ウォルマートのeコマース部門のシニアバイスプレジデントであり、グループのジェネラルマネージャーを兼任するアンソニー・ソーホー氏の2月8日のブログの書き込みによると、同社の新しい家具ブランドのモダン(Modrn)は、より安価にトレンド性のある家具を求めている顧客に狙いを定めている。
ウォルマート(Walmart)は、新たに立ち上げたモダン(Modrn)という自社ブランドを使って、規模が拡大しつつあるオンライン家具製品市場に攻勢をかけ始めている。
ウォルマートのeコマース部門のシニアバイスプレジデントであり、グループのジェネラルマネージャーを兼任するアンソニー・ソーホー氏の2月8日のブログの書き込みによると、このブランドは、より安価にトレンド性のある家具を求めている顧客に狙いを定めている。またこれは、Walmart.comの家具商品ページの閲覧が35%増加したことに対するウォルマートの回答でもある。モダンブランドのソファ、ベッド、バー用の家具、屋内外のダイニング家具や椅子などの商品は、Walmart.comやJet.com、そしてヘイニードル(Hayneedle)を通じて、199~899ドル(約2万2000円~9万9000円)の価格帯で販売される。
ウォルマートの狙い
ウォルマートがオンラインの家具ブランドに攻勢をかけるのは、今回がはじめてのことではない。2016年にはオンラインで家具を販売するヘイニードルを9000万ドル(約9億9400万円)で買収している。
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ウォルマートは市場での存在感を強め、買収した企業から得た見識を活用し、それらの企業を新しい自社ブランドとして打ち出すことで、ウェイフェア(Wayfair)やターゲット(Target)、Amazonなどに対する競争力を強めている。ウォルマートは、デジタルでのリーチ拡大や、デジタル世代の若年層の顧客の好みや行動を知るため、ヘイニードルに加えて、Jet.comやボノボス(Bonobos)、モッドクローズ(Modcloth)やムースジョー(Moosejaw)といったオンラインブランドを買収した。
「ウォルマートがこの市場に参加するのは当然のことだ。ブランドの買収や、新しい自社ブランド構築など、考えうるすべての角度からのアプローチをとっている」と、ガートナーL2(Gartner L2)のクライアント戦略・調査部門のディレクターを務めるトム・ジハーニ氏は語る。「ボノボスやモッドクローズ、ヘイニードルを買収したり、それらのデザイン感覚を新たなウォルマート自身のブランドに取り入れはじめている。メンズウェアのジョージ(George)ブランドの商品の多くはボノボスの洋服と似ているし、彼らが立ち上げたブランドの家具の多くは、ヘイニードルで売られていたものに似ている」。
買収先のデータや見識で
ガートナーL2によると、オンラインの家具や国内外の市場は、この先5年間で5倍に成長すると見られている。eマーケター(eMarketer)の試算では、この市場のアメリカでの2018年の市場価値は500億ドル(約5.5兆円)だったという。ガートナーのデータによると、Amazonはこの2年間で、ホームカテゴリで40%の成長を見せている一方、ウォルマートはオーガニックサーチの結果で表示されることが少ないという。さらに、Google上での277のホームカテゴリの検索結果表示では、ウェイフェアが81%、Amazonが65%であったのに対し、ウォルマートは44%にとどまった。
従来の「大型ディスカウントストア」モデルとは対象的に、買収ブランドのデータや見識を得ることでウォルマートは、比較的若く、都市に住む新しいタイプの顧客にリーチできる。
「(買収した)デジタル時代のブランドから得られるデータは膨大だ。オンラインではかなり長くやっているし、内外から顧客を知ることができるという利点もある」と、ジェーン・ハリ&アソシエイツ(Jane Hali & Associates)でCEOを務める、リテールアナリストのジェーン・ハリ氏は語る。
新規顧客の獲得戦略
より高級感のある、オンライン限定のブランドを構築する目的は、普段はウォルマートで買い物をしないような顧客にアピールするためだ。ウォルマートブランドを、買収したDTCブランドの商品の見た目や感覚に寄せることで、ウォルマートは顧客の層を拡大できる。ただし、この市場は、さまざまなオーディエンスに合わせて新しいブランドを追加しているAmazonやターゲットとの競争が激しくなっている。利ざやの大きい商品で攻勢をかけたり、ブランドの限定商品を特定のリテーラーで限定販売する、というこれまでは二番手だった戦略は、いまでは商品戦略の中心となっている。
「ウォルマートで買い物をする気がまったくない、という顧客層がいることはウォルマートも認識している」と、L2のジハーニ氏は指摘する。「このような顧客には、買収したブランドを通じて商品を提供できるだろう。ただ、同時にウォルマートで買い物をする顧客も増やしたい。これを成し遂げるために彼らが採れる手段のひとつは、ボノボスの商品に似たものをWalmart.comで直販、またはウォルマートの実店舗に導入することだ」。
近年、ウォルマートの自社ブランド戦略は、低価格商品からより高額商品にシフトしていて、これらの一部分は、一連のDTCブランドの買収によって可能になっている。
「彼らはサプライチェーンへのアクセスや、工場やデザイナーとの良い協力関係を得たことで、顧客の印象はこれまでのウォルマートよりも良くなった」と、ジハーニ氏は言う。
競合他社との差別化
ウォルマートは新ブランドの立ち上げリスクを抱える一方で、自社の実店舗を通じた物流ネットワークや、サプライヤーやデザイナーとの関係性は、競合他社との差別化に繋がっている。
「このアイデアは、自信を持って強く勧められる。彼らの信頼性と流通の力は大きい」と、プランA(Plan A)のCEOであり、ドローガ5(Droga5)の共同設立者のアンドリュー・エセックス氏は語る。「良くブランディングされている。明確かつ現代的で、これまでにない、まったく新しい何かを感じる」。
エセックス氏によると、ウォルマートの最大のリスクは、忍耐力に欠けること、そこがAmazonやターゲット、ウェイフェアのような、オンラインの家具市場でしのぎを削る企業がひしめく、競争の激しい市場であることだという。こうしたハードルはあるものの、ウォルマートのような規模があれば、市場でのシェアを競っている多くの企業のなかでも、自らの立ち位置を確保できるだろう。
「DTCブランドから得た見識や、彼らの強力な足回りが使える状況になったいま、市場を揺るがす準備は整った」と、エセックス氏は語る。