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消費者は4回評価する。だからファンが大切。だから刹那的なインフルエンサー起用は意味が薄いというお話。

昨日公開したこちらの記事がよく読まれているので、気を良くして第二弾。もうちょっと掘り下げて、なぜファンが大事なのか、なぜ(フォロワー数が多いだけの)ファンでもないインフルエンサー起用にあまり意味がないのかをまとめます。

前の記事の最後にも書きましたが、ファンでなくても、フォロワー数が多く、インプレッションやリーチ力が大きい従来型のインフルエンサーにも一定の「宣伝効果」はあります。

「新しいガリガリ君のXX味食いてー!」「今年の冬にスタバから出たXXラテがおいしすぎて!」などは、ターゲットが広く、全フォロワーが顧客になる可能性があるため、たとえファンじゃなくても、そしてたとえ単発的だったとしても、「広告としてのリーチ効果」はちゃんと出ます。

でも、これはあくまでも単発的な露出効果。投資ではなく費用。ストックではなくフロー。持続可能ではなく持続不能なんです。

経済的な契約が終了した時点で、そのインフルエンサーたちは、投稿してくれない。

消費者は4回評価をする

このことをより深く理解するために、MOT(Moment-Of-Truth:真実の瞬間)について知っておきましょう。

真実の瞬間とは、「消費行動における重要な顧客接点」のこと。

これは1990年に出版されてベストセラーになった本。

要約すると、当時のスカンジナビア航空は年間1,000人が利用しており、ひとりの顧客は、1回あたり平均5人の乗務員と約15秒の接点を持つことを突き止めたと。

その限られた時間に競合他社と異なる最高の体験をしてもらえれば、明確な差別化ができ、競争に勝てるとしました。この15秒を「真実の瞬間(MOT:Moment-Of-Truth)」としたわけです。

それから14年が経った2004年、世界に冠たるマーケティング会社として有名なP&Gが、「消費者は2回評価をする」と発表しました。

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それが、1回目の真実の瞬間(FMOT:First Moment-Of-Truth)と、2回目の真実の瞬間(SMOT:Second Moment-Of-Truth)です。

※「えふもっと」「えすもっと」と読みます

いまからすれば当たり前っちゃー当たり前なんですが、消費者は店頭で買う前に買うかどうかを3~7秒で評価をし(FMOT)、その後、家で商品を使って、もう一度買うかどうかを評価する(SMOT)と規定しました。

これは、商品開発の世界で古くから使われていたC/Pバランス理論(しーぴーばらんすりろん)と同じことを言っています。

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「C」はConceptの略で、「買う前に買いたいと思わせる力」を指します。一方の「P」はPerformanceの略で、「買ったあとに、もう一度買いたいと思わせる力」を意味します。

売上には2種類しかありません。つまり、トライアル購入とリピート購入です。

誰でも、買ったことがない商品を事前に評価することは難しい。その段階で欲しい、買いたいと思わせる力がConcept。これが強いとトライアル購入を誘発する。

一方、一度でも買ったことがある商品であれば、使用感(おいしいとかまずいとか、洗浄力が強いとか弱いとか、耐久性があるとかないとか、燃費が良いとか悪いとか)を評価できます。

買ったあとにもう一度買いたいと思わせる力がPerformance。これが強いとリピート購入がついてくる。

新商品を発売したときの売上は、このC/Pバランスによって4つの曲線をつくることを示したのが上の図。

左下はCが弱いので、トライアル購入が起こらない。Pも弱いからリピート購入も起こらない。だから売上はピクッと上がってすぐ下がる。

左上は、主にパワーマーケティング(大量の広告宣伝費と店頭の販促協力金)によって広告露出と店頭支配を行うため、強制的にCが上がり、トライアルは喚起できる。

でも、Pが高いわけじゃないので(Pはコモディティ化しているので)買った顧客は「なんだ、いつも買ってるやつとたいして変わらないじゃないか」とリピート購入は起こらない。だから、ビュッと上がってスッと落ちちゃう。

