中島 郁 2018/10/10 7:00

ECサイトへの集客には、いろいろな方法があります。すぐに思いつくのはSEO対策やWeb広告、最近ではSNSでしょう。今回は、ECサイトの主な集客経路である「直接流入」、「自然流入」の基本とそれを実現するための「内部SEO・外部SEO」の基本などについて解説します。

本連載では、SEOやWeb広告のテクニックの詳細には、あまり触れません。他でもたくさん説明されていますし、すぐに新しい要素が出てきてしまうからです。逆に、時代が変わっても役に立つ「集客の基本」の考え方について説明します基本が分かっていれば、集客の施策作りに役立つばかりでなく、分析の際のツボとなる考え方も理解できます。また、新しい集客手段を採用するかどうかを判断する上でも役に立つでしょう。

立ち上げ直後のECサイトは「ド田舎の野原の真ん中の路面店」

新しいWebサイトに消費者を集客するのは大変です。どうやってその存在を知ってもらい、来てもらうか。新しいECサイトは、例えるなら「ド田舎の野原の真ん中の路面店」のようなもの。周りに何もありませんし、その店へ行く道もありません。誰もその存在を知りません。最初から集客力のあるECサイトなどあり得ないのです。

楽天市場やアマゾンなどのモールに出店するのは、プラットフォームとして便利だからということもありますが、売り上げを伸ばすための集客の問題が大きいのではないでしょうか。実店舗に例えると、駅ビルや本当のショッピングモールに出店するようなものです。

では、新しいECサイトへの集客は、どうすればよいのでしょうか?

「直接流入」、「自然流入」を増やすために、既存媒体や既存事業を徹底的に利用する

EC専業会社以外(実店舗や、ECに関連する既存事業を持っている会社など)は、まず、既存媒体や既存事業そのものを、ECサイトの集客に徹底的に利用してください。費用とタッチポイント/オムニチャネルの2つの点でメリットがあるためです。

既存媒体や既存事業を使って集客するというのは、簡単にいうと、店舗でECサイトのことを告知したり、店舗で配布しているチラシなどにECサイトについて便乗掲載したりすること。既存ビジネスで行っている広告などなので、新たに大きな金額をかけることなく、ほとんどの場合、スタッフのある程度の労力で実施できます。そのため、費用面では非常に効率がいいです。

既存事業や既存媒体を活用し、効率的にECサイトに集客する
実店舗
実店舗で配るチラシや店頭ポップ
既存事業の広告

新規のECサイトが集客のために広告を打つ場合、オフラインの広告にしても、オンラインの広告にしても大変高額です。そして、最初のうちは効果効率が想定できません。

オフライン広告は、例えば、TVCM、チラシ、雑誌広告、交通広告、DMなどさまざまな方法があり、時間も費用も掛かり、効果測定もあいまいです。また、直接的というよりも間接的な効果になりやすいです。例えば、TVCMはブランディングには良いが集客が難しい。一方、チラシは集客には良いが販売までには結びつかないなど、一長一短があります。

新規ビジネスで大きな費用をかけて広告を打とうと検討しても、よほどのビジネスプランがない限りは却下される企業がほとんどでしょう。小売企業の広告宣伝費は、昔から売り上げの2%台半ばと言われています。売り上げが少なければ、広告を出す出さない以前の問題です。よほどの資金回収計画がなければ、難しいでしょう。

少し前までは、オフライン広告は、オンラインビジネスにあまり効果がないといわれていました。昨今は、オンラインのサービスユーザーがマス化しているため、オンラインゲームやアプリを使ったビジネスにTVCMが多くなってきています。いずれにしても緻密な計画と初期投資がなければ難しい広告手法です。

ECサイトの認知を高める

既存媒体や既存事業を活用することは、ECサイトも使う可能性が高い既存の顧客、またはターゲット層にアピールできるので、集客面でも効果は高いと言われています。これは店舗の売り上げを取るとか取られるという問題ではありません。昔から、Webでも買う人は店ではもっと買ってくれるといわれていますし、事実です。いったんWebサイトに来る習慣ができれば、比較的簡単に店舗や商品の情報を既存顧客に知ってもらうことができ、購買機会や購買確率が上がるのです。

経営としての考え方で言うと、顧客には実店舗で買ってもらってもECサイトで買ってもらっても構わないはずです。売り上げや利益が増えればよいのですから。顧客の観点言えば、実店舗でもECサイトでも欲しいものがちゃんと買えればいいのです。まあ、社内の問題でいろいろあるのは想像がつきますが、既存媒体を使いこなせているかどうかが、既存ビジネスに関連したECの成功、不成功に大きくかかわります。

