EBT(困窮者用食料切符)アプリを手がけるプロペル(Propel)は、将来のコラボについてAmazonと協議中だという。Amazonは生活保護を受けている顧客に対して月額5.99ドル(約599円)のディスカウントプライムプログラムも実施しており、昨年はそのプログラムに医療費補助制度利用者が追加された。
Amazonは、低所得層の顧客をターゲットにしている。
EBT(困窮者用食料切符)アプリを手がけるスタートアップ、プロペル(Propel)のCEO、ジミー・チェン氏によると、将来のコラボレーションについてプロペルとAmazonは協議中だという。Amazonは生活保護を受けている顧客に対して月額5.99ドル(約663円)のディスカウントプライムプログラムも実施しており、昨年はそのプログラムに医療費補助制度利用者が追加された。
Amazonはまた、同社のサイト上での特売セクションや、これまでは大型ディスカウントチェーンや1ドルショップなどの場所で買い物をする顧客層に対するリーチを拡大する戦略として、小売店のハブで現金を使用してAmazonアカウントをチャージする機会の創出など、その他のプロダクト機能も展開している。
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その取り組みは、プライム会員を高所得層以外へ多様化させるためのより大きな動きの一部だ。また、それによりウォルマート(Walmart)のような大型スーパーマーケットチェーンの影響も退ける。
同社はまた、荷物の受け取りが困難な顧客に対して、配達商品ピックアップポイントといった他の機能も作り出した。これからローンチ予定のUSDA(米国農務省)パイロットプログラムによって、SNAP(補助的栄養支援プログラム)受給者は参加小売店でEBTカードを利用してオンライン購入が可能になるが、Amazonはこのプログラムの一員でもある。
Amazonにとって良い狩場
低価格販売および物理的に広大な店舗面積を誇るウォルマートと1ドルショップに地の利がある領域で足掛かりを得る取り組みだ。しかし、Amazonは、デジタルに抵抗がなく、時間が貴重なリソースになっている低所得消費者に賭けている。
そこはAmazonにとって良い狩場だ。2018年10月にはじまったパイパー・ジャフレー(Piper Jaffray)の調査によると、プライムの新規サブスクライバーは中・低所得層からますます増えている。パイパー・ジャフレーのデータによると、2018年10月現在、アメリカの世帯の74%がプライム会員登録をしている一方で、世帯当たりの所得が2万1000ドルから4万ドル(約210万円から400万円)の60%がプライム会員登録をしている。その所得の閾値を下回る世帯の比率は明らかになっていないが、2017年の調査は、プライム会員の12%が年間収入2万5000ドル(約250万円)未満であると推定している。
「所得が高い人ほど収入が多いが時間がない、そして所得が低い人ほど収入が少ないが時間があるというのは間違いだ。ディスカウントプライムの顧客から直接見聞きしたのは、彼らは複数の店舗に行く必要がないという機能を重視しているということであり、彼らは時間に縛られているのだ」と、Amazonプライムのバイスプレジデント、ジェム・シベイ氏はいう。
これまでとは異なる顧客層
シベイ氏はプライムのディスカウントプログラムに加入している顧客数についてはコメントしない。しかし、Amazonはディスカウントプライム会員制度で「非常に強い伸び」を確認していると述べた。
2017年だけで600億ドル(約6兆円)以上に相当するSNAP給付がEBTカードで行われており、市場は大きい。シベイ氏によると、このオプションは低所得層への具体的な支援というよりも、顧客の問題を解決することを意図しているという。しかし、アナリストたちは、このオプションは、通常Amazonのマーケットプレイスで買い物をしない顧客層のなかで、Amazonのリーチを広げる戦略の一環だという。
「この戦略は、低所得者市場でリーチを拡大し、生活保護を受けている人々に価値を届けることであり、その市場はAmazonのこれまでの顧客層とは異なる。EBTで商品を購入している人々の大多数は、ウォルマートでその制度の恩恵にあずかっている。そして、Amazonは未開発の市場に手を伸ばそうとしている」と、eコマースコンサルタント会社ヒンジ(Hinge)CEOであり、元Amazonの従業員であるフレッド・キリングスワース氏は述べる。
デリバリー問題は共通の課題
ピックアップと配達の複雑さとともに、特に毎月のプライム会費(たとえ割引があっても)を払っていても、従来型のディスカウントストアで必需品を購入する傾向を考慮すると、より所得の低い層からより多くの顧客を引きつけることはAmazonにとって難しいかもしれない。シベイ氏は、Amazonはセグメント化されたレンズから低所得層の顧客にアプローチしているのではないという。コマースショッピングに関して低所得層が直面している課題は、さまざまな所得層に属する多様な顧客によって共有されている懸念だからだ。しかし、低所得層の顧客にリーチするための取り組みで対処するためには、物流がAmazonにとって課題になるだろうという人もいる。
「EBTの顧客に関し、多くの時間を費やしてわかったことは、玄関先で配達品を受け取ることは、物品を受け取る方法としては安定していないのかもしれないということだ。配送先の住所がない環境で暮らしている顧客から、そのことは再三聞かされている」と、チェン氏は語る。ディスカウントプライムであっても、顧客によっては配送料が利用を遠ざけるコストになり、配送料に対してSNAPの特典を利用できないと、彼はつけ加えた。
シベイ氏は、デリバリーの問題はあらゆる層の顧客における共通の課題であり、それが、ロッカーを含む注文商品の物理的な流通ポイントを展開する理由だと述べた。
もうひとつのハードル
Amazonが自社のサービスを低所得層に拡大する際に直面する可能性があるもうひとつのハードルは、買い物にでかけるのは実店舗での必需品の購入だけに限定している彼らの傾向から判断すると、消費者行動を変えることだ。それは、従来型のディスカウント店が牛耳っている領域である。
「それは、非常に熾烈な市場だ。そこには、巨大企業のウォルマート、その非常に大きな市場シェアをいまだに拡大し続けている1ドルショップ、アルディ(Aldi)、リドル(Lidl)などがいる。これらの顧客の多くが経済的に困窮しており、彼らは現金があるときに買い物に行き、特売品を探す。それは、オンラインショッピングにはつながらない」と、グローバルデータ・リテール(GlobalData Retail)のマネジングディレクター、ニール・サンダース氏は述べた。
Suman Bhattacharyya(原文 / 訳:Conyac)