DMMおかんサービス終了で見えた、利用者急増なのにシビアな家事代行サービスの現実

家事代行サービス

主要な家事代行サービスの業界図(マッチングプラットフォームは、ユーザー同士の直接契約、スタッフ雇用型は、事業者がスタッフと契約を結ぶ)。

DMM.comは、スマホのアプリから頼める家事代行サービス「DMM Okan(DMM おかん)」を、2018年9月30日で終了する。その理由はサービスを使いたい利用者が増えすぎて、サービス提供側の供給が追いつかないからだという。共働きの増加に伴い、日本でも需要が拡大する家事代行市場だが、少子高齢化と好景気による人手不足はますます深刻だ。人から人へのサービスである家事代行は、労働集約型の業態のため、人材の確保は業界全体でハードルとなっている。

依頼がいつもいっぱい

「依頼を何日出しても来てもらえないんです。何とかまた来てくれませんか」

DMM おかんで、家事代行の仕事をする大学院生の藤崎理香さん(仮名、23)は、2017年の年末、大掃除に行った先の家庭からお願いされた。そこは高齢の両親と息子の3人暮らし。息子は両親の介護をしていた。

家事代行サービスにとって年末は、大掃除の仕事の依頼が殺到する繁忙期だ。

「依頼がすごい量でずらりと並んでいました」

藤崎さんは、依頼の一覧を見ることのできるDMM おかんのシステム画面を思い返す。ユーザーが投稿した大掃除の依頼が、画面を埋め尽くしていた。

家事代行

藤崎さんはスマホを手に、家事代行サービスの人手不足の状況を語る。

撮影:木許はるみ

藤崎さんは当時、土日は朝から晩まで働いたという。最も忙しかった12月23日は4軒を回った。午前9時、ワンルームの家庭の水回りの掃除から始まり、共働きの家で子どものおもちゃを片付け、ひとり暮らしの家で作り置きを2件こなした。仕事を終えたのは、午後10時だった。藤崎さんの仕事は、多い月で10件ほど。給与は1時間で1680円。12月が一番忙しく、報酬は10件で3万5280円だった。

ユーザーからの仕事の依頼が滞留しているのは、年末だけの話ではなかった。

「いつ見ても(一覧に)依頼がいっぱいで、マッチングしていないんだろうなと感じてました」

マッチングが成立すれば、仕事の依頼は一覧表から消えていく。それが、仕事の当日になっても、常に数件は画面上に残っていた。

人材集めきれない

「需給のバランスを保ち続けることと、品質を担保することが難しいというのが正直なところです」

DMM.comのDMMおかん担当者は、サービス終了の背景をそう明かす。

どうしても、ニーズの高い日時や曜日が存在するが、「そこに十分な人材を集めきれなかった」(担当者)。その結果、「事業規模を拡大するために、ユーザーと働き手を地道にバランスよく増やし続けることが、難しいなと感じました。(マッチングを担う)プラットフォーマーとはいえ、ユーザーが満足できるように、品質を保つ必要があり、その教育コストを考えてもなかなか難しい」

サービス開始から2年を迎える2018年初頭には、サービス終了について検討を始めたと言う。

相次ぐ撤退背景に人手不足

2018年8月、DMM Okanは9末を持ってサービス終了を発表した。

共働き家庭の増加に伴い、家事代行サービス市場は拡大を続けている。経済産業省は2012年度で980億円だった市場規模が将来的には5000億円に達すると試算するなど、成長市場として期待されてきた。

しかし、ここにきて、撤退が相次いでいるのも事実だ。DMMおかんのサービス終了の1年前にあたる2017年9月には、リクルートスタッフィングが家事代行サービス「カジアル」を終了。背景にあるのは、需要にサービス供給が追いつかないという人手不足だ。

「需要の急速な増加に対してハウスキーパーさんの供給が追いついていないのは、我が社でも起こっている問題ですし、他社と情報交換をしても口をそろえて言っています。業界の共通の問題です。むしろ、日本のサービス産業全体が同じような傾向にあるでしょう」