筆者はさらに踏み込んで、社員の名刺、業務封筒、会社制作の備品、名札、シャッター、看板などすべてのものにECサイトのURLを記載することをお薦めしています。アメリカでは、会社のロゴ自体をECのURLベースにしてしまった企業もあったほどです。

ECが上手くいってないとぼやく経営者こそ、この辺を徹底できていないことが多いのです。これらは、EC専業会社でも使える手法ですし、実際、成功しているEC専業会社は徹底しています。こうやって、少しずつ、野原の真ん中へ道を作っていったり、1ミリでも路面店を駅前通りに引っ張っていくのです。

ECサイトの認知を高めるために、会社の名刺や封筒などにもURLを記載!
名刺
名札
会社の封筒
会社の看板

これらはすべて、顧客との接点やタッチポイントを作る取り組みです。実店舗やECサイトに限らず、顧客とのタッチポイントが多ければ多いほど、顧客に自社の価値や情報を伝えることができ、購入決定率が上がるのは普通のことです。これを徹底できるかが、最初の課題です。

補足的な考え方を説明すると、これらは、ターゲットのユーザーに、自社サイトを認知してもらうためのベース作りです。何かの際に、自社のブランドやECサイトを思い出してもらって、サイトに来てもらうために必要なことです。既存媒体、既存事業を使うことは、それらから直接流入を増やすとともに、検索の過程で潜在的に認知している自社のサイトのこと気づいてもらい自然流入を増やすことです

1つ例を上げましょう。ある小売企業は、店舗は大変成功していますが、ECサイトはそれほどではありません。ある大雪の日、店舗への来店客が激減しました。しかし、ECサイトのアクセスと売り上げは前日と変わらず、雪の影響も店舗客減少の影響も受けていませんでした。この店舗を利用している顧客は、この企業は小売だからECサイトも運営していると思っていたかもしれませんが、雪で店舗に行けない時に、この店のECサイトを想起すらしなかった。そして、より認知している他のECサイトへ行ってしまった。要は、この企業のECのことは顕在的に認知されていなかったし、潜在的認知も弱かったため検索の過程でも気付いてももらえず、直接流入も自然流入も増えず、雪の日のECの売り上げが伸びなかったのです。

認知をしてもらうには、「優良なコンテンツ×顧客との接触(接点×頻度)」が必要です。これらを実行するために、利用できる媒体やツールをできるだけ使い倒すことが重要です。

ECサイトの集客における、本来の意味でのSEOとは?

自然流入を増やすためには、検索エンジンとどう向き合うかです。そのためには、SEO(検索エンジン最適化)が必須です。SEOというと、テクニカルなことばかり話題となりますが、サイトのコンセプトや位置付けをはっきりさせて、それに向けてMDや情報、コンテンツを作り込むことが、本当の意味での集客対策です。

実店舗などでは、店の中でMDや情報、コンテンツを作り込むようなことをいくら徹底しても、自動的に外部に伝わり、集客につながるようなことはありません。しかし、Webサイトは、掲載された情報やコンテンツを検索エンジンなどが見つけて、検索結果に提示してくれます。

検索サイトのミッションは、「検索サイトに訪れたユーザーが探している、的確で優良な情報を素早くユーザーに提供すること。」です。検索サイトが上位表示するサイトとは、検索エンジンが、優良なサイトとみなすサイト。優良なサイトとは、優良なコンテンツを持つサイトです。具体的には、基本的に以下の要素を備えているサイトです。

  • 情報量が多いサイト
  • 主にテキスト情報
  • 文字情報が多い(5000文字以上が目安と言われる)
  • 掲載期間が長い
  • 掲載されている情報が、サイトのメインコンテンツとして使われている。
  • 他のサイトからリンクがたくさん貼られている。(外部SEO要因)

サイトのコンセプトや位置付けに向けて、MD、情報、コンテンツを作り込むことで、これらは実現されるのです。これらをコツコツ継続的に行うことが、SEO(Search Engine Optimization  検索エンジン最適化)対策です。

ECサイトの内部SEO対策

作り込んで掲載した情報、コンテンツを検索エンジンに認識してもらいやすいように、サイトの作りなどを工夫します。それが、内部SEOです。

内部SEOは、titleタグ、meta、見出しタグ、alt属性、リンクの設置、XMLサイトマップなど多くの対策があります。以前は、meta情報やtitle、altなど、数多くの関連するキーワードを掲載することが多かったですが、現在は、過度なキーワードの掲載は、アルゴリズムにスパムと判定されるリスクがあります。

