アマゾン第2本社の候補地選び、“勝者”は巨額の補助金を手にしたベゾスだった

アマゾンの「第2本社」の候補地選びが、ニューヨーク市と、ワシントンD.C.近郊のアーリントンに決まった。これらはアマゾンやCEOのジェフ・ベゾンにとって極めて有利な決定となっている。巨額の補助金、リアル店舗の展開やロビー活動のしやすさ──。そして決定的なのは、名乗りを上げた全国の都市から選考過程で手に入れた詳細な都市データだ。結局のところ、このレースの勝者は誰だったのか?
アマゾン第2本社の候補地選び、“勝者”は巨額の補助金を手にしたベゾスだった
アマゾンが「第2本社」建設地のひとつに選んだニューヨークのロングアイランド・シティー。PHOTO: DREW ANGERER/GETTY IMAGES

14カ月にわたる検討期間を経て、ついにアマゾンの「第2本社」の場所が決まった。新しい本社は1カ所ではなく、東海岸の2大都市都市圏にそれぞれ拠点を設置するという。具体的には、ニューヨークのクイーンズ区に属するロングアイランド・シティーと、首都ワシントンD.C.近郊のヴァージニア州アーリントンだ。

アマゾンは第2本社の建設計画を明らかにした際、地元ではホワイトカラー5万人を雇うと約束しており、実に238の地域が誘致に名乗りを上げた。最終的には2カ所となったが、それでも両都市では向こう10年間で2万5,000人の新規雇用の創出が見込まれる。

もうひとつ、おまけがある。テネシー州ナッシュヴィルに小規模なオペレーションセンターを開設し、5,000人を雇用するというのだ。3都市すべてで来年には人材募集に着手する予定で、平均給与は年間15万ドル(約1,700万円)になるという。

新本社の建設を巡っては、これまでに複数の政治家や研究機関、市民団体などから批判が出ている。世界で最も利益を上げている巨大企業に対して、誘致の“餌”として、税金から支払われる高額な補助金や信じられないほど気前のいい税制優遇措置が提示されたためだ。しかも、その具体的な内容は市民にはほとんど明かされていない。

アマゾンが3都市で受け取るインセンティヴは、総額20億ドル(約2,277億円)規模に達する。同社の発表によれば、ニューヨーク州では新規雇用の創出やオフィスビルの入居率を上げることなどと引き換えに、向こう10年で15億ドル(約1,707億円)相当の優遇措置を受ける。アーリントンとナッシュヴィルでは、それぞれ最大で5億7,300万ドル(約653億円)、1億200万ドル(約116億円)だ。

優遇策の規模だけを見れば、3都市より高額なパッケージを用意した自治体はほかにあった。例えば、メリーランド州モンゴメリー郡の提案は85億ドル(約9,680億円)、ニュージャージー州ニューアーク市は70億ドル(約7,971億円)である。アマゾンは声明で、選考において経済的なインセンティヴはひとつの指標にはなったものの、「最高の人材を確保できるということが最終的な決定理由だった」と述べている。

アマゾンにとって有益な地の利のよさ

アマゾンの従業員は、ビジネス目的でニューヨークとワシントンの両都市圏を訪れることが多い。クラウド事業のアマゾン ウェブ サービス(AWS)は安全保障分野で数十億ドル規模の契約を頻繁に受注しているが、国防総省の本部が置かれているのはアーリントンにほど近いフェアファックスだ。また、ヴァージニア州ラウドン郡には巨大なデータセンターを開設する予定で、同州北部でもデータセンター向けの土地を探しているという。

政治も重要な要素を占める。アマゾンのロビー活動関連のコストは、過去5年で5倍に拡大した。これは一部には、配送センターで働くスタッフの雇用待遇などを巡る問題がもち上がっているためで、司法省をはじめとする関係当局に対する働きかけを強めているとみられている。

さらに、最高経営責任者(CEO)であるジェフ・ベゾスの個人的な事情もある。ベゾスは2016年、ワシントン随一の高級住宅街にある2,300万ドル(約2,619億円)の豪邸を購入した。それに先立つ13年には『ワシントン・ポスト』紙を買収している。

首都ワシントンD.C.近郊に位置するヴァージニア州アーリントンの様子。PHOTO: MARK WILSON/GETTY IMAGES

一方のニューヨークは、やはり候補に入っていたニューアークに近い。ニューアークには子会社オーディブルの本社があるが、アマゾンは昨年、マンハッタン(クイーンズとはイースト川を挟んで目と鼻の先だ)で36万平方フィート(33,445平方メートル)のオフィススペースの賃貸契約を結んでいる。

ついでに書いておくと、ニューヨークでの存在感を拡大しようとするIT大手はアマゾンだけではない。『ウォール・ストリート・ジャーナル』の報道によれば、グーグルもここでオフィス物件を探している。