そう話すのは、タスカジの和田幸子社長。タスカジも、DMMおかん同様に、「タスカジさん」と呼ばれるハウスキーパーを自社で雇用せずに、あくまでサービスの受け手側とのマッチングするプラットフォームという業態を取っている。

「需要は伸びていますし、ハウスキーパーも増加しているので、規模は着実に拡大しています。ただ、DMM.comが当初、想定したスピード感とは違っていたのではないでしょうか」(和田さん)というのが、同業者としての見方だ。

需要があるのに、供給ができないという状況が続くと、ユーザーの満足度も下がってしまう。

深刻な人手不足問題を抱えるサービス業に生まれた、シェアリングサービスの家事代行というサービス。この新たな業態のおかげで、「家事代行を利用する」ことへのハードルがグッと低くなったことは確か。多くの人が「使いたい」と思ったからこそ、より人手の確保が難しいという問題を抱えている。

稼働率が10%という企業も

家事代行

共働き家庭が増えたこともあり、家事代行サービスへの需要は順調に高まっているが……。

shutterstock

スキルシェア系の家事代行サービス業界で働く関係者は、こう明かす。

「例えば数千人の利用者に対し、実際に登録している家事代行スタッフが2000人程度だったとしても、その全員が稼働している訳ではない。企業によっては10%程度の稼働率という例もある」

それではとても、利用者からの「家事をしにきて欲しい」というニーズに応えきれない。冒頭の藤崎さんが目撃したのも、こういう実態だ。

「好きな時間帯に好きなだけ働ける」というスキルシェアのプラットフォームは、働き手には大きな魅力だ。一方で、プラットフォームを運営する企業にとっては、登録ハウスキーパーたちは、自社で雇用している社員ではない。利用者からの注文に対して、ハウスキーパーを常に確保するため、ハウスキーパーを雇用契約以外の方法でつなぎとめる必要がある。

家事代行は「いかに家事代行を行うスタッフの数を増やすかが鍵になっている。そのためには、キャリア形成支援など働き手に優しく、モチベーションをあげる仕掛けが不可欠ですが、それには投資も必要」(業界関係者)。

働くモチベーションアップ

実際、スキルシェア系サービス業者は、働き手のモチベーションや帰属意識の向上に余念がない。

前出のタスカジの和田社長も「ハウスキーパーとして働くことの文化作りに貢献できるかがキーだと思っています」と話す。

「家事は誰でもやれると思われがちで専門性が認知されていない。ですが、料理研究家や掃除研究家レベルのすごい人もいる。職業的魅力をもっと知ってもらいたい」

家事代行

藤崎さんは、ホスト同士の情報交換の場や、ホストの活躍や顔の見えるコンテンツの発信が、モチベーションアップにつながるという。

撮影:木許はるみ

カリスマ的な「タスカジさん」のメディア露出と共に、講師やレシピ監修などのキャリアパスを提案することで、モチベーションアップにつなげているという。

冒頭の家事代行で働く大学院生、藤崎さんも言う。「DMMおかんは(仕事をする)ホストのコミュニティがなく、ホスト同士の顔が見えにくい面はあったかもしれません」。ホストは「一人職場」、だからこそ、情報共有したいことがたくさんある。

例えば「作り置きに行くと、想定していた調味料がなかったり、綺麗すぎるお家を、これ以上どう綺麗にすればいいのかといった問題があったり」。コミュニティがあれば「悩みやスキルを共有でき、ホストのモチベーション維持につながるのに」と感じていた。

淘汰の時代

需要の高まりに伴い、大手もベンチャーも参入が相次いだ家事代行サービスは、淘汰の時代に入った感はある。全国家事代行サービス協会副会長で、家事代行のベアーズ副社長の高橋ゆきさんは、DMMおかんのサービス終了を受けてこう言う。

「人材不足はどこも同じですが、プラットフォーム型の限界が見えた面もある。家事代行という人の手によるサービスでは、(企業側が)働き手の教育や責任を持って寄り添う姿勢がないと、なかなか人が根付かない」

どの業態が良い悪いではないが「家事代行サービスが暮らしのインフラとして定着していくためにも、担い手の本質が問われる時代に入ったのは間違いないでしょう」(高橋さん)。

(文・木許はるみ、滝川麻衣子)

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