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エレベーターの歴史

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都市の景観を一変させたエレベーター

エレベーターという装置の歴史は実は古く、古代ローマの時代に遡ります。

しかし、エレベーターが人類の歴史に大きく貢献し始めるのは20世紀に入ってから。

安全で安定したエレベーター技術の確立は、超高層ビルの建設を可能にし、ニューヨークの摩天楼の風景を作り上げました。

ただし「安全で安定した」エレベーター技術は、技術者の長年の試行錯誤によって発展してきました。

 

 1.原始的なエレベーター

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古代ローマのエレベーター

古代ローマの建築家ウィトルウィウスの著作によると、史上初のエレベーターは紀元前236年、シチリアの数学者アルキメデスの発明によるものだそうです。

アルキメデスは、「アルキメデスの原理」や「アルキメデスの熱光線」で有名な古代世界最大の発明家です。

この原始的なエレベーターは、箱型の乗り物に人が乗り込み、人力で垂直上下に繋がった麻のロープを手繰って上下移動するというもの。主に水や建材などの重い荷物を持ち上げるために使用されていました。

おそらく建築現場や戦場で使われたもので、住宅などで使われることは想定していません。エレベーターは長年物資の運搬のために使われ、人の往来を目的とするものではありませんでした。

 

ヴェルサイユ宮殿の「フライングチェア」

初めて「人用エレベーター」が住居に用いられたのは、フランスのヴェルサイユ宮殿。

プレイボーイで名高いルイ15世は、頻繁にお忍びで恋人のマダム・ド・シャートルーに会いに行っていたのですが、夜影に隠れて部屋に向かうも体型で誰かすぐにバレてしまって体裁がよくないし、何よりしんどい。

そこで1743年、密封したキャビネットの中に入りロープで引っ張ると、マダムの部屋にすぐに行けるという装置、通称「フライングチェア」が発明されました。

ルイ15世はこの装置が大層お気に入りだったそうで、ヴェルサイユ宮殿の離宮である小トリアノン宮殿の食堂にも設置し、食事時になると大広間からエレベーターを使って地下室に降り、お付きの者の監視から逃れて食事を楽しんだそうです。

 

2. 蒸気式エレベーターの登場

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繊維工場用のエレベーター「テーグル」

産業革命により大量生産ブームが到来し、工場では大量の材料を一気に移動する必要に迫られました。しかし人力でやっていてはコストばかりかかってしょうがない。

そこでイングランドの発明家ウィリアム・ストラットは、蒸気エンジンを活用したエレベーター「テーグル(Teagle)」を発明しました。これは分銅巻を利用し、蒸気によってベルトを駆動させ人や物を乗せた昇降機を垂直に移動させるというもの。

このアイデアは1835年にFrost and Stutt社によって一般に販売されました。

テーグルによって石炭や木炭を大量に短時間で運ぶことを可能にし、効率が格段に上がったのでした。

 

エンタメにも活用されるエレベーター

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おそらく世界で最も早いと思われるエレベーターのエンタメ利用が、1823年にロンドンのリージェントパークに観光用に作られた展示物に導入されたもの。

イギリスの建築家、バートンとホルマーはローマのパンテオンを模した展示物を造り、観光客に都市のパノラマを楽しんでもらうために、有料で「エレベーター」に乗らせて120フィート(36メートル)以上の高さに運搬したそうです。

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3. 安全性を追求した19世紀の技術革新

 19世紀半ばからエレベーターは技術革新がどんどん進んでいき、アメリカを中心に「エレベーター産業」が高度に発達していくことになります。しかしながら、19世紀はまだまだエレベーターは安全で安定した乗り物ではなく、人々に安心して使ってもらうための技術革新が進んでいきました。

 

ワイヤーロープの導入

これまでエレベーターを支えていたケーブルは大麻のロープで、摩耗により擦り切れやすく、突如切断してエレベーターのかごが落下する事故が起きる可能性があり、事故を恐れてあまり乗りたがらない人が多かったそうです。

この問題をクリアしたのは、ボストンにあるジョージ・H・フォックス・アンド・カンパニー。技術者のフォックスは、1841年にジョン・ローブリングによって発明されたワイヤロープの強度に注目。いち早く採用しました。

 

油圧エレベーターの発明

1846年、後にアームストロング砲で有名になるウィリアム・アームストロング卿によって油圧クレーンが発明されました。アームストロング卿はこれを改良し、油圧エレベーターを作り、工場や鉱山などで利用され始めました。

油圧式は油圧ジャッキに作動油を送り込んで油圧でかごを持ち上げる仕組みで、蒸気駆動のロープ式エレベーターよりも取り扱いも安全だし、何よりスピードが出せるメリットがありました。しかし油圧式は建物が高くなると上部に油圧が届きづらくなる欠点がありました。そのためロープ式がこの時代はまだ主流でした。

 

ダイアグラム(巻き上げ機)とウォームギア

初期のエレベーター製造業者で、ニューヨークを拠点にするヘンリー・ウォーターマン社はダイアグラム(巻上機)を採用したエレベーターを開発しました。
上に行く場合、ダイアグラムがロープを巻き取り重りが下がることでかごが上がり、下に行く場合はダイアグラムがロープを巻き戻し重りが上がることでかごが上がる仕組みです。 

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先述のボストンのジョージ・H・フォックス・アンド・カンパニーはウォーターマン社と似た発想ながら、独自のウォームギアを取り入れたプラットフォームを採用しました。

 

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ウォームギア方式はブレーキを必要としないというメリットがあり、ウォームギアと回転する平歯車との間の摩擦により、停止時のかごの揺れを防ぐという点も優れていました。しかし大量の動力を必要とするという欠点もありました。

 

