Amazonの分析と情報を専門とするTJIリサーチ(TJI Research)によると、Amazon限定ブランドの数は2018年に爆発的に増え、いまでは434の限定ブランドが取り扱われている。2017年末時点の2倍以上に増えており、Amazonが販売しているプライベートブランドと比べても2倍を超えている。
メリサント(Merisant)の北米担当プレジデントであるブライアン・ハフ氏は2018年、Amazonとのシアトルでの会議を「ヨシ!」という思いで後にした。
Amazonは、当時Amazonになかった新しいコーヒーブランドを補完する甘味料の生産パートナーを探していた。イコール(Equal)やホール・アース(Whole Earth)といった人工甘味料ブランドを持つメリサントは、すでにAmazonで商品を販売していて、eコマース事業を少し調整したいと考えていた。もしAmazon向けに新商品を開発するなら、約8カ月から90日へと、生産サイクルをそれまでよりも早く終えなければならない。しかし、それだけの価値はあるだろう。
「会社を次のレベルに引き上げる、ひとつの挑戦になりえるものだと考えた」と、ハフ氏は語る。「Amazonは、我々にはこの分野の専門知識があるのではないかと感じていて、ほとんど我々にやらせてくれた。最高の商品を推し進め、開発するために、組んだ会社を信頼していたように思う」。
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ハフ氏によると、Amazonの役割はパッケージング、ブランディング、価格設定といった要素の最終判断だった。この甘味料は現在、Amazon限定で販売されており、Amazonはマーケティングとフルフィルメントを担っている。
こうした生産プロセスを一緒に何度も繰り返した会社はメリサントだけではない。消費財(CPG)から家具までさまざまなカテゴリーで、GNCからタフト&ニードル(Tuft & Needle)まで幅広いブランドと、Amazonはこれを行ってきた。
Amazonの分析と情報を専門とするTJIリサーチ(TJI Research)によると、Amazon限定ブランドの数は2018年に爆発的に増え、いまでは434の限定ブランドが取り扱われている。2017年末時点の2倍以上に増えており、Amazonが販売しているプライベートブランド(TJIリサーチによると138個)と比べても2倍を超えている。ガートナーL2(Gartner L2)の調査によると、限定ブランドは2018年にはじめて、プライベートブランドをローンチ数で上回った。
Amazonでは、限定ブランドはプライベートブランドと同様に、Amazonのサイトでしか見つからない商品を意味するAmazonの「アワー・ブランド(Our Brands)」にまとめられる。しかし、Amazonが商品の商標登録、開発、生産、販売、流通を行う必要があるAmazonのプライベートブランドと異なり、限定ブランドの場合、Amazonは新商品の展開に必要な役割、およびリソースの一部を担う。研究開発と生産の負担は、Amazonが限定プログラムへの参加を打診するブランドパートナーに移る。Amazonからすると、メーカーとしての仕事には関わらずに独占的な在庫を享受できる。
「Amazonが限定ブランドのパートナーシップを実験中であることはわかっていたが、限定ブランドへの注力にAmazonがギアチェンジしたことが明らかになった。これはとても理にかなっている」と、ガートナーL2でAmazon情報のシニアプリンシパルを務めるオウェシ・カージー氏は語った。「AmazonとAmazon上のブランド、双方が得をするのだ」。
これがAmazonにとって成功する形であることは証明されている。TJIリサーチによると、Amazonはこの数カ月、毎週のように新しい限定ブランドを立ち上げている。このAmazonの在庫戦略の変化は、マーケットプレイスのAmazonへの移行が進んでいることを証明する。限定ブランドや限定商品の在庫をしっかりと構築すると同時にブランドパートナーを引き寄せることで、小売事業の規模を拡大し、競合相手を超える力を、Amazonはさらに盤石なものにしつつある。
この件について、Amazonにコメントを求めたが回答はなかった
プライベートブランドから限定ブランドへの移行
限定ブランドはAmazonの在庫戦略の極めて重要なピースだ。というのも、プライベートブランドという落とし穴なしでAmazonが「アワー・ブランド」のセレクションを拡大できるようになるからだ。ガートナーL2の調査によると、Amazonは2017年と2018年に、100を超えるプライベートブランドをローンチした。しかし、調査によると、AmazonBasicsやAmazon Essentialsなど、日用品を扱うわかりやすいブランドを除けば、プライベートブランドの試みは大部分があまり成果を残せなかった。Amazonによると現在、プライベートブランドは売り上げの1%になっている。
「Amazonからすると、サンクコストになってしまい、時間と資金が浪費された」と、マーケットプレイス・パルス(Marketplace Pulse)の創業者でCEOのユオザス・ケジエンカス氏はいう。マーケットプレイス・パルスの調べでは、Amazonは2018年に100のプライベートブランドをローンチしたが、ファッション、消費財、身の回りのケアといった分野ではひとつもカテゴリーのトップにならなかった。
