そのナポリタンの味に、衝撃を受けた
ライターの下関マグロです。
現在、ナポリタンについての単行本を書いていて、いろいろなお店でナポリタンを食べ歩いているのですよ。
ただ、喫茶店のナポリタンってどこも同じような味で、ちょっと飽きていたところ、あるナポリタンに出会って、衝撃を受けました。
そのナポリタンが、こちらです。
▲なぽりたん(650円)
懐かしさもありながら、新しさもあるナポリタン。
これまで食べた喫茶店のナポリタンのなかで、間違いなく断トツのおいしさでした。
ナポリタンをいただいたのは、「珈琲とスパゲティ―の店」という看板がある「SUN」です。日比谷線入谷駅から歩いて2分。入谷鬼子母神で知られる真源寺の向かい側にある路地を入ったところにお店はあります。
絶品「なぽりたん」の仕込みは扇風機で乾かしていた
迎えてくれたのは二代目の店主、向田勝(むこうだ・まさる)さん。
実は、あまりにおいしいナポリタンをいただいたので、きっとお店の「まかないメシ」もおいしいはずだろう、と、普段のまかないランチのレシピを教えてほしいとお願いしたところ……。
向田さん:まかないメシですか、それは母親がもってきてくれるお弁当なんですよ。
── そうですか。お母様のお弁当なんですね。では、このナポリタンのつくり方なんて、さすがに教えてもらえないですよね?
向田さん:はい、いいですよ。
ダメもとで頼んでみると、あっさり、OKがでました!うれしいなぁ。
── そういえば、こちらのメニューはひらがなで「なぽりたん」なんですね。なにか理由はあるんですか?
向田さん:いや、とくにはないですけど。そっちのほうが、やさしい感じがして。
── さっそくですが、麺の太さや茹で時間を教えてください。
向田さん:1.7mmの麺を使っています。6分30秒ほど茹でます。普通は8~9分の茹で時間なんですが、短めにしています。お湯に塩は入れません。
── いわゆるアルデンテなんですね。やはり、喫茶店のナポリタンといえば、茹で置きした麺ですよね。麺は寝かせておくのですか?
向田さん:いえ、茹で上がったらすぐに扇風機で冷まします。こんなふうに。
── これは意外。まずは冷やす。しかも扇風機で急速に冷やすのだそうです。なぜなんですか?
向田さん:有楽町にあるジャズ喫茶で働いていた時に、そこのシェフから教わった方法なんですが、理由は聞きませんでしたね。この方法がおいしいので自分もやっているという感じです。
1人分は、茹で上がったスパゲティ200gとのこと。
── それでは、麺以外の材料を見せてもらえますか?
材料はいたってシンプル
1人分の分量はこれだけだそうです。くわしく見ていきましょうか。
タマネギ、薄めのくし切りで。30~40gです。
やはり、喫茶店のナポリタンといえば、ピーマンは欠かせませんよね。輪切りが5~6枚。3~4g。
長めのウィンナー1本を縦半分(1/2)に切って使います。約5g。
そして、隠し味として超意外な材料がツナ缶。小さじ1くらいで、ツナ缶のオイルもいっしょに入れます。これ、知らずに食べたときはまったく感じませんでした。
ここからは調味料です。
塩コショウです。ブラックペッパーが多めです。
ニンニクパウダー小さじ1です。なければ入れなくても大丈夫です。チューブのニンニクは臭いが強くなるので避けてください。
うま味調味料小さじ1。
唐辛子の輪切りをひとつかみ。ピリ辛の味はこちらですね。
顆粒のコンソメ小さじ1。
こちらがナポリタンのソースになります。大さじ2になります。
ナポリタンソースの内訳は、市販のトマトソースが大さじ1/2にケチャップが大さじ1と1/2。
この配合が、「懐かしいけれど、新しいかんじ」を出しているのですね。
まとめてみましょう。
【材料】(1人分)
- 麺 (茹で上がった状態で)200g
- タマネギ くし切り 30~40g
- ピーマン 輪切り 5~6枚 3~4g
- ウィンナーソーセージ 1本 5g
- ツナ缶 小さじ1(オイルもいっしょに)
【調味料】
- 塩コショウ 少々(ブラックペッパー多め)
- ニンニクパウダー 小さじ1
- うま味調味料 小さじ1
- 唐辛子輪切り ひとつまみ
- コンソメ 顆粒 小さじ1
- トマトソース 大さじ1/2(ナポリタンソース用に)
- ケチャップ 大さじ1+1/2(ナポリタンソース用に)
- サラダ油 大さじ1(炒める直前に入れる)
── ではさっそく作り方を教えてください。どれくらい炒めるのでしょうか?
