいけない5つのテクニック

さて、ここからは前述のとおり、自由過ぎるが故に誤解を招きやすい5つの表現テクニックについてご紹介ていきます。
  

1. 面積でごまかす

こちらは「高さ」を比べて、データの量の違いを感覚的につかめるのが棒グラフの特徴です。しかし、その表現方法が”単なる棒”のため、インフォグラフィックを作るなら心情的には棒以外で表現したいものです。

以下は国税庁「統計年報」を参考に、清酒の生成数量が多い上位5府県をインフォグラフィックで表現しました。

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徳利の「高さ」=棒グラフの棒の「高さ」を表現しています。しかし、棒の高さに合わせて横幅まで伸びているので、京都府の生成数量は兵庫県の半分以上あるのに、全くそうは見えません。なぜなら面積が半分以下だからです。横幅を統一すれば良いだけなのですが、そうすると不自然に長い徳利が仕上がってしまいます。

言い換えれば、こうした「目の錯覚」を用いれば、勝手に面積で比較してくれるインフォグラフィックが仕上がるのです。
  

2. 棒の高さと数字が連動していない

次は情報量が多過ぎるが故に、略してはいけない部分を略してしまうものもあります。

以下は2017年日本プロ野球が開幕する前の時点で、2,000本安打まで既に100本を切っていたNPB選手3名をインフォグラフィックで表現しました。

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積み上げたボールの多さがヒットの数の証と言えるかもしれません。先ほどの「面積」によるごまかしもありません。しかし、ボールで積み上げられた高さが、実際の高さと合いません。3人のボールの差分は等間隔です。仮に1つのボールがヒット200本だとしたら、各選手のボールの価値が全くバラバラです。

こうして考えると、皆さんが普段使っている棒グラフの完成度の高さがわかります。しっかり計算し尽くされたグラフなのです。
  

3. 絵の意味がない

続いては、インフォグラフィックでよくありがちなインフォとグラフィックが結び付けていないパターンです。

以下は関西が世界に誇るUSJの入場者数の推移を表しています。本にもなるほどの奇跡のV字回復ぶりでした。それをインフォグラフィックで表現しました。

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いったん750万人まで落ち込んだ後、そこから約2倍のV字回復です。インフォグラフィックを見ると1人あたり100万人でしょうか。面積も、量もあっています。しかし、3点の距離が等間隔なので、入場者数がわずか3年で約120万人減り、7年かけて約710万人増えたインパクトの大きさがわかりません。

絵で表現しているのに結局数字を見ないとわからないインフォグラフィックは、インフォグラフィックとは言えません。
  

4. 3次元で表現する

こちらはインフォグラフィックであっても、3次元を用いた表現方法は避けたほうが良いという例になります。

より多くの情報量を盛り込むために、立体的に表現したい衝動に駆られるかもしれません。しかし、縦・横でデータを表現するほかに奥行きを設けることで錯覚が起きやすいのは間違いありません。

以下は、最近日本人が世界記録保持者になっている期間が長い男子水泳200メートル平泳ぎの1980年以降のレコードをインフォグラフィックで表現しました。

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実際は以下の折れ線グラフをインフォグラフィックとして表現しただけです。平面のグラフを3次元に置換するだけで、見え方がかなり変わります。

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3次元にすると "この先どうなるのか" という予測も立てづらくなります。言い換えれば、縦・横・奥行きを持ったインフォグラフィックは、誤解と錯覚の玉手箱に仕上がるのです。
  

5. 目の錯覚を利用する

最後は、あまりにも有名な図で締めたいと思います。

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視覚効果を使った「だまし絵」のようなものです。矢印が外に向かっているか中に向かっているかの違いですが、真ん中の緑の棒の長さが違って見えます。もちろん本当は同じです。

インフォグラフィックは、既存のグラフ表現の決まった枠に準拠しつつも、自由な表現幅を持ってデータを利用できます。言い換えれば、このような「だまし絵」の手法を気付かず取り入れてしまう可能性があるのです。

グラフは誕生しておよそ約200年の歴史しかありません。しかし、正しく使うことで錯覚や誤解を生まないルール作りが整備されてきました。「やってはいけない表現法」を踏まえることで、自由な表現方法が広がることを祈るばかりです。