ちなみに、SEO対策の基本的な考え方は変わりませんが、検索順位の基準(アルゴリズム)は、事前の告知もなく、かなり頻繁に変わるので、検索サイトの情報ページなどにアンテナを張り巡らす必要があります。過去にも大きな変更があり(Googleのペンギンアップデートなど)、検索順位が大幅に下がったり、売り上げが減少したECサイトもあります。

しかし、基本的なコンテンツの作り込みを行っていたサイトは、それほど影響を受けなかったと言われています。要は、本来のサイトの作り込みや磨き上げよりも、検索エンジン対応と言われるような小手先のSEO対策に比重を置いたECサイトが影響を受けたということです。

外部SEO対策

外部SEO対策とは、サイト外部から質の高いリンクを貼ってもらう(被リンク)ような対策を指します。関連する内容で、質の高いコンテンツからの被リンクの獲得数などを検索エンジンのアルゴリズムが分析し、優良なサイトを判定したうえで、検索結果の上位に表示します。

昔は、手作業やシステムで外部リンクを大量に貼ることで報酬をもらう業者がたくさんいました。サイト運営者側に手間がかからないため、非常に人気でしたが、現在では金銭によるリンクの獲得を検索エンジンがスパム行為と判断し、ペナルティを課すため、行われなくなりました。ペナルティを受けると、検索エンジンのインデックスから削除される、検索結果から除外されるなど、集客には致命的です。

最近は、コンセプトに合ったコンテンツを作り込み、SNSなどを活用して情報を発信したり、オウンドメディアを作ったりしてリンクを獲得していく手法が外部SEOの考え方になっています。

サイト内部SEO
コンテンツを検索エンジンに認識してもらいやすいように、サイトのつくりなどを工夫する
外部SEO
サイト外部から質の高いリンクを貼ってもらう。SNSやオウンドメディアなどで情報を発信し、リンクを獲得する手法も
サイトのコンセプトや位置付けをはっきりさせ、それに向けてMDや情報、コンテンツを作り込むことが本当の意味での集客対策です

ページの「リンク切れ」が集客における一番の悪

別の回でも説明しましたが、筆者は集客に対し、サイト内の「リンク切れ」が一番悪影響と考えています

筆者は、リンク切れの部分を、実店舗でいうと「棚が倒れている状態」と考えています。そして、お客さまは不安を感じ、それ以上の利用や再訪問をしなくなるかもしれないと口を酸っぱくして言ってきました。

また、ECサイトにリンク切れがあると、検索にひっかかりにくくなります。それは、検索エンジンが、そのリンク以降のコンテンツをクローリング(サイトの情報収集のこと)できないし、リンク切れが多いサイトを優良なサイトとはみなさなくなるからです。

このように、リンク切れ対策は大切で、運用の中で対策していきます。運用の質を上げていくということは、集客だけに限らず、すべてのファンクションに重要なことです。

集客の構造とコストを理解する

ある程度、集客が進みアクセスが増えてきた段階で、その集客やアクセスが何によってもたらされているかを把握してください

集客経路は一般に「自然流入」「SEO」「Web広告」などに分けられるかと思います。採算を合わせるには、広告宣伝費などを売り上げの何%にするなどの基準を成長にあわせ作っていく必要があります。

すべての売り上げをWeb広告経由で上げていては、コスト構造が変わっていってしまいます。実店舗の小売企業の広告宣伝費は、売り上げの2.5%くらいと言われています。Web広告のKPIに使われるROAS(広告費用対効果)は1000-2000%でも評価は高いといわれます。これは、Web広告経由の売り上げの5-10%がWeb広告宣伝費だということです。

もちろん、ECビジネスの全ての売り上げをWeb広告経由で上げるわけではありませんし、実店舗の広告費用の基準がいいわけでも、立ち上がり期から頑なな基準を持てばいいわけでもありません。ただ、Web広告以外の広告宣伝、マーケティング費用も掛かっています。自社のビジネス構造、コスト構造を考え、成長に合わせ広告宣伝費を売り上げのどのくらいに設定したうえで、何からの集客でいくらの売り上げを上げていくかを想定してください。

本連載では、一貫して、目先や流行りのツールソリューションではなく、ECビジネスの基本を磨き上げることが成功の早道だと言ってきましたが、集客はその最も分かりやすい部分だと考えています。

◇◇◇

次回は、ECの「メルマガ」について、考え方の基本や活用法などを解説します。

この記事が役に立ったらシェア!
これは広告です

ネットショップ担当者フォーラムを応援して支えてくださっている企業さま [各サービス/製品の紹介はこちらから]

[ゴールドスポンサー]
ecbeing.
[スポンサー]