特集 2019年2月5日

平成最後のキッチン革命「酒蒸し法」

1ヶ月ほど前、ふらりと入ってみた場末酒場の壁に、「鶏の酒蒸し」なるメニューを見つけました。
「あれ? 酒蒸しってアサリ以外にもあるんだっけ?」と興味を持ち頼んでみると、届いたものは、見た目はバンバンジーのタレなしバージョンという感じの、そっけない蒸し鶏。
これを一口食べてみて衝撃を受けました。
シンプルに、ものすご〜く美味しい!
たぶん味付けは塩味のみなんですが、鶏の旨味が異常に濃い!
思わず女将さんに、「これ、美味しいですね。どこかのブランド鶏ですか?」と伺うと、「ううん、普通にスーパーで買ってきた鶏よ」とのこと。

え? じゃあこのうまさの秘密は「酒蒸し」のほうにあるのか!?
しばらく試行錯誤してみたところ、酒蒸しの無限の可能性の扉が開いてしまったので、経過をお知らせします。

1978年東京生まれ。酒場ライター。著書に『酒場っ子』『つつまし酒』『天国酒場』など。ライター・スズキナオとのユニット「酒の穴」としても活動中。

前の記事:海の幸 vs 山の幸 ご飯のおともしょっパフェ対決


まずは酒蒸しを作ってみよう

とはいえ、アサリならともかく、鶏の酒蒸しなんてこれまでに作ったことがありません。
まぁいいや、ダメもとで1回やってみよう、とにかく酒で蒸せばいいんだろう、という単純な思考から、

1.鶏肉の表面にまんべんなく塩を振り、数分間おく

2.皮目を下にフライパンに置き、6分目くらいまで浸るほどの日本酒を注ぐ

3.フタをし、強めの中火で煮込む

4.水気がすべてなくなったら完成

※今回の記事では、すべて一升1000円ほどの、紙パックの純米酒を使用しています

はい、これが今回の基本になりますので、「人生において余分な情報を1mmたりとも脳にインプットしたくない!」という方以外は、いったん覚えておいてください。
まぁ、そんな人がデイリーポータルZを読んでいるかどうかは、はなはだ疑問ですが。

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オーソドックスに鶏もも肉でいきます

肉の厚みにもよりますが、10数分くらいでしょうか。
たまに様子を見つつ、音が「グツグツ」から「パチパチ」に変化してきたらそろそろ。

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パカッ!

おおー、なんかいい感じに見えるぞ!

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皮目には適度な焦げ目

あれ? いきなりいい予感がしてきましたよ。
適度な大きさにカットし、出会った酒場にならって、リーフレタスの横にちょんとマヨネーズを絞り出し、鶏肉を並べていきます。

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人生初の鶏の酒蒸し、完成!

これがまぁ、結論、めっっっちゃくちゃうまかったんですよ。
我がことながら思わず、「あれ? これ、どっかのブランド鶏だっけ?」と思わずパッケージを確認し直してしまうほど(普通のスーパーの鶏でした)、濃厚な鶏の旨味。
ふわりふわりと柔らかいんだけど、それだけじゃない、適度な弾力。

どうやら酒蒸しには、素材の旨味を引き立てつつ、全体をふっくらと柔らかく仕上げる効果があるようです。
※料理に関しては基本自己流なので、想像

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たまらぬ
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いろいろ酒蒸しにしてみよう

大満足の「酒蒸し事変」から一夜明け、「あ〜美味しかった。また作ろ〜っと」なんつって、またいつもの日常へ戻っていったかというと、さにあらず。
僕は、酒蒸しのさらなる可能性を追求することに取り憑かれてしまったのです。
ここからは、その日から今朝までの記録。

だって、考えてもみてくださいよ? 鶏を酒蒸しにしてうまいなら、

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豚だって美味しくないとおかしいじゃないですか?

結果、

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超美味し〜!

安いブロックの豚バラ肉を買ってきて厚めにカットし、同じように調理しました。
感想も鶏肉と同じ。
素材の旨味が引き立っていて、柔らかいけれども適度な弾力。

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ということは、まさか野菜も……?
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あまりに興奮し、思わず蒸している途中で覗いてしまいました
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はいうまい〜!

感想はまたまた同じ。
野菜本来の味わいや甘みがほのかな塩気とベストマッチ。
それが白ワインともベストマッチ。
ただむにゃむにゃと火が通っただけじゃない心地よい食感もあいまって、余裕で食卓のメインを飾れます。

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サンマなんかは、さすがにね……
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焼〜け〜た〜よ〜!

なんと生のサンマまで、こんなにも絶妙な仕上がりに焼けてしまいました。

サンマって超美味しいのに、七輪で焼けばお隣さんから苦情がくる、グリルで焼けば後片付けが面倒、フライパンで焼けばこびりつく。
フライパンにクッキングシートを敷いて焼くとか、いろいろ工夫のしようはありますが、やっぱり気軽に買って帰って家で焼こうとは思わない方も多いんじゃないでしょうか。
実はね、酒で蒸しちゃえば良かったんですよ!

