「かつカレーの元祖」は浅草にあった
ライターの下関マグロです。
かつカレーって、ときどき無性に食べたくなりませんか?
僕も若いころほどではないけれど、たまにものすごく食べたくなります。
そんなときにうかがうのが、元祖かつカレーを出すお店、とんかつの「河金」さんです。河金は入谷と千束と2店舗あります。
どちらの店も我が家から同じくらいの距離にあるので、どちらに行くか迷うのですが、今日は千束店へ行ってみましょう。
▲河金 千束店
ちょっとわかりづらい路地にお店はあります。ランチタイムにうかがいました。
こちらがお昼のメニューですね。とんかつはいろいろな大きさで売られているようです。なかでも100匁(もんめ)のとんかつが昔から定番らしいです。
おっ、こちらですね。河金丼 名物かつカレーとあります。「並」でお願いしました。
▲河金丼 名物かつカレー・並(800円)
はい、やってきましたよ。丼でやってくるんですね。
ちなみにヒレやロースはお重でやってきます。ふたを取ってみましょうか。
おっやー、かつはどこ?
安心してください。
ちゃんとかつはカレーの下にあります。その下にはキャベツの千切り。
その下にご飯があります。
断面はこんな感じです。
かつがおいしいのはもちろんですが、カレーがとても懐かしい昔ながらの味なんです。そして、このキャベツの千切りがいい仕事をしてくれるんですよ。
大正時代に洋食屋台から生まれたかつカレー
河金丼を作ってくれたのが4代目店主の河野貴和(こうの・よしかず)さん。
──シンプルな昔ながらのカレーですね、つくり方を簡単に教えてもらえますか?
河野さん:小麦粉をラードで炒めています。カレー粉はS&Bの赤缶ですね。お肉はとんかつをつくるときに出るスジ肉や切れ端などを使っています。カレーに限らず、すべて創業当時と同じ作り方ですよ。
──ということは、かつカレーが誕生したときのそのままのものを僕たちがいただけるわけですね。そもそも、これを考案されたのはどういう方なんでしょう?
河野さん:私のひいおじいちゃん、河野金太郎(こうの・きんたろう)です。
──あー、だからお店名が「河金」なんですね。
河野さん:大正7年(1918年)に洋食の屋台として始めたようです。歴史上で言うと、米騒動があった年ですね。
(写真提供:河金)
当時のお写真をお借りしました。右側が河野金太郎さんですね。洋食の屋台ってこんなかんじだったんですかぁ。カツレツ、コロッケの文字が見えます。
カツレツというのがとんかつのことですね。
(写真提供:河金)
屋台の車輪が2代目のお宅に残っていたそうです。こんな車輪で屋台を動かしていたんですねぇ。
── 創業当時から河金丼はあったんですか?
河野さん:いえ、お客さんがとんかつの上にカレーをかけてくれと言われて出したのが最初だと聞いています。カツレツが10銭、カレーが10銭で、河金丼は20銭だったようです。
──まさにカツとカレーが合体したわけですね。
(写真提供:河金)
河野さん:屋台の河金を創業して11年後の昭和4年(1929年)に12~13坪の店舗を出します。
──金太郎さん、頑張ったんですね。そして、さらにステップアップして浅草国際劇場の隣に河金食堂を開店された、と。
河野さん:多くの劇場関係者や芸能人の方に来ていただいたようです。美空ひばりさんなどのスターも来店したと聞いていますよ。
▲ソースかつ丼・並(800円)
これはソースかつ丼です。ソースかつ丼というと、いろいろな地方にいろいろな形で存在しますが、こちら河金さんにもあります。
河野さん:浅草国際劇場の楽屋にも出前していたんですが、最初からソースをかけた状態で出前をしてほしいということで、ソースかつ丼ができたようです。
その頃、お店は2代目の河野清光(こうの・きよみつ)さんが引き継いでいました。
その弟の河野信之助(こうの・しんのすけ)さんが、のれん分けをして入谷で2店舗めの河金を始めます。その後、息子の純一さんが入谷店を継ぎ、弟の謙二さんがのれんわけで千束に河金を出すのです。これが貴和さんのお父様ですね。
初代の河野金太郎は昭和48年(1973年)に亡くなります。その後、昭和62年(1987年)に本店の河金食堂は閉店。以降、入谷と千束の「河金」がその味を引き継いでいるというわけです。
かつカレー論争「かつが上か、カレーが上か」
ところで、かつカレー好きの間では、こんな話があるようですね。
かつカレーのかつの上にカレーをかけたほうがいいのか、ダメなのか論争です。
かつの上にカレーをかけず、とんかつの衣がサクサクの状態で食べたい派の人。一方でカレーソースがかつの上にのって、衣がジュワジュワの状態で食べるのが好き、という人も。
ちなみに私は若い頃はかつにカレーをかけない派でしたが、今はカツにカレーをかけてひたひたにしたカツカレーが好きです。このことを4代目にぶつけてみると、老舗店なのに意外にも柔軟な答えが返ってきました。
河野さん:言っていただければ、どんな形でもお出ししますよ。かつだけ別添えにもできますし、丼やお重でなく、お皿で出すことも可能です。
──そうだったんですね。それでは河金丼のヒレをお皿で、それからかつはご飯の上でお願いします。
さっそくお料理をしてくださる4代目。
ほどなく、お料理が到着。
▲河金丼 名物かつカレー・ヒレかつ(1,100円)
リクエストすれば、たいていのことは応じてくださるようです。
どちらが正しいとかそういうことでなく、河金さんではお店の人に自分の好きなスタイルを言えばいいのですね。
ソースをかけたり、かつをちょっとカレーにつけたりして食べられますね。
というわけで、元祖かつカレーを出す老舗店では、お客様の注文に柔軟にこたえてくれる素敵なお店なのでした。
お店情報
とんかつ 河金 千束店
住所:東京都台東区浅草5-16-11
電話番号:03-3872-0794
営業時間:11:00~20:00
休日:土曜日
(編集部注:文中で一部表記を修正いたしました 2019年5月13日)
書いた人:下関マグロ
1958年生まれ。山口県出身。出版社、編集プロダクションを経てフリーライターへ。『東京アンダーグラウンドパーティー』(二見書房)、『歩考力』(ナショナル出版)、『まな板の上のマグロ』(幻冬舎)、に『ぶらナポ 究極のナポリタンを求めて』(駒草出版)など著書多数。