入手した都市データの重要性

意外性に欠ける結果に終わったからといって、候補地選びにそれほど重要な意味はなかったのだと決めつけるのは早計だ。「ブルームバーグ」が指摘しているように、アマゾンは第2本社の建設地を誘致する過程で、北米の主要都市についての詳細なデータを入手した。交通インフラ、就労人口の年齢層や教育程度、不動産事情といった情報で、これを戦略の策定に生かさない手はないだろう。また、拡大を進める実店舗事業にも役立つはずだ。

なお、グーグルは2010年に、ブロードバンドインフラの実験プロジェクト「Google Fiber」の実施場所を決める過程で同じようなことをしている。

候補地の自治体は同時に、自分たちが何を提供できるのかというデータも喜んで差し出した。ブルッキングス研究所大都市圏政策プログラムが3月に発表した推計によると、米国の地方自治体が提供する税制優遇措置や補助金の総額は年間450億〜900億ドル(5兆1,244億〜10兆2,488億円)に上る。

経済的なインセンティヴで企業を誘致することが地域社会にとって本当にプラスになるのかについては、議論の余地がある。しかし、このやり方が地元の雇用創出に躍起になる政治家たちにとって、ひとつの効果的な手段となっているのは事実だ。

誘致に応えた地方自治体は、「自分たちこそテクノロジーとイノヴェイションの新しいハブにふさわしい」と売り込んだ。最終選考まで残った10地域どころか、最初から望み薄だろうと思われていた地域ですら、万にひとつの可能性にかけて必死になったのだ。

候補地の政治家は賛否両論

もちろん、各候補地の政治家全員がもろ手を上げて誘致に賛成しているわけではない。ニューヨークでは、市長のビル・デブラシオと州知事のアンドリュー・クオモが特に熱心だった。デブラシオは今回の発表後、「ニューヨーク市における新しい経済の確立に向けた大きな一歩です。市民全員が恩恵を受けるでしょう。アマゾンが第2本社にニューヨーク市を選んだことに興奮しています」と話している。

クオモにいたっては、過去にロングアイランドに流れる小川を「アマゾン川」と呼んではどうだろうと発言したことさえある。

ニューヨークのロングアイランド・シティーでは、第2本社建設地として選ばれた直後から抗議活動も行われている。PHOTO: DREW ANGERER/GETTY IMAGES

一方で、上院議員のマイケル・ギアナリス(選挙区はクイーンズ区)や市議会議員のジミー・バン・ブラマーは、アマゾンが地元にやって来ることにあまり乗り気ではないようだ。両者は連名で出した声明で、誘致パッケージの内容について「大きな疑問」を感じていると述べている。「わたしたちはアマゾンのドローンになるために選挙で選ばれたわけではないのです」

また、中間選挙で下院議員に選ばれたばかりのアレクサンドリア・オカシオコルテスは、「市の地下鉄が老朽化し、インフラ投資の拡大が求められている状況で、アマゾンのような大企業が巨額の税制優遇措置を受けるのは地域住民にとっては重大な懸念となるでしょう」とツイートした。

都市の問題がむしろ悪化する?

シアトルにあるアマゾンの本社では45,000人が働くが、同市の不動産価格の上昇率は国内でもトップレヴェルだ。市議会は5月、大企業を対象にした新たな法人税の課税法案を可決した。税収は深刻化する住宅問題の解決に使われる予定で、実現すればアマゾンの場合は年間1,000万ドルを新たに税金として収めることになるはずだった。

ところが、企業側の強硬な反対にあったために、6月には見直しが決まった。ちなみに、ベゾス個人の昨年の収入は、1日当たりで計算すると1億700万ドル(約122億円)になる。

税金関連ではほかにも、各州政府がオンライン小売業者から実店舗をもつ小売業者と同じように売上税を徴収することを目指したインターネット売上税(いわゆる「アマゾン税」)がある。これを巡っては、雇用流出の恐れなどを訴える大規模な反対キャンペーンが行われたが、アマゾンが大金を投じてキャンペーンを後押ししたことは言うまでもない。

ニューヨークでもワシントンでも、住宅事情はすでに十分に悪化している。ニューヨークでは地下鉄を含む公共交通インフラの補修に大規模な投資が必要とされているほか、同市の学校教育は全米で最も人種による分断が進んでいる。一方、ワシントンは全米で所得格差が最も大きい都市だ。

地元の活動家たちは、アマゾンの誘致によってこうした問題がさらに悪化するとの懸念を訴えてきた。アマゾンはこれに対し、クイーンズで新しい学校の建設用地を寄付することを含む一連の施策を示している。

経済の活性化やホワイトカラーの雇用創出といった、アマゾンがこれまでにしてきた数々の約束は、巨額な優遇策や地域社会に及ぼすネガティヴな影響を補うのに十分なものなのだろうか。


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TEXT BY LOUISE MATSAKIS

TRANSLATION BY CHIHIRO OKA