サンマは高さがそんなにないので、酒も4分目くらいで十分。
ものの6〜7分くらいでこの状態に焼きあがりました。

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ブリカマもいい感じに焼〜け〜た〜よ〜!
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酒蒸し法の発見

発端は鶏肉の酒蒸しだったものの、ここまでくるともはやこの調理法、「酒蒸し法」なる、平成最後のクッキング革命と考えてしまってもいいんじゃないでしょうか?
というのもですね、僕、さまざまな酒蒸しを何度も繰り返す過程で、さらなる進化の可能性に気づいてしまったんですよ。

ご存知の通り、鶏の酒蒸しは、塩を振った肉を水気がなくなるまで酒で蒸すだけ。
なんですが、この過程の最後、まだほんのちょっとだけお酒の水分が残っている段階を見極め、そこに、普段から愛用している、ヒガシマルの「牡蠣だし醤油」をジューッ! と注ぎ込んでみたんですね。

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この日は骨付きのもも肉を蒸していた

あ、ヒガシマルの牡蠣だし醤油ってのは、普通のしょっぱみオンリーの醤油とは違って、ダシの味や甘みが加わった醤油。
酒、醤油、みりん、それぞれ1:1:1に、砂糖少々を合わせたタレとかで代用できるかと思います。

とにかくジューッとやって、両面に絡めるように炒めてやったところ、

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え? めちゃくちゃ簡単に鶏肉の照り焼きができちゃった?

調理工程は、いたって簡単な酒蒸しの最後に、牡蠣だし醤油を加えて炒めただけ。
なんと1滴の油も使わずに、こんなに美味しそうな照り焼きができてしまったんです。
美味しそうっていうか、実際美味しすぎましたし。

ね? ここでグッと、酒蒸しの可能性が広がったでしょう。
これはもう「酒蒸し法」じゃないですか?

照り焼き法、混合蒸し法、グレイビーソース法

というわけでここからは、バリエーションあれこれです。

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試しにブランド鶏を買ってきてみました

なんとこの1枚で700円もする高級鶏もも肉(の半額のやつ)!

あ、そうだ! と思って、その時家にあった適当な野菜も一緒に蒸してみました。

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菜の花っぽいのはどこの国だったか原産の、なんとかっていう野菜
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これが現時点での究極だった……

いやあね、スーパーの鶏でも美味しくなるから、逆に美味しい鶏を使うことに意味がなかったらどうしよう? という若干の不安はあったのですが、きっちり酒蒸しの分だけ底上げされていて、とんでもなくうまい!
鶏には野菜の、野菜には鶏の風味が付いている影響もあるのでしょう。
それにこの「酒蒸し法〜混合蒸し法〜」だと、メインと副菜が一気にできてしまう!
この1皿がものの10数分、ほぼ手間なしで。

これ、ちょっとした「キッチン革命」と言ってしまっても過言ではないんじゃないですかね……?

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時間のない朝のお弁当作りにも応用できます

って、だんだん内容が「レタスクラブ」みたいになってきましたが。

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豚の照り焼き、もちろんうまい
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牛肉はどうか!?

手前はよく買っている、西友で一番安いアメリカ産ステーキ肉。

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ホロホロだ

普通に両面を焼き、レアで仕上げた時とはあきらかに違う肉質。
全体がびっくりするくらいに柔らかく、繊維に沿ってホロホロと崩れていくような食感。
ちょっと安い牛肉観が変わってしまう美味しさです。

ちなみに奥は、煮込みなど用のカット肉。
これもなんなく噛み切れるほどにやわらなくなっていましたが、ジューシー感が少し足りないかな。
肉による向き不向きはあるのかもしれない。

あと、肉の表面に焦げ目がついていないのは、水気がなくなるちょっと前に肉を引き上げてしまったからで、そこにポン酢を注いでジャーっと炒めれば、

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肉と野菜の旨味たっぷりのステーキソースに早変わり!

いわゆる「グレイビー(肉汁)ソース」というやつですね。

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えぇ、うまいです
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こんなのはどうでしょう?

あまり自炊をしないって方は、ハンバーグって焼き方が難しそうで敬遠しがちじゃないですか?
あらかじめ焼いてあるお惣菜コーナーのものだと少し味気ない、かといって、タネから手作りする面倒さはもってのほか。
そんな時、こういうのを家で気軽に焼けたら、食事の幅が広がりそうですよね。
※割引品ばかりでお恥ずかしい……

そんな時、酒蒸しなら一気に解決!

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分厚かったので途中で裏返して酒を足し、よ〜く火を通し、

最後に、少し残した水分にケチャップとソースを加えて炒めたソースをかければ、

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こんなに美味しそうに焼〜け〜た〜よ〜!

ちなみにこういう、

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アメリカ産のワイルドで美味しいソーセージ

でも試してみたんですが、

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なんかちょっと仕上がりがベタベタしちゃった

食肉加工品にはいろいろな材料が使われているので、酒蒸しと相性が良くないこともあるのかもしれませんね。
素直にゆでるか焼くかでたべた方が吉でした。


まとめ

きっかけは居酒屋での出会いからだったのですが、その底知れぬ可能性に大興奮し、思わずいろんなものの酒蒸しばっかり食べて過ごしてしまったここ1ヶ月。
火の通り具合にだけは気をつけ(水気がなくなってまだ不十分だったら食材を裏返して酒を足す)、ぜひ、みなさんなりの酒蒸しライフを楽しんでみてください!
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