プライベートブランドのローンチをやめてしまおうというわけではないが、以前よりよく考えるようになってきており、商品の量の充実については限定ブランドのローンチへの依存が強まっている。
「Amazonは2年間、攻勢を強めてプライベートブランドの発売を増やしていったが、いずれもぱっとしなかった。よくやっているものはいくつかあるが、プライベートブランド全体としては軌道には乗らなかった」と、カージー氏は語る。「Amazonは小売マーケットプレイスの見直しを進めており、限定ブランドは優先度が高まっている」。
また、強固なプライベートブランド事業は、Amazonがメーカーとマーケットプレイスの両方をできるのはどうなのかと、規制当局の詮索を招いた。そして先日、Amazonは競合相手の商品ページ上のものなど、プライベートブランドの積極的なプロモーションの一部を削除した。限定ブランドは関与するところが増えるので、Amazonが不正競争で呼び出される可能性が下がる。
Amazonはこのところマーケットプレイスの変更を進めていて、商標が必要になる「ブランド登録」をベンダーに求めたり、業績がよくないベンダーをサードパーティのマーケットプレイスに移したり、セラーへの値引き要求を撤回したりしている。
「Amazonは全面的に悪習を改めようと取り組んでおり、限定ブランドはその一助になるだろう」と、カージー氏は語った。
Amazonで限定ブランドを出すには
Amazonではよくあることだが、限定ブランドを巡るプロセスは分散していてはっきりしない。メリサントなど一部の小売業者は、Amazonの勧誘でマニファクチャー・アクセラレーター・プログラム(Manufacturer Accelerator Program)に参加した。メーカーが生産に取り組み、Amazon限定にすることと引き換えに、Amazonがメーカーに対し、ある商品をこのスケジュールで生産するといった助言や、Vineレビューやマーケティング予算といったインセンティブを提供するプログラムだ。
また、Amazonのサードパーティのセラーが、Amazon Exclusivesというプログラム経由で入り込むこともでき、Amazonの支援を受けてAmazon事業にテコ入れしたいセラーからの申し込みを受けつけている。Amazon Exclusivesのセラーは、販売実績に関して一定の要件を満たし、Amazonと自社サイトのみで商品を販売することに同意する必要がある。そのうえで、Amazonにおいて自力で販売を促進できるという証明の実績に基づき選抜される。メーカーとの差別化は、よりユニークなブランディングとポジショニングであり、これに対しメーカーは、Amazonのプライベートブランド商品とよりなじみやすい商品を開発する。たとえば、タフト&ニードルは当時Amazonで販売していたものより価格が安いマットレスの生産を、Amazonに持ちかけられた。Amazonは根拠として、Amazonの顧客がマットレスに使う金額の傾向に関するデータを提供した。タフト&ニードルはこの提携で、自社のブランドを薄めることなく、安価なマットレスを開発、販売することができた。
最近、Amazonのプライベートブランド戦略に関する調査を実施したマーケットプレイス・パルスのユオザス・ケジエンカス氏は、「Amazonは小売業者だが、規模をいちばん達成しているのは、他社に仕事をやってもらっているときだ」と語った。「つまり、リスクがよそにあるときだ。Amazonと仕事をしたいブランドが他が持たない強みを手にするような環境をAmazonは作っている」と同氏は話す。
いずれかのプログラムでも、Amazonに協力して限定商品を開発したブランドは、Amazonに商品を無料でマーケティングしてもらえ、検索結果で特別に配慮してもらえる。Amazonは消費財、身の回りのケア、アパレルなどのカテゴリーにおいて、限定商品とAmazonの商品を最優先させるべく、よくある検索語の検索結果のいちばん上に「アワー・ブランド」のカルーセル広告を掲載するプロモーションを開始している。
Amazon Exclusivesに参加したあるブランドの創業者が、「Amazonでのパフォーマンスを向上させ、Amazonの内部がどう動いているのかについて理解を深める。このふたつを同時にできるのだとわかった」と語ってくれた。「外部者だったのが内部者になりゲームを進めるような感じだった」という。
ターゲット(Target)やウォルマート(Walmart)が、DTCブランドを中心に独占パートナーシップを募ったように Amazonは限定ブランドに注力して、ブランドキラーではなく友好的なパートナーなのだとブランドを説得する必要がある。Amazonは限定プログラムを、参加ブランドがAmazonで成功を収めることで売り上げ全体が上昇する、ウィンウィンのプログラムと位置づけようとしている。
しかし、Amazon限定商品を作ったあるブランドのマネジャーによると、Amazonは協働すると合意した際に主張したほど、リソースになってくれていないという。
「データと指標は相変わらず不十分で、本当のパートナーというよりは、機械の歯車ではあるが機械がずっと大きくなったという感じだ」と、このマネジャー。「とにかく、カードをAmazonが握っていることには変わりがない」と、同氏は語った。
Hilary Milnes (原文 / 訳:ガリレオ)