みなさんは、この写真を見た瞬間、「具は?」「つけ麺の麺だけ?」と思うことでしょう。
実はこの麺、これが完成形です。具がないのです。
厳密に言うと、ネギとショウガのみじん切りが申し訳程度に入っています。
それなのにこの麺、「食べたらまた食べたくなる。少し食べないと中毒症状が起きる」という人が続出する、とんでもない依存性をもつ麺なのです。
開高健や中尾彬など多くの文化人・著名人も魅了されてきました。
この麺を提供しているお店の名は「嘉賓」。四ツ谷、御茶ノ水、渋谷などにあります。
こちらの四ツ谷が本店です。
主人の中野翔さんは日本に帰化された広東出身の方で、中野さんの母親が1976年にこの店を始めたそう。当時から「広東で朝食や夜食に食べていた家庭の味をぜひ日本人にも」と提供したのが、この麺「カキソース和えソバ」なんです。
40年間ファンに愛され続ける「カキソース和えソバ」
その名の通り細麺にオイスターソースを和えただけの超絶シンプルな料理です。
写真はランチセットなので麺の量が少なめですが、単品(824円)はもう少し量があります。
初めて会社の先輩にここの麺を食べに連れてきてもらった時は、出てきた料理を見て「頼むんじゃなかった……」と心底後悔したものです。
なのに店内のほとんどのお客さんがこれを食べている。先輩も「月に1回は食べないとね〜」などと言っている。この人たち、ちょっとおかしいんじゃないか?とまで疑ったものです。
しかしこの麺のポテンシャルの高さには心底驚かされます。
細麺には独特のコシがあり、硬すぎず柔らかすぎず、これぞベストの食感。頬張った瞬間にオイスターソースの香りが口中と鼻腔を覆い尽くします。
油で炒めずに和えているのでベタベタせず、麺一本一本を均等にソースがコーティングし、味も濃すぎず薄すぎず。まさにすべてが「ちょうどいい」のです。
麺は乾麺を使用。「生麺だとかんすいが多くさらっとした口当たりにならない」のだとか。細さを指定して特注しているそうです。
でも麺がいくら特注でもここまでハマる理由は他にあるのでは……。もしやオイスターソースが自家製!? と鼻息荒く尋ねてみましたら、「普通のオイスターソースです」と中野さん。
しかし、料理人はこの道40年のベテランで、その作り方に秘訣があったんです!
まずはネギとショウガを鍋で炒めて香りを出す。そこへ水でもどして少し焼いた(ここが肝心)麺を入れ、オイスターソースと醤油を少々加え、軽く炒めて完成。
簡単そうに聞こえますが、この「香りを出す」タイミングが重要なんです。同じ食材を使っても真似できないですね。
食べ始めると、これは、「麺を食べる」料理なのだと気が付きます。もはや具なんていらないのです。
ワシワシと食べ進めると皿がすぐ空になってしまうので、少し休憩。
おっと。卓上には自家製ラー油と酢があります。
ちょっとした出来心から「味変」を試みようと思います。
ラー油をかけてみました。
ラー油をかけると、魚介エキスがたっぷりときいた、まろやかな辛みが加わり、和えソバがピリ辛になってより味わい深くなりました。
酢もいってみます。
中華料理って酢をかけても酸っぱくならないのが不思議ですよね。この麺も酢によってさっぱりした後味になりました。
でも結論から言うと、
そのままが一番おいしい!
「飽きる」とかこの麺にあり得ないんです。
ところで、昼は週替わりのセットメニューがあり、カキソース和えソバにお粥が付いています。
お粥の肉は週替わりで、取材時は牛肉でした。
私はお粥に興味のない人間なのですが、このお粥には「やられた!」と思いました。
お粥=味がないという概念を覆す、ほど良い塩気としっかりとダシがきいたご飯。ぷりっとした牛肉の塊が入っています。
嘉賓はお粥も旨かったのか……。
「ここは水餃子も旨いよ」というタレコミも実証
嘉賓の上級者の間では、和えソバ以外にもアレが旨い、コレが旨いと囁かれるメニューがいくつかあります。
その一つが水餃子。
「茹でギョーザ」とも書かれていますが同じものです。単品にもセットにもできます。
皮がとにかく分厚い!ブリッとしています。この皮も特注だそうです。
具は挽き肉、ニラ、干しシイタケとシンプルですが、モチモチの皮の食感とジューシーな具の食べ応えがたまりません。
冷めても硬くならず、みずみずしさが保たれています。
和えソバより私はカレーが好きかも
カレーかよ!とあなどってはいけません。
嘉賓を語る中で、「実はカレーが好き」という人がいたら、それは間違いなく相当な上級者です。
ランチメニューの1つである「鶏肉のカレーライス」(721円)。
これカレー!? というビジュアルですね。タマネギと鶏肉だけのこれまたシンプルなカレーです。
何がすごいって、このカレー、
「一切寝かさない」
というのが信条なのだそうです。
中野さん曰く「よく“1日置くと美味しい”とか言いますが、作りたてが一番。具の食感もあって、香りが逃げないでしょ」。
そうなんです。このカレー、タマネギがめちゃめちゃ入っていますが、作りたてですぐに提供されるので、シャキシャキの食感が存分に楽しめるのです。
私はこのカレーを「東京で一番タマネギを美味しく食べられるカレー」だと思っています。「トロトロに煮込んでやわらかくなった…」なんてここでは何のアドバンテージでもありません。
鶏肉もゴロゴロ入ってます。
ルウはさらっとしつつあんかけに近いとろみ。スッキリしたスパイス感で、家庭の味を思わせますが、鶏ガラスープが入っているので味に奥行きがあります。
しかし凄いタマネギの量ですね!
シャキシャキの食感とフレッシュ感に、スプーンが止まりません。
残念ながらこのカレー、ランチの週替わりメニューの一つで、「1か月に1週間だけ、しかもいつ出るかわからない」という幻のメニューなのです!
「電話して聞かれても、いつやるかはすぐに答えられない」と中野さん。
激レアメニューですね。でも週替わりメニューのサイクルを把握しておけば、大体の時期は予想できそうなのでぜひトライしてみてください。
カレーも和えソバもぺろっといけました。
むしろ和えソバ、あと5皿ぐらい食べたいです。
カレーは毎日でも食べられそうです。
なぜこの店がみんなに愛されるか分かりました。
「シンプルなものを美味しく作る」という、簡単そうで実は難しいことを
どの料理にも貫き通しているんですね。
土日祝は全品2割引きだと!?
カキソース和えソバも約660円になるってことですよ!カレーも約580円になります。
和えソバとカレーと水餃子を全部頼んでも2000円ぐらいってことです。
毎週行って全メニュー制覇してみようと思います。
夏は冷やし中華がオススメとか。
こうして嘉賓のループにはまっていくのです……。
紹介したお店
プロフィール
猫田しげる
デカ盛りと食べ放題を求めて津々浦々。おいしいものもおいしくないものも大好きです。
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