右下は、Cが弱いから初動(トライアル購入)は弱いんだけど、Pが強いから既存顧客のリピート購入によってじわじわ売れていく。いわゆる「クチコミで売れています」もこのタイプ。

でも、世のお店にはほぼPOSレジが導入され、コンビニでは早ければ2週間で死に筋商品(売れてない商品)は棚から落とされちゃう(仕入れされない)から、「リピートしに行ったらもう売ってなかった!」なんてことが起きているのが現在。だから、ネット通販じゃないと右下は難しくなっちゃった。

一番良いのは右上で、CもPも高いから、トライアルが伸び、そのトライアル顧客がしっかりリピーターになってくれるので、売上はきれいに右肩で上がっていく。この形の新商品は一桁%しかありません。企業のマーケターは大変なのです。

話が長くなりましたが、P&Gは2004年のときに(C/Pバランスを意識したかどうかは別として)FMOTとSMOTという概念を提唱し、それに合わせてマーケティングを行うこととしたわけです。

それから7年が経った2011年。

今度は、インターネット界の雄、Googleが新しい概念を提唱しました。それがZMOT(Zero Moment-Of-Truth)です。

※「じーもっと」と読みます

Googleは、「P&Gさん、以前はたしかにFMOTとSMOTだったかもしれませんが、いまやインターネット、特に検索の時代です。消費者は、ニーズが顕在化したとき、またはお目当ての商品がある場合、お店に行く前に徹底的にネットで検索をしています。だから、店頭に行ったときは、すでにどの商品を買うか、7~8割は決まっているんですよ」と発表したんです。

店頭でのFirstの前に、すでに買う商品が決まっている。Firstの前だからZero、というわけ。

これ、トライバルがやってる調査でも同じ結果が出ていて、商品カテゴリーにもよりますが、やはり7~8割は店頭に行く前にすでに購入商品が決まっています。

さて、じゃあこのZMOTって何よ!となるわけですが、それは皆さんが日常的にネットやSNSでやっていることです。様々なネットやSNSで日常的に情報に接触し、調べたいものがあるときは能動的に(GoogleやInstagramやTwitterで)検索をする。その行為そのものがZMOTです。

ここまでが2011までのお話。で、いまはどうか。

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突然ですが、たとえ話をします。

1年か2年前、自宅の掃除機が壊れたので、ちょっと高いけど、ダイソンのV10買ったんですよ。

これね、スゲー!んです。もうね、スゲー!!んですよ。

吸引力がーとか、軽いーとか、充電長持ちーとかもすごいんですけど、とにかくゴミ捨てが宇宙レベルで簡単なんです。

掃除機って、掃除機の掃除が一番面倒じゃないですか。「ああ、髪の毛が絡まっててクソー!」とか、ゴミ捨てしたら今度は「フィルターを掃除してください」のLEDがピコピコしてて「クソが!」ってなったり。

それがね、ないの。一切、ない。皆無。ゴミを捨てるレバーを「ヘコヘコ」と動かすとポンッってまとまったゴミが落ちて終わり。3秒。ノンストレス。快感すら覚える。

みんな、掃除機が壊れたらダイソンのこの機種一択な!

さて、なんでこんな話をしたのかと言うと、この毎週の営み(掃除機をかける行為)が僕のTMOT(Third Moment-Of-Truth)だからです。

※「てぃーもっと」と読みます

多くの商品は、買って、一度使ったら、その瞬間に消滅するものではありません。掃除機なら、毎週、数年に渡って使い続ける。

だから、顧客のブランド体験はSMOT一回ではなく、TMOTとしてずっと継続するということ。TMOTとしてのブランド体験は、使うたびに上書きされ、更新されていくんです。

行きつけのお店もそうです。行く前に検討して(FMOT)、初めて行った日に評価して(SMOT)、通うたびにブランド体験を上書きする(TMOT)。

「今日もうまかった!」「今日も最高に楽しかった!」というTMOTもあるでしょうし、「なんか今日は味がイマイチだったなあ」とか「今日は隣の客がうるさかったな」というTMOTもあるでしょう。

