Amazon「サンプル市場参入」の衝撃ーー AIが購買期待値を予測、試供品広告を表示

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ニュースサマリー: Amazonが試供品に特化したディスプレイ広告事業を展開すると報じられた。化粧品ブランド「Maybeline」やコーヒーブランド「Folgers」に代表されるブランドのサンプル品をAmazoの顧客の閲覧ページに表示させたり、自動的にカートへ入れておく仕組みを提供する予定だという。

過去の購買データを機械学習を通じて分析し、試供品の購買転換率の最も高いであろう顧客へ情報を届ける。購買ビックデータを握っている点からAmazonはGoogleやFacebook広告と差別化を図る大きな競合優位性を持っている。現在、同社のディスプレイ広告事業は全広告収益50億ドルの大半を占める。

1億人を超えるPrime会員との長期的な関係を築く上で、会員が好みのブランドから無料もしくは低額でサンプル品を受け取れるベネフィットが、さらなるLTV向上につながる目算。広告事業収益だけでなく会員継続利用率の向上も同時に行う。

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話題のポイント: Amazonの試供品市場参入の最も大きなインパクトは、ブランドが生産ラインを確立する前におおよその売上予測ができてしまう未来がやってくる点にあるでしょう。大量生産を行う前に定量データによって生産するかの意思決定ができるため、在庫を抱えて損失を生み出すリスクが大幅に減るはずです。

サンプル市場にはスナック菓子の月額サブスクリプションサービス「LovewithFood」やスタートアップ家電を店舗販売する「b8ta」がすでに参入済みです。

たとえばLovewithFoodは食品メーカーと提携して月額7.99ドルから約10種類ほどのお菓子の試供品を詰め込んだボックスを提供。提供されるお菓子はオーガニックなものに絞られ、健康意識の高い顧客は販売前の試供品を低額でこうしたスナックを楽しむことができます。LovewithFoodは月額サブスク料金から収益を得るだけでなく、顧客のリアクションデータを収集してメーカーへ還元するデータ企業としての一面を持っているのが特徴です。

一方、b8taは月額2,000ドルから家電スタートアップに店舗ブースを貸し出す「シェアリング店舗事業」を展開しています。1つの店舗の合計展示商品数は40〜50ほど。ブース賃貸料が収益源であることから売上額の分配を行う既存店舗ビジネスとは一線を画します。

最大の特徴は店舗天井に来訪客の行動データを分析するカメラを導入している点。どのような属性の顧客が・どのブーズに・どの程度滞在したのかデータ収集を行いブランド側に共有。店舗での商品体験を「広告」として位置づけ、そのコンバージョン率をブース滞在実感として計上しているのです。

家電分野では購買前体験がコンバージョン率を高める大きな鍵となります。そこでGoogle広告にブース利用料金2,000ドルを費やしたとても、店舗で購買前体験をしたほうがコンバージョン率が高くなる仕組みを確立しました。この点、従来の不動産市場だけでなく広告市場のディスラプトも狙っているのがb8taといえます。

さて、今回のAmazonが新たな広告事業展開のニュースは前述した2社の事業モデルをそのまま取り込んでしまう可能性を大いに含みます。

LovewithFoodが行っていた月額サブスクボックスを通じたフィードバックデータ獲得は、ビックデータ分析を用いたターゲット広告のコンバージョン率によって完全に代替されてしまうでしょう。オンライン広告を展開した方がはるかに膨大かつ的確な顧客リアクションを得られます。唯一LovewithFoodが勝てる点は数少ない顧客が提供するコメントデータでしょう。コアファンによる定性データは貴重なデータ源となります。しかし規模の勝負では圧倒的な差をつけられてしまうはずです。

Amazonは無人コンビニ「Amazon Go」の出店数を増やしている点からも実店舗市場参入へ躍起となっています。こうしたオフラインチャネルを持つAmazonが、サンプル商品を店舗に置いて購買率計測を図る「オフライン試供品広告事業」にまで拡大させることも想像に難くありません。b8taのように店舗を通じた広告データ取集モデルを真似られてしまえば競合となるかもしれません。ちょうど日本の食品スーパーでしばしば見かける試供品を無料で提供している機会が完全に自動化させられるイメージです。

いずれにせよ、Amazonがオンライン及びオフライン市場の両方で試供品データ獲得チャネルを開拓する時期はそう遠くないように思えます。私たち消費者が気に入るブランドや商品検索が、サンプル商品に対してのリアクションによって事前予測される時代が2019年に訪れるでしょう。

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