唐揚げを食べたい気持ちもあるが、そこであえての「唐揚げない」
ノーベル賞でおなじみのアルフレッド・ノーベルがダイナマイトを発明したきっかけは、ニトログリセリンが土に染み込むと爆発しにくくなることに気づいたことだと言われる。ひみつシリーズの『世界の偉人まんが伝記事典』で読んだ人も多いだろう。
偉大な発明の多くは偶然によってもたらされるもの。
唐揚げにするつもりで漬け込んでいた肉から偶然生まれたのが「唐揚げない」である。
下ごしらえを済ませたものの「今夜は揚げ物って気分じゃねえな」と方針転換となり、味付きの鶏肉を魚焼きグリルで焼いてみたところ、これがなんかもうべらぼうにおいしかったのである。
グリルや焼き鳥とは似て非なるもの。
唐揚げ用の肉を用意して、それをあえて揚げずに焼くのが「唐揚げない」。「焼いた鶏肉うめえ」という結果は同じでも流れが違うのだ。
土に染み込んだニトログリセリンが爆発しにくいのと同様、タレの染み込んだ肉は揚げても焼いてもうまい、という発見なのだ。発見ってなんだ。
まあ、油で揚げないので低カロリーだし、トランス脂肪酸とかなんかそういうのの心配も少ないはずだ。
「唐揚げない」のきっかけになったものは、ごく普通の「にんにくしょうが醤油で漬けた鶏肉」だが、せっかくなので味のバリエーションを探求するのである。
マーマレードに柚子胡椒。味のバリエが満ち足りる
チューブのにんにくとしょうが、醤油、みりんを混ぜたタレに漬ける。
チューブ入りじゃなくて、ちゃんとすりおろしたものでもいいと思う。量は目分量、にんにくとしょうがは多いほうが満足度高いぞ。
有名なハーブソルトを料理酒で溶いて漬けダレとしてメイク。有名なハーブソルトというのは、皆さんご存じのアレだ。「狂気の塩」という意味のステータス異常アイテムよ。
我々はワンランク上のおっさんなので、柚子胡椒と白だしで上品に仕立てることもできる。
これが今回のメインとなる予定のチャレンジ。
フランス料理では鶏肉に柑橘(かんきつ)系のソースを合わせがちということを小耳にはさんだので、恥も外聞もなくマネしたものだ。鶏ガラだしの素を料理酒でのばして、たっぷりのマーマレードを溶かしこむ。日本の家庭料理にフレンチのノウハウを持ち込む出羽守(でわのかみ)メソッドだ。
こうしてポリ袋に押し込み、冷蔵庫内で半日から1日ほど漬け込む。
「唐揚げない」は魚焼きグリルの内部で起こる現象だ。
オーブントースターでもできるので、それはそれで各自やってみてほしい。
魚焼きグリルにアルミホイルを敷いてその上で鶏肉を焼く。
鶏から出た油がグリルの受け皿に落ちると異常加熱の原因となって非常に危険。
アルミホイルの四辺は折り上げておこう。ご安全に。
鶏の肉が真っ赤に燃える、光るトングで裏返す
十分な火力であぶり焼きにする。
片面加熱の場合は途中で肉を裏返そう。焼く時間は目分量だ。
唐揚げないは簡単だ。見ながら焦げないように肉を転がすだけである。
景気よく焦げているのは鶏ガラマーマレード部分。
マーマレードの糖分がキャラメリゼされてしまった。
はぜる油の音がする、唐揚げしろと俺を呼ぶ
わらび餅かな。
わらび餅ではなかった。
「唐揚げない」と比較するために唐揚げも作った。
先の写真は、漬け込んだ肉に粉をまぶしたものだ。
薄衣をまとった鶏肉のセクシーな姿よ。片栗粉と小麦粉をブレンドした粉で揚げたのでちょっと竜田揚げ方向になっている。
「山盛りの唐揚げ」。幸福な食卓の記号である。
手前にあるのが「唐揚げない」した肉だ。
さて「唐揚げない」4つの味の評価をしてみよう。
優勝
にんにくしょうが醤油
やはり定番。ご飯のおかず的に最適なうまさがある。
グランプリ
白だし柚子胡椒
鶏と柑橘の相性の良さはフレンチに限った話ではなく、運良くバランスが整うと料亭レベルのものになりそうなポテンシャルを持っている。
横綱
鶏ガラマーマレード
意外性を求めたチャレンジだが、ぜんぜん意外ではなく、マジおいしい。
金メダル
有名なハーブソルト
言うてもメインがソルトなので、この方法だとハーブの芳香が足りなくなってしまうことがわかった。漬けだれの塩分を減らして、食べる直前に追いハーブソルトするプランでやってほしい。きっとうまい。
味の好みは人それぞれ。序列をつけることで生じる「あっちがうまい」的なクレームを回避するため、評価の軸をずらしたことをご了承いただきたい。
唐揚げの下ごしらえから気が変わって焼くだけにしたメニュー「唐揚げない」。
もしやってみようと思うなら、鶏ガラマーマレードと白だし柚子胡椒はぜひトライして欲しい。味付けの選択肢が増えると人生は豊かになる。