「変化の中に機会あり」
SmartTimes BEENEXT ファウンダー・マネージングパートナー 佐藤輝英氏
インド、東南アジアといったアジアの新興国でもコロナの余震は続いており、人々は引き続き様々な対応に追われている。都市レベルでの移動規制はいまだ各所で見られ、インド、インドネシアといった国々では感染者数が増加の一途を辿り、第2波の懸念も高い。
一方、各地域ではデジタル化のめざましい進展がほぼ全ての業種・業態で見られた。この半年間、マクロ経済は縮小したが、デジタル経済は加速的に拡大した。注目に値するのはデジタル化をけん引する各地のスタートアップが売り上げや取引量を増やしているだけでなく、コスト構造を大きく変えていることだ。
オンライン関連の需要は消費者と企業ともに増大した。その結果、顧客やサプライヤーの獲得が非常にスムーズになっている。多くの場合、顧客獲得単価は下落し、マーケティング効率が大幅にアップしているのだ。
また、3~4月のコロナ禍初期に行った危機対応によって各社のコスト意識が高まり、徹底的に無駄なコストをそぎ落とした結果、筋肉質になった企業も多い。黒字化までまだ時間がかかるとみていた企業から月次黒字化したり、コロナ下で立ち上げた新サービスが顧客ニーズを捉え一気に伸びてきたりといった報告が増えてきた。まさに「変化の中に機会あり」である。起業家の危機対応力、変化対応力には感服するばかりだ。
また、アジア企業の動きを巡っては地政学的変化も見逃せない。インドでは4月後半、中国からのスタートアップ投資を受ける場合はインド政府の許可が必要という政策の改正が発表された。以降、入れ替わりとなって増えている米国投資家からの資金を獲得する企業が出てきている。
一方、インドネシア市場には中国からの関心が高まっており、世界資本が様々な形で押し寄せていることが見て取れる。極め付きは、6月末のインド政府による中国系ソーシャルアプリの一斉排除だ。インドで1億人以上のユーザーがいたTikTok(ティックトック)ユーザーは行き場がなくなり、Trell(トレル)やShareChat(シェアチャット)といったローカルの動画系ソーシャルアプリに一斉に流れ込んだ。トレルに関しては一気に2000万人近い新規ユーザーの増加があったという。
こうした外部環境の変化を横目に、起業家達の創意工夫はとどまるところを知らない。スタートアップの中にはこのコロナ禍の真っただ中に新しいサービスを立ち上げ、採用もサービス開発もマーケティングも全てリモートでやるコロナネーティブのところが多い。必要は発明の母というが、コロナ禍だからこそ生まれる企業体、ビジネスチャンスに引き続き目を凝らして、起業家の活動を支援していきたい。
[日経産業新聞2020年10月7日付]
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