落下防止装置の登場

まだまだ技術的な問題が多かったエレベーターの安全性を飛躍的に高めたのが、アメリカの技術者エリシャ・オーティス。

彼はジョージ・H・フォックス・アンド・カンパニーのプラットフォームを元にして、逆転止め歯形による落下防止装置を取り付けた蒸気エレベーターを完成させました。

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1853年、クリスタルパレスで開催されたニューヨーク万国博覧会にて、オーティスは来場客が見守る中、吊り上げたエレベーターの綱を切ってみせました。エレベーターは数センチ落下しただけで止まり、このシステムがいかに安全であるかを人々に知らしめました。

▽会場にいるギャラリーの「オー」という歓声が聞こえてきそうです

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オーティス・エレベーター・カンパニーには引き合いが相次ぎ、マンハッタンにあるデパートに最初の公共エレベーターが設置されました。

1868年に建てられたリバプールのオリエル・チャンバースというビルは、初めて金属フレームのガラスカーテンウォールを取り入れたビルですが、オフィスビルとして初めてエレベーターも設置されました。

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Photo by  Rodhullandemu

アメリカでは、1870年に完成したニューヨークのエクイタブル生命ビルが初めてオフィスビルとしてエレベーターを備えました。

 

 

4. エレベーター製造業の発展

最大の問題だった「安全性」をクリアしたエレベーターは、19世紀後半から20世紀前半にかけて大きな進歩を遂げていきます。

 

油圧式エレベーターの復活

1870年代後半には、ウィリアム・アームストロング卿とフランスのレオン・エドゥーの協力によって油圧式エレベーターが復活しました。レオン・エドゥーは1867年のパリ博覧会でスピードと停止の正確性を兼ね備えた「安全な油圧エレベーター」を実演。

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アームストロング卿は液体の圧力を蓄える装置であるアキュムレーターを開発することによって、高い建物の上部に油圧が届きにくくなる欠点を克服しました。

 

電気式エレベーターの発明

ドイツの製造複合企業・シーメンスの創業者で発明家のヴェルナー・フォン・シーメンスは、1880年に初めて「電気式エレベーター」を設計しました。このアイデアはパリの博覧会で発表され、これにインスピレーションを受けたオーストリアの技術者アントン・フレイシャーは独自のプロトタイプを開発し、1883年のウィーン博覧会で発表しました。

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Photo by Gryffindor

 

アメリカの海軍士官で発明家のフランク・スプレイグは、フレイシャーのプロトタイプを元に改良を加え、階床制御の自動式エレベーターや安全上のかごの加速度制御などの機能を備えたエレベーターを販売しました。

スプレイグ社のエレベーターはこれまでの蒸気や油圧によるエレベーターに比べ、高さに制限がなく使え、搭載能力も大きく、スピードが出る製品でした。

タイミングよく水力発電の技術が確立してアメリカやイギリスの都市部では安定的な電力供給が可能になっていたため、スプレイグ社の電気式エレベーターは急速に普及することになりました。

なお、スプレイグ社は1895年にオーティス・エレベーター・カンパニーに買収されました。

 

20世紀のエレベーターの発展

エレベーターの安全性が担保され、高い建築物にも対応できるようになったため、1920年代以降超高層ビルや高層マンションが次々と建築されエレベーター産業は活況を呈しました。

エンパイアステートビルやクライスラービルなど、ニューヨークのシンボル的なビルが建設されたのは1930年代初頭のことです。

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戦争が終結して住宅市場が沸いた1940年代後半~1950年代には、さらなる安全性を追求した機能が採用されました。1900年には自動エレベーターが利用可能でしたが、故障した時に閉じ込められる恐怖が強くあり、オペレーターが同乗してエレベーターを操作するやり方が一般的でした。

しかし住宅になるとわざわざ有人にもできないため、緊急停止ボタンや、故障の際にオペレーターと電話が繋がる緊急電話が採用されました。これにより、万が一エレベーターに閉じ込められても「誰も助けに来ない」ような恐怖からは解放されることになりました。

1960年~1970年代には、磁石インダクタを用いた上げ下げ、グループ制御、ローラーガイドを用いたかごの安定化などスタンダードになっていきました。

20世紀末には、コンピューター統合制御装置やLED、集積回路、スマートシステムが普及しました。

現在ではエレベーターが快適で安全であることはもちろん、乗る人やビル経営者にプラスアルファの価値を提供する技術やアイデアが発展を続けています。

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まとめ

 かなりざっくりですが、エレベーター発展の流れが分かるかと思います。

エレベーターがあって初めて大都会の高層ビル群は成立するので、エレベーターはまさに都会の風景を作った立役者と言っていいと思います。

今回はアメリカ中心の記述ですが、日本だと少し状況は違いますよね。

東京は19世紀後半にはエレベーターが導入されたものの、一般的になったのは結構最近なのではないかと思います。さすがにオフィスビルでエレベーターがないビルはほぼありませんが、高度経済成長期に建てられた公営住宅にはエレベーターがないものが多いです。いまもエレベーターがない5階建てのアパートとか、ごろごろありますし。

地方の駅にエレベーターが設置されるようになったのも、調べてないので憶測ですが、1990年代後半から2000年代前半にかけてではないでしょうか。

エレベーターはようやく最近我々の生活に身近なインフラになりつつあるのだと思います。

凄いぞ! エレベーター

凄いぞ! エレベーター

 

 

 

参考サイト

"Who invented the elevator?" HISTORY

"The Flying Chair" This is Versailles

"History of Elevators" elevatorhistory

"WHO INVENTED THE ELEVATOR?" TODAY I FOUND OUT

"History of Elevator Technology" LANDMARK ELEVATOR, Inc.

Elevator - Wikipedia