Amazonは、イギリス国内でプレミアリーグの試合のストリーミング放送契約を交わした最初のプラットフォームだ。広範囲にわたる大きな契約ではないが、これはすでにイギリス国内でテニスの試合のストリーミング放送権を持つAmazonのビジネスの意思表示とも取れる。
サッカーのプレミアリーグの放送契約を機に、スポーツの生中継放送局の座を狙うAmazonの戦略が徐々に明らかになっている。
このテック系の大企業は、イギリス国内でプレミアリーグの試合のストリーミング放送契約を交わした最初のプラットフォームであり、2019年からの3シーズンのあいだは、10試合がアマゾンプライム(Amazon Prime)で2日間放送される予定だ。広範囲にわたる大きな契約ではないが、これはすでにイギリス国内でテニスの試合のストリーミング放送権を持つAmazonのビジネスの意思表示とも取れる。イギリスは、Amazonがスポーツ放送局としての地位を確立できるかどうかの賭けの場となっており、Amazonは市場でのさらなる権利獲得に向けて活発な動きを見せている。
サッカーのプレミアリーグやテニスのUSオープンなどの大きなイベントを放送できるということは、Amazonのリーチとマネタイズの資質が既存の放送局と十分に渡りあえることを権利保持者に証明する手助けとなるだろう。さまざまなリーグにおける放送局との契約合意は、この先10年間で更新時期を迎える予定であることから、この証明が大きな鍵となる。Amazonはさらに多くのスポーツの放送権を獲得するともに、より簡単にそれらの権利を使ったマネタイズの最善策を見出すことができるようになるだろう。現在は、初期に行ったNFLの試合のストリーミング放送での実績にもとづいて試行錯誤しているところだ。AmazonはそのNFLの試合の放送中、1時間あたり2分間の広告枠を販売したが、そこでは広告の視聴者数、そしてAmazon.comやそのほかのウェブサイトでの視聴者行動データを広告主がトラッキングできるようになっていた。
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Amazon広告の魅力
「NFLの試合のライブストリーミングを実施したことで、Amazonは協働したブランドから高い評価を得た」と、広告業界の幹部のひとりは語る。「何よりも良かったのは、ターゲティングよりも、そのコンテンツの周りで行われる広告の効果が測定できる点だ。たとえばカミソリのブランド広告では、その広告を見た人に与えるインパクトを知ることができ、商品ページを訪れた人数や、実際の購入者数を知ることができる。これは、従来のテレビの環境ではあり得ないことだ」。
Amazonは、サッカーの放送でも同様の試みを行うかどうかについては堅く口を閉ざしている。だが、米DIGIDAYがこの記事の執筆にあたって話を聞いた4人のメディアバイヤーによると、コンテンツ管理者がターゲティングした権利については、Amazonが支払うべきだという。Amazonは、プライム会員の新規入会へ誘導できる見込みは薄いが、ライブストリーミング中にパーソナライズされた広告を見た既存のプライム会員の行動分析には十分な、規模の小さいパッケージングを行おうとしているようだ。
Amazonの広告ビジネスは、はじまってまだ間もないが、企業の歳入全体から見た割合は大きくなってきた。2017年第4四半期のAmazonの広告ビジネスは、前年比60%増となるおよそ17億ドル(約1875億円)にまで成長。これこそがテレビ市場でAmazonが脅威となっている要因だと、OC&Cストラテジー・コンサルタント(OC&C Strategy Consultants)でメディア活動部門のトップを務めるジョン・ターナー氏は語る。「イギリスやアメリカにおけるAmazon Primeでの平均的な消費金額を見る限り、その成長のスピードは凄まじい」と、ターナー氏。「スポーツは、高額だが、そのエコシステムに人々を引き込める有力な手段だ」。
スポーツで形勢逆転
Amazonが抱える問題は、人々はプライムをNetflix(ネットフリックス)ほど頻繁には見ていないことだと、アンペア・アナリシス(Ampere Analysis)でディレクターを務めるリチャード・ブロートン氏は語る。
スポーツはこの状況を変えられるかも知れない。Amazonが寄せ集めているように見えるさまざまな資産によって、すでにプライム会員になっているライトユーザーがもっと頻繁にそのサービスを利用するようになる可能性がある。もしそうなれば、広告に支えられているプライム上のコンテンツのあり方を決めることができる。ブロートン氏によると、アンペア・アナリシスの調査によって、プレミアリーグに興味のある人の40%がスカイスポーツ(Sky Sports)やBTスポーツ(BT Sport)とは契約しておらず、さらにその3/4の人がプライム会員ではないことがわかったという。これは、プレミアリーグのファンベース全体のおよそ30%にあたる。
ライトユーザー向けのいかなるマネタイズ戦略においても、動画広告が重要な要素となることが多い。彼らから収益を得るうえでは、AmazonがNFLの試合中に販売した10秒~30秒の広告が「画期的なやり方だった」とまでは言えないながらも、検索やディスプレイメディアと比べれば、動画(広告)の収益率は高い。そのため、Amazonは動画広告を打ち出すさらなる手段を模索し続けている。たとえば、スポーツの生中継時の広告と比べると明らかな効果は見えにくいが、Amazonのサイトやアプリでの商品一覧に動画広告を入れたりしている。
もっとも大きな課題
「Amazonは何年にも渡って動画商品を販売しているが、最近の動きとしては、彼らが持つスポーツ関連の権利を使ったテレビ広告に本格参入している」と、Amazonの戦略をよく知る広告業界の幹部は語る。「プライム会員は、テレビを見ているかのような体験を得ることができるが、そこではさらに優れた広告体験を得られる可能性もある。Amazonは、この部分で密かに微調整を続けてきている。いずれにしても動画には大きな需要があり、それにまつわるビジネスチャンスの獲得こそが、現在Amazonが取り組むべきもっとも大きな課題のひとつだ」。
動画には明らかにチャンスがあるにも関わらず、メディアバイヤーのなかには、Amazonが動画予算に重きを置くかどうかの確信が持てない者もいる。メディアコム・スポーツ&エンターテイメント(MediaCom Sport & Entertainment)のバイスプレジデント、ミーシャ・シェアー氏によると、Amazonはプライム上のコンテンツを見ている人々と、商品を購入している人のあいだに新たに生まれている明らかな相関関係をはっきりと認識しているという。「だが、私は、将来のコンテンツマネタイズは、我々がこれまで馴れ親しんできたやり方、つまりインタラプション型の広告で実現できるとは限らない、と考えている」と、シェアー氏は続けた。「実際、Amazonがスポーツ関連の権利を購入している唯一の理由は、商品をもっと売りたいからだ。たとえば、人々がサッカーの試合の観戦中にプレロール広告を見せる代わりに、彼らにおすすめの商品を見せる新たな方法を見つけ出すことだろう」。
地域によって異なる権利市場にどのように適応するかがAmazonにとって最大の挑戦となるだろう。包括的なアプローチは必ずしも最適な答えではないかも知れない。動画テックのプラットフォームであるグラブヨー(Grabyo)のCEOを務めるギャレス・カポン氏は、次のように語る。「スポーツビジネスに携わるうえで、権利の地域特性は必要悪であり、権利を独占しようとする企業は、地域をまたいだ、または全世界的な権利の購入を余儀なくされるものだ。権利獲得のために(スポーツのライブストリーミングサービスの)DAZN(ダゾーン)が行っている取り組みを見てみると、まず世界中でスポーツ全体の放送権を買い占め、それを再販売することで放送を視聴可能にしているが、このモデルは変わりはじめている」。
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