Google検索はヴィジュアル化で便利になるが、そこには代償もある

グーグルがGoogle検索をアップデートした。モバイル機器からの検索結果をヴィジュアル重視にするほか、カメラを使った画像認識システムによるショッピング機能など、「Instagram的」でもある。一連の新機能を通じて、グーグルは何を目指そうとしているのか。
Google検索はヴィジュアル化で便利になるが、そこには代償もある
IMAGE BY CASEY CHIN

誰もが一度はネットで好きな有名人の情報を集めようとしたことがあるだろう。Wikipediaのページをいくつかあさって、Googleで画像検索し、本人や関係者のSNSアカウントもチェックする。ゴシップサイトの記事をいくつか加えれば、その人物のちょっとしたプロフィールが完成するはずだ。

そして、とうとうグーグルがこの作業を代行しようと申し出た。Instagramの「ストーリー」のようなものを想像すればいい。ただし、内容は友達の1日の出来事ではなく、セレブリティのこれまでの人生だ。

グーグルは設立20周年を祝う記念イヴェントで、モバイル機器からの検索結果に「AMPストーリー」を表示する機能を発表した。今後も検索における画像データの活用に注力していく方針で、テキストからヴィジュアルへという流れを加速するために「ストーリーに注力していく」という。つまり、モバイルページを高速化するためのフレームワーク「AMP」に対応したフルスクリーンのコンテンツを増やしていくことになる。

Instagram的な新機能の数々

セレブリティシェフのジャーダ・デ・ラウレンティスについて知るために、スマートフォンで「ジャーダ(Giada)」と入力した場合を考えてみよう。検索結果の最上位には、Wikipediaのスニペット(コンテンツの抜粋文)が表示されるが、そのすぐ下には彼女の半生をまとめた一連の動画や画像がある(本人のウェブサイトへのリンクよりも、ストーリーが先に表示される)。

彼女の料理番組が初めてテレビ放映されたのは2003年で、2009年には当時結婚してたトッド・トンプソンとの間に第一子を授かった。その子供の生年月日と名前までわかるようになっている。

VIDEO COURTESY OF GOOGLE

ただ、検索結果には“消毒”が施されている。ラウレンティスの新しい恋人や、やはり有名シェフのボビー・フレイと一時付き合っていたことなどは一切表示されない(デスクトップ検索ではこうした内容も検索結果として出てくる)。

それでも、ストーリーのフォーマットは魅力的だ。InstagramがSnapchatの機能を完全に模倣したのもうなずける。グーグルは近く、パブリッシャーとの連携も進めていく方針を示している。

20周年記念イヴェントでは、やはりInstagramを彷彿とさせる別の新機能も登場した。グーグルが昨年導入した「Googleレンズ」はカメラを使った画像認識システムで、例えば路上で見かけた犬の犬種や、歴史的建造物の名称を検索できた。

そして今度は、レンズと画像検索の「Googleイメージ」を連携させ、買い物をすることが可能になった。子供部屋の写真から、そこに置かれているベビーベッドのような製品の販売ページにリンクが貼られているのだ。何かを思い出さないだろうか。そう、Instagramの「ショッピング」機能だ。

ユーザーを囲い込む方針転換

ただ、グーグルはInstgramとだけ競争しようとしているのではない。それどころか、いまや何にでも首を突っ込んで、テック業界の競合全員と戦うことにしたようだ。合言葉は「Googleにやらせてみて」といったところだろうか。

グーグルの新機能に共通するのは、ユーザーをなるべく長く「Google.com」に引きつけ、外部ページへのリンクは検索結果の下に押しやろうという努力だ。

以前は検索単語に的確に対応するページへのリンクをなるべく素早く提示し、ユーザーを検索サーヴィスから外の世界に導くことが彼らの使命だった。しかしグーグルはこの方針を改め、ユーザーを囲い込むことに専念すると決めた。グーグル内部ですべてが完結するのであれば消費者の利便性は向上するだろうが、同時に同社の利益も計り知れないものになる。

ユーザーを検索サイトから逃さないために役立ちそうな取り組みをもうひとつ紹介しておこう。検索結果で上位に選ばれた動画の6秒間のプレヴューを、次から次へと自動再生する新機能だ。

VIDEO COURTESY OF GOOGLE

しかも最初の6秒を機械的に抽出したものではなく、グーグルのアルゴリズムが実際にヴィデオ全体を分析して、6秒の総集編をつくっているという。デモではユタ州のザイオン国立公園を紹介する動画が使われていた。

「検索の旅」という言葉が想起させること

ヴィジュアル重視以外にも、さまざまな変更が行われている。例えば、特定のトピックを繰り返し検索した場合には、過去の検索履歴情報にアクセスできるようになる。

これによってすでに閲覧したページがわかるほか、関連トピックなども表示される。グーグルには以前からユーザーの検索履歴や位置情報から交通情報や天気予報などを知らせる「フィード」という機能があるが、これにモバイル向けの「Discover」と呼ばれる新しいデザインを導入する。

20周年記念イヴェントの明るい雰囲気は、テック業界を支配する超大手企業をめぐる社会的懸念の高まりという現状とはそぐわないように見えた。グーグルの経営幹部が「検索の旅」という言葉を口にするとき、検索エンジンのおすすめ機能がもたらす予期せぬ事件や、結果の上位に表示される動画のプレヴューが、国立公園の紹介のような無害なものではなかった場合を想像せずにはいられない。

最高経営責任者(CEO)のサンダー・ピチャイは、9月初めに開かれたロシアの大統領選への介入をめぐる上院公聴会を欠席した。グーグルは一方で、政府の重要な機能を補完し、社会とのつながりを強化するためのイニシアチヴを明らかにしている。

ここにはインドにおける洪水の予測と警報モデルの構築や、ヴァージニア州での求職支援プログラムへの参加といった活動が含まれる。9月末には親会社のアルファベットの幹部が、アマゾンやアップルとともに上院商業科学運輸委員会で証言を行った。

グーグルが提供する驚くほど便利なサーヴィスには大きな代償が伴う。結局のところ、アルゴリズムに正確な予測をしてもらうには、あなたがどんな人間で、何を検索し、何が好きかという情報を差し出さなければならないのだ。


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TEXT BY NITASHA TIKU

TRANSLATION BY CHIHIRO OKA