FMOTとSMOTが良かったとしても、悪いTMOTが続けば、お店やブランドに対するロイヤルティは下がっていきます。だからTMOTが大事なんです。

ちなみに、TMOTは既存顧客の中で生まれるもの。「買ってもらうまでのマーケティング」(=プリマーケティング)ではなく、「買ってもらってからのマーケティング」(=ポストマーケティング)が重要なのは、ここにも理由があるわけです

これが、ZMOT(買う前にネットやSNSで情報に接触&検索して7~8割がたの意思を決定する)→FMOT(店頭で考える)→SMOT(使用時に評価する)→TMOT(使用したり来店したり体験するたびにブランド体験を上書きして更新する)という「消費者は4回評価する」の全貌です。

※TMOTはこちらの記事に詳しく書いてあるので深堀りしたい人はどうぞ

ZMOTをつくっているのは誰か

ようやく本題。

いままでの話で、新規顧客を獲得するためには、ZMOTが大事ってことがわかりましたね?

じゃあ、ZMOTはいったい何によってつくられているのか。誰が影響を与えているのか。

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そう、TMOTの人たちですね。

ZMOTはTMOTがつくっているんです。

ZMOTは何もSNSの中でのカキコミだけを指しているわけではありません。スマニューで読んでいるニュースも、友だちのTweetも、同僚とのランチトークも、インスタ検索の結果も、ぜんぶぜんぶぜーんぶZMOTです。

ZMOTが、自社のブランドにとって有利な肥沃な土壌になっているためには、栄養豊かな肥料と水分が必要です。それを供給してくれるのが、TMOTのオーガニック投稿(UGC/クチコミ/カキコミ)です。

日々、ブランドのファンたちが、上書きされたTMOTを、オーガニックなUGCとして発信してくれ、それがポチョンポチョンとZMOTに落ちてきて、蓄積される。

鎌倉や移住に興味がなかった人も、「鎌倉最高だわ!」という僕の鎌倉原理主義投稿によって「俺も鎌倉住みたい!」と意識変容したり、「キャンプ最高だわ!」という投稿を見て「今度連れてって!」と態度変容したりする。それが図にある「刺激」というやつ。

その刺激(刺激型UGC)によって、潜在ニーズが顕在化し、興味を持ったら、検索をする。検索結果には、レビュー(Review型UGC)が出てくる。いずれにせよ、それらは、SMOTやTMOTの人たちによって生成されたUser(Fan/Customer) Generated Contentなわけです。

ファンフルエンサーが重要な理由

これでわかりましたね?

経済的な契約関係によって多くのフォロワーへ情報を発信(露出)してくれる従来型インフルエンサーは、たしかに単発的な宣伝効果にはなる。

でも、SMOTもTMOTが薄すぎて説得力がない。熱量も低い。そして、何よりも、継続的なTMOTが無いので、豊かで肥沃なZMOTをつくり、更新していく協力者になりえないのです。

※ZMOTにも刺激型ZMOT(現在のジョーカー観てきた投稿みたいにフローで流れていくけど、数や回数が多いので接触機会が多いもの)と、レビュー型ZMOT(たとえばYahoo!映画のレビュー)みたいにストックとして蓄積されていくものの両方があります。ファンフルエンサーは、この双方を担ってくれます

企業やブランドが、本当に大切にするべき相手は、一緒にZMOTを耕し、肥料と水をあげ、豊かで肥沃なZMOTをつくっていってくれるファンフルエンサーというお話でした。

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最後に。

自社の商売にとって、ZMOTがどのくらい大切なのかは、商品カテゴリー(刺激型か、検索型か)によって大きく異なります。まずは自社のZMOT→FMOT→SMOT→TMOTについて、メンバーみんなで共通言語と共通認識をつくる社内ワークショップをやってみてください。

必ず、新しくて、大きな発見があると思いますよ。

(続き)

2020年2月12日追記

日本で唯一、Twitterの全量データを保有しているNTTデータさんとファンフルエンサーを見つけて仲良くなるサービスをリリースしましたYO!! チェケラ!!

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