向田さん:フライパンの熱伝導率や火力によっても時間が違うのです。でも、ポイントはお教えしますね。
ここからはスピード勝負です
向田さん:まずは火にかける前に、麺とツナ缶以外の材料をすべてフライパンに入れます。
── えっ、まずは火にかける前に塩コショウやケチャップなどの調味料を含め、ツナ缶以外の材料をすべてフライパンに入れるのですね。
向田さん:ツナは火を入れると固くなっちゃうんで、火を止める直前に入れます。そして、この上にサラダ油大さじ1をフライパン全体に掛けまわして、火にかけます。中火ですね。
向田さん:火を入れると油が広がるので、そうしたら麺を入れます。
── 早いですね、ここまで25秒くらいですか。ソースが沸騰する前に麺を入れるのですね。
フライパンをあおりながら炒めていきます。2分ほどたったところで、「試食してみてください」と麺を1本いただきました。
向田さん:まだちょっと酸味が残っているでしょ。それ、よく覚えててください。
向田さん:フライパンをあおるとき、最初は具材がバラバラなんですが、次第に全体がまとまってくるんです。そうしたら完成です。
再び1分くらい炒めたところで、試食用に1本いただきました。
あー、酸味が消えて、まろやかになっていますね。なるほど、これがちょうどいいタイミングなんですね。こうやって試食しながら作ればいいのか。
仕上げにツナ缶を入れて、フライパンをひとあおりします。
いやぁ、おいしそうです。
向田さん:最後にお好みでブラックペッパー(分量外)をかけて出来上がりです。
お店ではすべてのパスタ料理に、半分に切ったパンが2枚ついてきます。常連のお客さんは「パンなしで」とか「パン1枚で」といった注文をしています。
向田さん:残ったソースをパンにつけて食べてほしいんです。
── 向田さん、今回の出来はいかがでしょう。
向田さん:いやぁ、おいしくできています。
── 自分でつくってみようという読者のために、ナポリタンをおいしくつくるためのコツを教えてもらえますか?
向田さん:とにかく焦がさないことですね。それから、味見して濃いようだったら茹で汁ではなく牛乳を少し入れるといいでしょう。
撮影を終え、ナポリタンを口に運んだ平山カメラマンも「こりゃうまい!」とひとこと。と、あっという間に完食。
── 向田さん、もう一品、人気のメニューを作ってもらえませんか?
向田さん:「鮭と大葉の和クリームソース」はいかがでしょう。
── お願いします!
お店のもうひとつの看板メニュー
初代の父親は昭和50年、25歳のときにサラリーマンをやめ、自宅で喫茶店を開業したそうです。すぐに手狭になったので自宅が近所にある今の場所で営業を開始。
最初はまさに昭和の喫茶店という雰囲気でしたが、平成11年に建て替えて、カフェ風になったそうです。
ずっと父親と2人体制でやってきましたが、4年ほど前から二代目だけで営業しているのだとか。それまではナポリタンもバターを使ったやわらかい麺だったのを、2代目が改良し、今の形にしたそうです。
▲鮭と大葉の和クリームソース(750円)
── 和風だしがきいていて、鮭が麺にからむとおいしいですね。大葉はいいアクセントです。意外なほどパンも合います。これはこれで、好きな人はクセになる味ですよね。
向田さん:「鮭と大葉の和クリームソース」はうちでも大好評のメニューになりますね。お客さんのなかには、こればっかり注文する人もいます。ぜひウチにきたら、ナポリタンかこの和クリームソースを試してみてほしいですね。
麺は200gですが、パンもついているので、けっこうボリューミーですね。実はこの「鮭と大葉の和クリームソース」以外のメニューもいろいろいただきましたが、どれもここでしか食べられないひと工夫あるメニューでした。ぜひ試してみてください。
お店情報
SUN
住所:東京都台東区下谷2-3-16
電話番号:03-3875-4672
営業時間:10:00~23:00(LO:22:00)※15:00~16:00は休憩
休日:日曜日・連休の祝日
書いた人:下関マグロ
1958年生まれ。山口県出身。出版社、編集プロダクションを経てフリーライターへ。『東京アンダーグラウンドパーティー』(二見書房)、『歩考力』(ナショナル出版)、『まな板の上のマグロ』(幻冬舎)、に『ぶらナポ 究極のナポリタンを求めて』(駒草出版)など著書多数。